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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密

社長の息子という印籠は、支社長の見合いを断ったとかいう私の印籠よりは遥かに効きそうだ

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「まあ、今の案でいいんじゃないか?
 あとは土地の候補地をもっと絞り込むことだな」

 まあ、また連絡するよ、と海里は軽く言って、帰ろうとするが、出て来た社長たちに引き止められていた。

 だが、それを断り、会社の車を手配してくれるというのも断って、海里は呼んでもらったタクシーに乗り込む。

「ありがとうございましたっ」
と見送りながら、先程の小僧さんはまだ頭を下げていた。

 タクシーの中から振り返りながら、あまりは問うた。

「あの方はどなたなんですか?」

「俺が最初に親父に行かされた系列会社の社員なんだが。

 その会社で、最初は俺が親父の息子だということを伏せていたら、イギリス帰りのめんどくさい奴ということで、ちょっといろいろとやられて」

「はあ、今でもめんどくさい人ですもんね」
とうっかり呟いて、おい、と見られた。

「そんなに長い間居たわけじゃないんだが、最初はあいつがひとりでいろいろ一生懸命かばってくれてたんだ。

 で、あいつが、こっちの支社に異動になって初めて、大きなプロジェクトに関わることになったが、難航してると聞いて、ちょっとな」

 様子を見に来たわけですか。

 いいとこあるじゃないですか、と偉そうに言いそうになる。

「系列会社まで行くと、支社長のことをご存知ない方もいらっしゃるでしょうからね。
 それで修行のためにお父様が放り込まれたんでしょうかね。

 で、最後は水戸黄門の印籠出して去って行ったわけですか」

「なんだ、印籠って……」

 社長の息子という印籠は、支社長の見合いを断ったとかいう私の印籠よりは遥かに効きそうだが。

「そういえば、さっき、お前、なんかわかった風な顔で頷いていたが、目は泳いでいたが……」
と海里が言い出した。

 何故、そんなところを見てるんですか。
 あんな真剣に話してたのに、と思う。

「フランス語は苦手か」

「……実は第二外国語がフランス語だったんですが、さっぱりです。

 フランス語の先生が、赤ずきんちゃんを読みながら、体調の悪いおばあさんが山の中でひとりで暮らしてるなんてさすがフランスだ。

 フランスは日本みたいに、べったり介護とかしないんだって言ってたのは覚えてるんですが」
と呟くと、それしか記憶ないのか、と言われる。

「二年間、赤ずきんちゃんだけやってたわけじゃあるまい」

「活用っぽいものなら、ところどころ言えますよ。

 ぬざぼん~。

 いるぼん~。

 えるぼん、ぶざべー」

「……何処のなにを言っているのかわからないうえに、フランス人に殴られそうな発音だな」

 だからなにも言わなかったんじゃないですか……。

「いいんですよ。
 私は日本から出ないんですからっ」
と逆ギレすると、

「新婚旅行は、カジノをしながら船旅をするんじゃなかったのか」
と言ってくる。

 それはおにいちゃんです……。

 そして、カジノは貴方が言ったんですよ。

 そう思いながら、あまりは外を見て呟いた。

「偉く田舎道に入っていきますね」

「一番安い候補地がこの先にあるんだ。
 向こうの金額的な条件には合ってるんだが、田舎は車で動くのが主流とは言っても、幾らなんでもな。

 ちょっと高速からも距離があるし」

 まあ、一応覗いてみようかと思って、と言ってくる。


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