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箱から覗いてみました……

特に知りたくなかった真実

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 ……いや、私が好きなのは、海里さんの雰囲気とかですね。

 いや、顔も好きですが。

 ……好き。

 好きなんですかね?

と往生際悪く思いながら、あまりはカフェに戻った。

「あまりちゃん、外ー」
と言われて、はいはい、とテラス席に行くと、通りの方を見て座っているトレンチコートの男が居た。

 その後ろ姿を見たとき、どきりとしていた。

 似てる、と思ったからだ。

 水の入ったグラスとメニューを置こうとしたとき、男が振り返る。

「ごちゅ……」

 ご注文がお決まりになりましたら、と言おうとした言葉が止まっていた。

「ネズミか」
と男は笑う。

 困ったことに、その笑い方まで似ている。

「南条あまり。
 なんで固まってるわけ?」
と彼は自分の名を呼び、訊いてきた。

 ……何故でしょう。

 まだ会社にいらっしゃるはずなのに、此処にも海里さんがいらっしゃいます。

「初めまして。
 俺は犬塚遥真。

 海里の叔父だよ」
と男は笑う。

 ええーっ?
 そっくりですーっ、とあまりは更に固まった。

 海里がもう少し年をとったら、こんな感じかなと思う感じだ。

 いや、この人もまだ、充分若いが……と思っていると、遥真は、マジマジとあまりを見、
「ほうほう。
 実物の方がずいぶん可愛いじゃないか」
と言ってきた。

「美人というより、まだ、可愛いといった感じだなあ。
 海里は写真を見て一目で気に入ったようだが」

 あいつ、ロリコンかな、と呟いている。

 いやいやいや。
 私、一応、子どもじゃないんですけど、と思っていると、
「写真見ただけで結婚を決めるとか、戦時中かって感じだが。
 そういえば、海里の写真はどんなのだったんだい?」

 見せてよ、と言ってくる。

「いえ、私は持ってませんが」

 お断りするつもりだったので、と言いかけたとき、誰かが遥真の前に、スマホを差し出した。

「これですよ」
たけるが言う。

「学校帰りにちょっと寄ってみたんだけど。
 この人、姉ちゃんの結婚相手……じゃないよね?」
と尊が遥真を見て言った。

「ちが……」
と言いかけたところで、遥真が、

「おやおや。
 これは俺だよ」
とスマホを手に言い出した。

 は? と思っていると、
「これさ、俺の昔の写真だよ。
 ほら、スマホで撮ったんじゃなくて、写真をスマホで撮った写真じゃん」
と言ってくる。

 ええっ!? と姉弟で覗き込んだ。

「そ、そういえば、微妙に光って写っています」

 写真の光沢のせいだろう。

「兄貴が余計な心配して、俺にも見合いの世話をしようとしたことがあってさ」

 俺は諸事情により、結婚しないことにしてるのに、と言ってくる。

 どんな諸事情なのか聞きたくないな、と思っていた。

 今、この混乱している頭に、更に混乱するような話をしてきそうな予感がしたからだ。

「そういえば、そのとき、赤ちゃんから今までの俺の写真を撮ってたな。

 酔ってたから、間違えたんだろ?

 ……どうした? 南条あまりん」

 勝手におかしなあだ名をつけて、遥真は言ってきた。

「大丈夫か? 姉ちゃん」

 こんな崩れ落ち方する人、漫画以外で初めてみた、と膝から崩れ落ちたあまりに尊が言ってくる。

 再び、その写真を見ながら、遥真が言い出した。

「この写真を見て、結婚を決めたのなら、君が好きなのは、俺、ということにならないかな? 南条あまりん」

 特になにも考えていなさそうに、海里と同じ声で、遥真は言ってくる。

「ねえちゃん……しっかり」
という弟の声がむなしく響いていた。

 あまりは、テーブルの冷たいアイアンの脚をつかんだまま、座り込んでいた。

 ああ、今、服部さんの言ってた犯人とか来たりしないだろうか。

 こんなところに座り込んでいる店員を見て、うわっ、と逃げたりしないだろうか、と冷静に考えていたが。

 それは逆に、全然、冷静じゃなかったからかもしれない。

 あとからそう思った。


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