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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密
お父さん、あなたの教育は間違っていました
しおりを挟む「歩くのは歩けるんだな」
と耳の近くで海里が言った気がする。
お食事処の個室から戻る途中のようだとあまりは思った。
「全然大丈夫です。
行進もできますし、ナンバ歩きも出来ますよー」
と今のように腰を捻らず歩く昔の日本人の歩き方をして見せた。
右手のときは、右足を出して歩くと言われていたが、必ずしもそうではないようなのだが。
最近では、アスリートが動きに取り入れたりして、また見直されている歩き方だ。
が――。
「うまく歩けてないし。
余計酔っぱらっているように見えるが……」
と海里が言ってくる。
「でも、こうして歩いた方が武士は刀が邪魔にならなかったらしいですよ」
「お前は武士か。
刀持ってんのか」
と切り捨てられる。
っていうか、この人は何故、酔っていないのでしょうかね。
途中から呑んでなかったとか? と思っている前で、海里が部屋の鍵を開けていた。
ずいぶんと酒が回ったようだ。
眠い……と思いながら、俯いて欠伸をすると、額が海里の背中に当たった。
うーん。
宿の茶羽織りの匂いがする。
そう思ったまま、思わず、じっとしていると、海里が、
「前へ進むぞ、倒れるな」
と言ってきた。
額に体重をかけてしまっていたらしい。
「……あい」
と自分ではしっかりしゃべっているつもりで返事をしたとき、ふわりと身体が浮いた。
「手間のかかる奴だな」
海里が抱き上げてくれたようだった。
あまりに軽々と抱き上げられたので、これは現実なのかな? と思ってしまう。
だが、海里の顔は確かに目の前にあった。
初めて見たときから瞳に焼きついている、海里の意思の強そうな目許を見ながら、あまりは呟いた。
「やはり貴方は悪い人です」
「……なんでだ」
「こんなことをされて、今、めちゃくちゃドキドキしています。
私を騙そうとしてるんでしょう?」
そう言ったのに、何故か海里は笑っていた。
「いいじゃないか。
騙されてみろよ」
海里があまりを抱いたまま中に入ると、ドアが閉まった。
「……俺を好きになってみればいい」
唇になにかが触れてくる。
もしや、これがキスという奴なのでしょうか。
本で読んだのと全然違っていて、なにがなんだかわからない。
っていうか、何故、こんなことに、とぼんやり思う。
羊羹をもらって新幹線に乗って、フランス人にぼんじゅーると言えなくて、海を求めて、山をさまよったら、カメを助けてもないのに、こんな素敵な竜宮城にたどり着いて。
乙姫様じゃなくて、王子様が。
……そうです。
王子様が私にキスしています。
王子様、気でも違ったのでしょうか?
「……呪ってるんじゃなかったんですか?」
少し冷静になった頭で、あまりは、そう訊いていた。
「呪ってるよ。
俺を受け入れなかったお前を呪ってる……」
海里はあまりをその場に下ろし、壁に押し付けるようにしてキスしてきた。
ちょっとなにが起きているのか理解できない。
いや、お父さん。
やはり、女子に、出された酒は全部呑め、と教育するのは、間違っていたと思います……。
そう思いながら、軽く意識が遠ざかる。
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