上 下
77 / 89
箱から覗いてみました……

何故、騙される……

しおりを挟む
 

 あまりが通っていた古い幼稚園の建物の裏。

 誰も居ないそこで、幼い海里がフランス語でなにやらペラペラしゃべってくる夢を見た。

 わ、わからない、と思っていると、海里が小馬鹿にしたように鼻で笑う。

 ゆっ、ゆるしませんーっと目を覚ますと、朝だった。

 あまりはひとりでラグの上の布団で寝ていた。

 そうか。
 夢だったか。

 なんて夢だ……。

「おはよう」
とキッチンのカウンターの向こうから顔を覗けた海里が言ってくる。

「あ、海里さん、おはようございます」

 海里は布団をたたんで抱えてくる。

「そっち寒くなかったですか?」

 大丈夫だ、という海里と共に、着替えたあと、一緒にパンを焼いたり珈琲を淹れたりする。

「これ、うちの店のパンなんですよ」

「だろうな。
 食パンも美味いな」

 こんがり焼けた厚切りの食パンの上にはたっぷりの溶けたバター。

 指でちぎると、ふわっと湯気とともに、真っ白でふかふかのパンが現れる。

 ……美味しい。

 でも、なにか釈然としない。

 サクサクふかふかのパンを見ながらあまりは呟いていた。

「昨日、おかしな夢を見たんですよ……」

 しばらく間を置いて、こらえきれなくなったように、海里が吹き出した。

「ああっ。
 やっぱり、夢じゃなかったんですねっ」

 海里は笑いながら、
「だって、お前、自分であんな夢を見るなんて相当な淫乱だぞ」
と言ってくる。

「まあまあ。
 今日も風呂磨いてやるから」
と言う海里にいじけたように、

「そうそう毎日汚れませんよ……」
と呟いた。

 不本意ながらも、それなり楽しい朝食だった。

 



「お、おはようごさいますー」

 成田が控え室に居ると、あまりがやって来て、ささささっとロッカーへと入っていこうとした。

 カフェの特集の載っている雑誌を見ていた成田は視線であまりを追う。

「あまり」
と呼ぶと、ビクついて振り返り、アコーディオンカーテンの向こうから顔を出してきた。

「な……なんですか?」

 なんだ、そのビクビクは、と思いながら訊く。

「どうかしたのか?」

「いえ。
 なんでもありません」
と言って、あまりは、そのまま引っ込もうとした。

「嘘つけ。
 なんかあったろ?」

「べ、別になにもありませんよ」

 あまりは、しらばっくれるように言ったあとで、足を止め、言ってくる。

「あ、でも、今度刑事さんが此処にいらっしゃるそうですよ」

「いや……なんで、なにもないのに、突然、刑事さんが現れるわけ?」

 ついに警察に目を付けられるようななにかをやったのかと思ったが、そうではなかった。

「昨日の人、刑事さんだったんですよ。
 あのちょっぴり挙動不審で私を見てた人」

 あまりのお隣さんなのだと言う。

「此処に服部さん……、あ、その刑事さんなんですけど。
 服部さんが追ってる人がたまに現れるそうなんです。

 こんな感じの人です」
とポケットからメモ書きを出してくる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【未完】妖狐さんは働きたくない!〜アヤカシ書店の怠惰な日常〜

愛早さくら
キャラ文芸
街角にある古びた書店……その奥で。妖狐の陽子は今日も布団に潜り込んでいた。曰く、 「私、元は狐よ?なんで勤労なんかしなきゃいけないの。働きたいやつだけ働けばいいのよ」 と。そんな彼女から布団を引っぺがすのはこの書店のバイト店員……天狗と人のハーフである玄夜だった。 「そんなこと言わずに仕事してください!」 「仕事って何よー」 「――……依頼です」 怠惰な店主のいる古びた書店。 時折ここには相談事が舞い込んでくる。 警察などでは解決できない、少し不可思議な相談事が。 普段は寝てばかりの怠惰な陽子が渋々でも『仕事』をする時。 そこには確かに救われる『何か』があった。 とある街の片隅に住まう、人ならざる者達が人やそれ以外所以の少し不思議を解決したりしなかったりする短編連作。 ……になる予定です。 怠惰な妖狐と勤勉な天狗(と人とのハーフ)の騒がしかったりそうじゃなかったりする日常を、よろしれば少しだけ、覗いていってみませんか? >>すごく中途半端ですけど、ちょっと続きを書くのがしんどくなってきたので2話まででいったん完結にさせて頂きました。未完です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

作ろう! 女の子だけの町 ~未来の技術で少女に生まれ変わり、女の子達と楽園暮らし~

白井よもぎ
キャラ文芸
地元の企業に勤める会社員・安藤優也は、林の中で瀕死の未来人と遭遇した。 その未来人は絶滅の危機に瀕した未来を変える為、タイムマシンで現代にやってきたと言う。 しかし時間跳躍の事故により、彼は瀕死の重傷を負ってしまっていた。 自分の命が助からないと悟った未来人は、その場に居合わせた優也に、使命と未来の技術が全て詰まったロボットを託して息絶える。 奇しくも、人類の未来を委ねられた優也。 だが、優也は少女をこよなく愛する変態だった。 未来の技術を手に入れた優也は、その技術を用いて自らを少女へと生まれ変わらせ、不幸な環境で苦しんでいる少女達を勧誘しながら、女の子だけの楽園を作る。

【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?

おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。 『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』 ※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。

そこは優しい悪魔の腕の中

真木
恋愛
極道の義兄に引き取られ、守られて育った遥花。檻のような愛情に囲まれていても、彼女は恋をしてしまった。悪いひとたちだけの、恋物語。

好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。  大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。 「神の怒りを買ってしまいます~っ」  みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。  お神楽×オフィスラブ。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

マーちゃんの深憂

釧路太郎
キャラ文芸
 生きているもの死んでいるものに関わらず大なり小なり魔力をその身に秘めているものだが、それを上手に活用することが出来るモノは限られている。生まれつきその能力に長けているものは魔法使いとして活躍する場面が多く得られるのだが、普通の人間にはそのような場面に出会うことも出来ないどころか魔法を普通に使う事すら難しいのだ。  生まれ持った才能がなければ魔法を使う事すら出来ず、努力をして魔法を使えるようになるという事に対して何の意味もない行動であった。むしろ、魔法に関する才能がないのにもかかわらず魔法を使うための努力をすることは自分の可能性を極端に狭めて未来を閉ざすことになる場合が非常に多かった。  しかし、魔法を使うことが出来ない普通の人たちにとって文字通り人生を変えることになる世紀の大発明が今から三年前に誕生したのだ。その発明によって魔力を誰でも苦労なく扱えるようになり、三年経った今現在は日本に登録されている魔法使いの数が四千人からほぼすべての国民へと増加したのだった。  日本人の日本人による日本人のための魔法革命によって世界中で猛威を振るっていた魔物たちは駆逐され、長きにわたって人類を苦しめていた問題から一気に解放されたのである。  日本のみならず世界そのものを変えた彼女の発明は多くの者から支持され、その名誉は永遠に語り継がれるであろう。 設定・用語解説は別に用意してあります。 そちらを見ていただくとより本編を楽しめるとは思います。 「マーちゃんの深憂 設定・用語集」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/863298964/650844803

処理中です...