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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密
私はきっとあなたに騙されるんです
しおりを挟む「でも、信じられないといえば、貴方とこうしていることがまず、信じられません。
貴方の写真を見せられたときには、どんな罠がと思ったものですが」
「なんだ罠って……」
またおかしなことを言い出したぞ、という目で見られる。
「だって、おかしいじゃないですか。
びっくりするようなイケメンで、お金持ちで、いい学校出てて、ちゃんと仕事してて。
そんな人が、なんで私なんかと見合いしようとするんですか」
「いや、俺が見合いしようとしたわけじゃないけどな……」
「絶対、彼女とか愛人とか、二号さんとか、恋人とか、初恋の人とかいっぱい居るのに」
「重複している上に、関係ないのも混ざってるぞ」
「貴方のような人がわざわざ見合い結婚する意味がわかりません。
ああそうだ。
きっとなにかまずい相手とかと付き合っていて、私を隠れ蓑にしようとしてるんだと思いました」
「……そのときから、妄想炸裂してたんだな」
お前の人生、半分以上、妄想だろうと言われる。
それを言うなら、貴方の存在こそが妄想だ、と思っていた。
こんな理想通りの人が居るわけないからだ。
「金はあるけど、帰らない夫と、形ばかりのおしどり夫婦を演じる一生なんてごめんです」
「……お前は本当に妄想が好きだな」
と言いながらも、何故か海里は笑っていた。
「本気で好きになって、そんな扱いされたら、泣きますからね、私」
頭の中では、江戸の貧乏長屋の玄関で、あまりは子どもを背負い、海里に蹴られていた。
「きっとひどい奴なんですよー」
「お前、人のことを語っているかのように言っているが、それ、俺のことだよな……?」
本人を目の前に語る話とも思えないが、と呟いたあとで、海里が訊いてくる。
「それで、そのお前の妄想の中では、俺のヤバイ交際相手の愛人や二号さんや、初恋の人はどんな感じなんだ?」
「えーとですね。
マフィアのボスの女とか。
……えーと。
茶道の家元の愛人とか」
「茶道の家元はヤバくないだろ」
「そして、初恋の人は、きっと幼稚園の先生なんですよ」
「残念だったな」
と海里は笑う。
「ひとつ確実に外してるぞ。
俺の初恋の人は……」
お前だ、と海里が言った。
「そうなんですかー」
と言いながら、もう妄想の世界から脱却したように氷の器の中の刺身をつつく。
ちょっと沈黙があった。
「聞いてないだろ、お前、人の話……」
ええっ? なにがですかっ? とあまりは訊き返す。
彼は酔っ払い相手に真剣に話すむなしさをまだわかってはいないようだった。
きっと、今まで彼の周りの人は、酔っても、話くらいは真面目に聞いてくれていたのだろう。
まあ、酔っていると思っているからこそ、本音でしゃべれているのかもしれないが。
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