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もう終わりです……

ウエディングドレスらしきものを着ています

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 海里の会社のビルの上で、海里がマントをひるがえし、笑っていた。

「かかったな、あまりっ」

 高所恐怖症のはずなのに、一緒にビルの上に立っているあまりは、ウエディングドレスらしきものを着ていて、海里に手を差し出し言う。

「はい。
 罠にかかっちゃいました」

 海里は少し笑って、あまりの手を取る。

 騎士のように片膝をつくと、あまりの手に月に輝く指輪をはめてくれた。

 ……そ、それ、盗んだものじゃないですか?
と如何にも怪盗という風情の海里に思いながらも、あまりは海里の口づけを受けた。

 


「ああっ。
 ファミ子さんっ。

 その指輪っ」

 次の日、職場に行くと、桜田ファミ子の手に昨日夢で見たような指輪が光っていた。

「さ……先を越されました」

 桜田の少し浮かれたような様子から言って、間違いないだろう、と思っていると、秋月が、
「ようやく食事に行ったばかりなのに、また思い切ったわね、寺坂さん」
と言っている。

「いえ、寺坂さんが、自分は不器用な人間なので、幾ら頑張っても、素敵なデートに連れていったりとか上手く出来そうにないけど。

 素敵な家庭なら、頑張って作りたいからとおっしゃって」

「さすがは寺坂さんですね」

 真摯で不器用な寺坂と一途な桜田ならきっと素敵な家庭が出来るな、と微笑む。

 実は、ああ見えて、海里さんも一途で不器用なんですけど、と口に出したら、秋月に、
「なにのろけてんのっ」
と言われそうなことを思っていると、秋月が、

「あーあ。
 ファミ子がファミ子じゃなくなっちゃうじゃない」
と文句を言い出した。

「寺坂じゃ、寺坂ファミリアにはならないじゃないーっ。
 ていうか、あんた、仕事辞める気じゃないでしょうね」

「いえ、辞めません。
 でも、夫婦で同じ部署というのはあまりないので、また総務に戻るか。

 何処か移動になるかもしれませんが」

「あら、総務。
 いいじゃないの。

 来なさいよ」

 いきなりした声に、桜田は、ひっ、と身をすくめる。

 草野が立っていた。

「また、たっぷりしごいてあげるわよ」
と桜田の肩に手を回し、顔を寄せて言っているが、本気でないのは伝わっているのだろう。

 秋月も笑っていた。

「お祝いしなきゃいけませんねー」
と寝ているのかと思った室長がしゃべり出す。

「そうだ。
 一泊旅行とかどうですか」
と秋月が言い出した。

「リフレッシュ休暇を使っての部署の旅行、今年、まだ行ってませんし」

「あ、いいなあ。
 私も行きたい」
と草野が言うと、

「自分で金払うのなら来てもいいわよ」
と秋月が言っていた。

 その様子を見て、桜田が笑う。

「変わりましたね、草野さん。
 女子社員の結婚が決まると嫌がらせがひどくなるって聞いてたのに」

 そう言いながら、指輪をケースにしまって、引き出しに入れていた。

「あれ?
 はめとかないんですか?」
と言うと、桜田は照れたように、

「だって、なくすと嫌だから。
 あと、水仕事のときに汚したくないから」
と言う。

「あーあ。
 桜田も居なくなるのか。

 あまりも居なくなるのに。

 次に、あんたとか来たら、どうしたらいいの?」
と秋月は草野に面と向かって言っている。

「いいじゃないですか。
 来てみたかったんですよ、秘書室。

 何処かの男前の若社長とか尋ねてくるかもしれないじゃないですか」

 ふふん、と鼻で笑って言う草野に、秋月は、
「ハゲたおっさんと脂ぎったおっさんしか来ないわよ」
と夢も希望もないことを言っていた。

 いや……ハゲたおっさんも脂ぎったおっさんも頑張って働いてらっしゃると思いますけどね、と思っていると、桜田が、
「そうか。
 あまりさん、もう居なくなるんですよね」
と寂しそうに言う。

 草野が、
「なに言ってんのー。
 すぐそこのカフェに居るんでしょ。

 いつでも行けるじゃないの。
 いや、行くわよ、成田さん見にっ」
と桜田に言っていた。

 いや……それ、最早、私は関係ないですよね、と思っていると、誰かが、草野が開けたままだったドアをノックしていた。

 すっきりした男前がスーツを着て立っている。

「やだっ。
 来るじゃないの、若いイケメンッ!」
と草野があまりの腕を握りながら言ってくる。

 私、やっぱり秘書に来ますっと勝手に決めて、秋月に、
「やだ」
と言われていた。

 ……あれ?

 この顔、何処かで見ましたよ、と思っていると、秋月が、ドアのところに行き、
「どうしたんですか? 大崎さん」
と言っていた。

「いや、今度の株主総会のことで、海里にちょっと……」
「おっ、大崎さんっ!?」

「やあ、あまり」
と大崎が手を挙げる。

「どうしたの、愉快な顔して。
 ああ、いつもか」
と笑う。

「いや、だって、化粧してな……」
と言いかけ、口を塞がれる。

 知っているらしい秋月が笑っていた。


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