大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ

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蝋人形と暮らしています

新婚生活、どうなのよっ?

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 数日後、早速呼んだ美世子たちが屋敷を訪れた。

 何故でしょうね?

 一番仲がよくなかったはずの美世子さんの顔を見ると、一番、女学校時代が蘇ってくる感じがするのは。

 一番、印象が強かったからでしょうかね?
と咲子は苦笑いする。

 お庭でのガーデンパーティにしたのだが、美世子は庭の花や背もたれの部分が繊細な葡萄の蔓柄になっている青銅色のガーデンチェアにあれこれ言いながら、はしゃいでいた。

 ちょっと騒がしすぎて、みんな引き気味になっているが。

 まあ、みんな楽しそうでよかった、と思いながら、行正の母が取り寄せてくれた英国の紅茶を飲む。

「素敵ですわ」
「さすが三条家のお屋敷ですわね」
と庭を眺めて友人たちが言ったとき、美世子が、ずい、と身を乗り出し、訊いてきた。

「行正さまはまだ帰ってらっしゃらないの?」

「……帰るわけないじゃないですか」

 まだ昼間ですよ。

 っていうか、なにしに来たんですか。

 美世子さんも新婚ですよね? と思ったのだが。

 美世子の目には、心を読むまでもなく、
『行正さまの美しいお顔を拝みたい』
と書いてあった。

「で、行正さまとの新婚生活はどうなの?」
と美世子に訊かれ、少し離れたここまでいい香りを届けてくれる薔薇を眺めながら、咲子は溜息をつく。

「どうなのもなにも、すぐに捨てられそうな気がします」

 すると、美世子は喜んだ。

「そうなのっ?
 何故?

 どうしてっ?」

 ……いや、美世子さん、そんなあからさまに、と思いながらも咲子は言った。

「行正さんは、さっさと子どもを作って、私をポイ捨てしたいんですよ。
 おかげで、毎晩もてあそばれて……」

「なにそれ、惚気のろけっ!?」
と美世子が立ち上がるので、咲子も立ち上がる。

「そうじゃないですよっ。
 行正さんは、ほんとに三条家の跡継ぎを早く作って、私から自由になりたいだけなんですよっ。

 毎晩、そう言ってますもんっ」

 まあっ、お可哀想にっ、と美世子以外の純粋な友人たちが青ざめて震える。

 いや、美世子が純粋でない、と言っているわけではないのだが……。

「行正さまが?
 そう言ってるの?」

 ちょっと不審げに美世子はそう言った。

「行正さまって、確かに女性にお優しくはないけど。
 わざわざベラベラそんなことしゃべって怯えさせたりするような方ではない気がするんだけど」

 いえですから、そこのところは、私が聞いてしまった、心の声なのですけどね。

 まあ、確かに、口では余計なことは言わない人ですよね。

 心の中では言ってますけど。

 ……それにしても、外でも女性には優しくないのですね。

 そう聞いて、咲子はちょっとホッとしていた。

 あまり女性に人気の夫も困る、と思っていたからだ。

「そうなのですか。
 行正さまって、遠くからしか拝見したことないのですけれど。

 お優しくはない方なのですね」

「女性に気を使われない方は、今の時代、ちょっと……」
と友人たちの間で、行正の評判がいちじるしく下がってしまった。

 それも申し訳ない気がしてきて、慌てて、咲子はとりつくろう。

「で、でもあの、車に乗り降りするときなどには、いつも、さっと手を貸してくださるんですよ」

 そこに、やはり行正を悪く言われたくない美世子が加勢する。

「それに、なんといっても、美しいあのお姿。
 お側に並んで立つのが嫌になるくらい神々しいですわっ」

 だが、
「さっと手を貸すのは当然ですわ」

「側に並んで立つのが嫌なくらい美しい殿方も困り物ですわね。
 咲子さまなら、問題ないでしょうけれど」
と言われてしまう。

 一度、悪くなった印象、良くするの難しいっ、と咲子は更に言いつのった。

「車に乗るとき、手を貸してくださるだけじゃなくて。
 たまに、ひょいとお姫様抱っこでベッドまで運んでくださったりしますよっ」

 いや、無表情にやるので、ちょっと怖いんだが……と内心思っていたが。

 友人たちは、案の定、
「素敵。
 異国の王子様みたいですわね」
とうっとりと言いはじめる。

 だが、そこで、共闘していたはずの美世子がキレた。

「ちょっと、なに惚気てんのよーっ」

 ええーっ!?

「どうせ、うちなんて、忙しくて、いつも旦那様いないしっ。
 昔気質かたぎな人なんで、お姫様抱っこどころか。
 車乗るとき、手を貸してもくれないわよーっ」

 私、やっぱり、行正さまと結婚するーっ、と美世子はわめき出す。

「いやいやいやっ。
 行正さんこそ、ちゃんと口での会話が成り立たない蝋人形ですよっ」

 行正が聞いていたら、
「……お前、俺を上げたり落としたり忙しいな」
と言ってきそうだったが。

 そのとき、お茶を飲みながら、珍しく沈黙を守っていた文子がカップを置いて言った。

「私、輿入れが決まったのですけれど」

「え? あ、おめでとうっ」

「そうなの?
 あら、おめでとう」
と美世子と言ったが、文子に、

「……なにかお二人のせいで、結婚生活に不安しかなくなりました」
と言われてしまう。

 いやいや、ごめんって、と美世子と二人、謝り、なんとか結婚生活の良い面をほじくり出して語ってみた。

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