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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密

泊まるんですか……?

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 おお、なんかすごい。

 車に乗せてもらい、楽しく老夫婦と語っているうちに、山の中腹の宿に着いた。

 車ってすごいな、とあまりは思う。

 普段はあまり意識していないが、あれだけ歩いたあとなので、妙に感心してしまう。

 恐らく、我々が苦労して歩いた道を、車だと物の十五分くらいで駆け抜けることだろう。

「江戸の人ってすごいですね……」
と呟いて、また、どうした、突然、という目で海里に見られる。

 それにしても、すごい宿だ。

「ひなびてないっ」
と思わず叫んでしまい、迎えに出てくれた従業員の人に笑われてしまった。

 秘境の宿というと、なんとなく、ランプの灯りか、昔風の電灯のついた古びた温泉宿のイメージだったのだが。

 ロビーは明るく、いかにも現代アートでございます、というような彫刻が階段付近に飾ってあり、建物は今どきの和風モダン建築そのものだった。

 ふと気づけば、海里は、宿の従業員に連れられて、フロントに行こうとしている。

「あれ? 私たち、此処に泊まるんですか?」

「待て。
 お前、なんのために此処まで来た」

「タクシー呼んでもらって駅まで戻るって手もありますよ」

「無理やり乗せてもらったんだぞ。
 泊まって代金払ってやらないと」

 いやいや。
 無理やりって感じじゃなかったですよね。

『いいっすよー』
 くらいのかなり軽いノリだった。

 まあ、宿に泊まってくれるから、というのもあるのだろうが。

 なにかお礼をして、帰るという手もあるんですよ、海里さん、と思ったのだが、もう海里は記帳してしまっていた。

 宿の人に連れられ、部屋へと向かう。

 建物の中に何故か流れている川にかかった赤い太鼓橋を渡りながら、
「すごいですね。
 こんな場所にこんな宿があるなんて」
と小声で言うと、前を歩く仲居さんに聞こえていたらしく、笑いながら言ってきた。

「普段ご多忙な皆様に、大自然の中で、なにもかも忘れてゆっくりしていただきたい、というのが、この宿のコンセプトです」

 まあ、携帯も通じないもんなー、と思っているうちに、部屋に案内された。



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