あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密

パトリックはなんと言っていますか?

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 あまりが凍り付いている、と思いながら、海里は眺めていた。

 いきなり、訳のわからない活用を言うなよ、と思っていると、なにか話しかけられて、困った風なあまりは、いきなり喋り出した。

「Estis agrable renkonti vin.」

 それを聞いたパトリックが笑って答える。

「Bonan vesperon!」

 ……エスペラント語じゃないか。

 何故、英語が話せないのに、エスペラント語が話せる。

 エスペラント語は何処の国の言葉でもない。

 様々な国の人たちの間で意思の疎通ができるように考えられた、国際補助語だ。

 使う人はあまり多くはないが、パトリックには通じたようだった。

 だが、そのあと、パトリックはフランス語で話し出したので、あまりにはわからなくなってしまったようだった。

「かっ、海里さんっ。
 いや、支社長っ。

 この人、なんとっ!?」
と腕をつかんでくる。

 その手を見下ろしながら、海里は言った。

「こんばんは……はエスペラント語だからわかるんだな。

 貴女、エスペラント語が話せるんですね。
 私の友人も学んでいます。

 私は挨拶しか出来ませんけど。

 世界共通言語として考えられたのに、学ぶ人が少なく、寂しいことですね、と言っているぞ」
と訳してやると、

「そ、そうですか。
 今、咄嗟に、フランス語が話せず、フランス人は英語がお嫌いだと聞いたので、ちょっと使ってみました」
と言っておいて、

「あ、此処は訳さなくていいです。
 お気を悪くされてはいけないので」
と言う。

「実は私も決まった例文しか話せません、とお伝えください」

 丸投げなあまりに、お前、ほんとに第二外国語、フランス語だったのか? と思いながら、そのまま伝え、またあまりに返した。

「言ってみてくれ、と笑っているぞ」
と言うと、

「いや……笑っているのは私にもわかります」
とパトリックを見ながら言ったあとで、

「Mi estas nacio de japanio.
 C^u mi bezonas nur monpunon? 」
とあまりは言った。

「なんて言ったのか、とパトリックが言っているぞ」

「私は日本国民です」

 此処は日本だ。

「罰金で済みますか? 」

 なにをやったんだ……。

「ほんとに例文そのままだな。
 っていうか、海外でなにかやらかす気満々なラインナップだな」

 いやいやいや、とあまりは手を振る。

 そして、振っておいて、また、射殺されるっ? という顔で、慌ててパトリックを見た。

 だから、されるか……。

 こいつの外国の知識は多分に間違っている、と思いながら、そのままパトリックに訳してやると、パトリックはゲラゲラ笑っていた。

「か、海里さん。
 また、なにか喋っておられます。

 なんと?」
とあまりはまた、挙動不審になりながら、自分の腕を握ってきた。

 自分がフランス語を話すたびに、あまりが怯えるさまもパトリックにはツボらしい。

「貴女のような愉快なお嬢さんに会えて、実に楽しい。
 とても有意義な滞在でした」

 ……そこがもっとも有意義とかどうなんだ、パトリック、と先程、熱弁をふるっていた社員達を思い起こしながら思う。

「今度はぜひ、フランス語も覚えてください。
 貴女に素敵な友人が増えるでしょう。

 次はフランス語で語り合いましょう」

 さすがフランス語がこの世で一番美しいと思っているフランス人だな……。

 そうして、なごやかに別れかけたのだが、後ろでは騒動が起こっていた。

「ええっ?
 破水したっ?」

 パトリックが乗ってきた方のタクシーのドライバーが無線でなにか騒いでいる。


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