大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ

文字の大きさ
15 / 44
蝋人形と暮らしています

咲子の愛読書

しおりを挟む
 
 食事をしながら、行正は、まだ悩んでいた。

 悩みながらも、ちょっと妻、咲子に話しかけてみる。

「ところで、お前は昼間、なにをしているんだ?」

「はあ、いろいろ。
 えーと、本など読んでいます」

 なにかいろいろ含みのある口調だったから、なんかしょうもないことをいろいろしてるんだろうなと思う。

 ほんとうにこの妻は、顔を見ているだけで、考えていることがわかる。

「どんな本を読んでいるんだ?」

 えっ? と咲子は驚いた顔をする。

 私になど興味ないでしょうに、何故、そんなことを訊くんですか?
という顔だった。

「は、流行りの探偵小説や……
 婦人向けの雑誌ですかね?」

「ほう、面白いか」

 面白いです、と言う咲子に、
「では、俺も読んでみようか」
と言うと、ちょっと嬉しそうだった。

 ちょうど食べ終わっていた咲子は立ち上がり、いそいそと本を持ってくる。

「どうぞ。
 『婦人画報』と『主婦之友』です」
と渡してくる。

 いや、そこは探偵小説では……っ!?
と思いながらも、

「ありがとう。
 読んでみよう……」
と行正はそれを受け取った。
 


 次の日の朝、咲子が起きると、行正はいなかった。

 自室で眠ったのかな? と思っていると、やってきて、咲子に昨夜の本を返してくる。

「お前のお薦めの本。
 歯を食いしばって読んだぞ」

 ……いやあの、そこまでして読んでくださらなくても結構なんですけど、と苦笑いしながら、咲子はそれを受け取る。

 自分の愛読書は、彼にはつまらない本だったようだが。

 夜中起き出して自室に行き、わざわざ読んでくれるだなんて。

 私のことを理解してくれようとしている気がして、ちょっと嬉しいな、と咲子は思った。

 まあ、行正からは、

『いくら莫迦嫁とは言え、嫁。
 少しは歩み寄らないとな』
という心の声が聞こえていたのだが。

 ――でも、少し嬉しかった。

 
 ようしっ。
 莫迦嫁なりに、なにか頑張ってみようっ。

 行正さんの心遣いに応えなければ、と咲子は張り切る。

 そうだ。
 お料理教室に通ってみるとか、どうだろう?

 自分で食事を作ることなんて、まずないし。

 そんなことしたら、雇っている料理人に悪い気がするけど。

 教養として必要だというので、女学校でも少し習ったし。

 女学校の先輩たちから、自宅でシェフを招いて、西洋料理の教室を開いているから、一緒にどう? と誘われたこともある。

 よしっ。
 文子さんたちを誘って行ってみようっ。

 そんなことを考えていたら、なにかすごく楽しくなってきて、咲子は笑顔で行正を見送れた。

 すると、行正も笑う、までは行かないが、いつもより穏やかな顔で出かけていった。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

後宮の幻華 -死にかけ皇帝と胡乱な数日間ー

丹羽 史京賀
キャラ文芸
 瞬 青波は大昔に滅んだ王族の末裔で、特殊な術を受け継いでいた。  その術を使い、幼馴染みで今は皇帝となった春霞の様子を見守っていたが、突然、彼に対して術が使えなくなってしまう。  春霞が心配で、後宮で働き始める青波。  皇帝が死にかけているという話を聞くが、相変わらず術は使えないまま……。  焦る青波の前に現れたのは、幽体となった春霞だった!?  こじらせ皇帝×ツンデレ術師=恋愛コメディ

熱のない部屋で

中道舞夜
ライト文芸
合鍵預かってくれない?から始まる同期との恋。もどかしい純愛ラブストーリー

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

距離感ゼロ〜副社長と私の恋の攻防戦〜

葉月 まい
恋愛
「どうするつもりだ?」 そう言ってグッと肩を抱いてくる 「人肌が心地良くてよく眠れた」 いやいや、私は抱き枕ですか!? 近い、とにかく近いんですって! グイグイ迫ってくる副社長と 仕事一筋の秘書の 恋の攻防戦、スタート! ✼••┈•• ♡ 登場人物 ♡••┈••✼ 里見 芹奈(27歳) …神蔵不動産 社長秘書 神蔵 翔(32歳) …神蔵不動産 副社長 社長秘書の芹奈は、パーティーで社長をかばい ドレスにワインをかけられる。 それに気づいた副社長の翔は 芹奈の肩を抱き寄せてホテルの部屋へ。 海外から帰国したばかりの翔は 何をするにもとにかく近い! 仕事一筋の芹奈は そんな翔に戸惑うばかりで……

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

課長のケーキは甘い包囲網

花里 美佐
恋愛
田崎すみれ 二十二歳 料亭の娘だが、自分は料理が全くできない負い目がある。            えくぼの見える笑顔が可愛い、ケーキが大好きな女子。 × 沢島 誠司 三十三歳 洋菓子メーカー人事総務課長。笑わない鬼課長だった。             実は四年前まで商品開発担当パティシエだった。 大好きな洋菓子メーカーに就職したすみれ。 面接官だった彼が上司となった。 しかも、彼は面接に来る前からすみれを知っていた。 彼女のいつも買うケーキは、彼にとって重要な意味を持っていたからだ。 心に傷を持つヒーローとコンプレックス持ちのヒロインの恋(。・ω・。)ノ♡

処理中です...