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蝋人形と暮らしています

実はあのとき行正は……

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 お飾りの妻より関係性が深くなるだろう使用人たちをまず選定しなければ、と思っていた行正だったが。

 咲子と会ってからは、

 ……使用人も屋敷で一緒に暮らすのか、とちょっと憂鬱になっていた。

 新婚なのに、二人きりではないのか。

 いらないくないか? 使用人。

 使用人を雇いたくないという話を咲子のばあやにすると、ばあやは笑い出した。

「あらあら、まあ、そうですね。
 三条様がご用意してくださったほどのお屋敷。

 若い人たちだけの住まいと言っても、住み込みの使用人は必要ですよ」

 咲子とふたりきりで暮らしたい自分の心を読まれている気がして、ちょっと恥ずかしかったが。

 あたたかみのある感じのいいばあやだった。

 さすが我が妻を育てたばあや、と行正は、ばあやを密かに尊敬していた。

 結局、使用人たちは基本、通いだけとし。

 年配のやり手の女中だけを住まわせることにした。

 夜はふたりきりで過ごしたかったからだ。

 そうでないと、こいつ、俺を無視して、仲のいい女中とばかり話しそうだからな、と行正は思っていた。

 そういえば、初めてこの屋敷を咲子に見せたとき、少ししか見せまいと思っていたのに、咲子は奥の方まで見学したいと言ってきた。

「……奥の方も見たいか」

 そう言いながら、行正は思っていた。

 見るのか。

 まだ、結婚後のお楽しみにとっておきたいんだが。

 寝室とか可愛いぞ。

 ……それにしても、今日は人気のないこの屋敷に二人きり。

 だが、まだ手を出さないようにしなければな。

 結婚前に、おかしなことをして逃げられたら困る。

「あの、私、お気に入りのピアノがあるのですけれど。
 こちらに運んでもよろしいですか?」

 日当たりの良いサンルームで、自分を振り向き、満面の笑顔で咲子が言う。

 ――なんと可愛らしいのだっ。

 ほんとうにお前を俺の妻にしてもいいのかっ?

「あ、藤棚枯れちゃってますね。
 植え直してもらってもいいですか?」

 ――そんなところまで気が回るとはっ。

 なんと気の利く妻だっ。

 ほんとうにお前を俺の妻にしてもいいのかっ?

 そう思いながら、行正は無表情に頷く。

 無愛想な自分に咲子はちょっと怯えているようだったが。

 出会ってまだ数日しか経っていないのに、咲子を溺愛していることを知られる方が恥ずかしい。

 お前に俺のこの心の声が聞こえていなくてよかった――。

 心の底から行正はそう思っていた。
 


 今、見送りに出てきてくれている咲子を見ながら行正は思う。

 俺の妻となってから、咲子はさらに輝くばかりに美しい。

 清六以上の色男を側に置くとかとんでもない。

 咲子を見れば、男はみんな咲子を好きになってしまうだろうから。

 そんな、美世子や文子や弥生子や美佳子に、いやいやいや、と手を振られそうなことを行正は真剣に考えていた。

「行ってらっしゃいませ」

 振り返った自分に咲子が言う。

 口を開けば、らしくもなく愛をささやいてしまいそうになるので、行正は無表情に、こくりと頷いた。


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