35 / 89
お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密
社長の息子という印籠は、支社長の見合いを断ったとかいう私の印籠よりは遥かに効きそうだ
しおりを挟む「まあ、今の案でいいんじゃないか?
あとは土地の候補地をもっと絞り込むことだな」
まあ、また連絡するよ、と海里は軽く言って、帰ろうとするが、出て来た社長たちに引き止められていた。
だが、それを断り、会社の車を手配してくれるというのも断って、海里は呼んでもらったタクシーに乗り込む。
「ありがとうございましたっ」
と見送りながら、先程の小僧さんはまだ頭を下げていた。
タクシーの中から振り返りながら、あまりは問うた。
「あの方はどなたなんですか?」
「俺が最初に親父に行かされた系列会社の社員なんだが。
その会社で、最初は俺が親父の息子だということを伏せていたら、イギリス帰りのめんどくさい奴ということで、ちょっといろいろとやられて」
「はあ、今でもめんどくさい人ですもんね」
とうっかり呟いて、おい、と見られた。
「そんなに長い間居たわけじゃないんだが、最初はあいつがひとりでいろいろ一生懸命かばってくれてたんだ。
で、あいつが、こっちの支社に異動になって初めて、大きなプロジェクトに関わることになったが、難航してると聞いて、ちょっとな」
様子を見に来たわけですか。
いいとこあるじゃないですか、と偉そうに言いそうになる。
「系列会社まで行くと、支社長のことをご存知ない方もいらっしゃるでしょうからね。
それで修行のためにお父様が放り込まれたんでしょうかね。
で、最後は水戸黄門の印籠出して去って行ったわけですか」
「なんだ、印籠って……」
社長の息子という印籠は、支社長の見合いを断ったとかいう私の印籠よりは遥かに効きそうだが。
「そういえば、さっき、お前、なんかわかった風な顔で頷いていたが、目は泳いでいたが……」
と海里が言い出した。
何故、そんなところを見てるんですか。
あんな真剣に話してたのに、と思う。
「フランス語は苦手か」
「……実は第二外国語がフランス語だったんですが、さっぱりです。
フランス語の先生が、赤ずきんちゃんを読みながら、体調の悪いおばあさんが山の中でひとりで暮らしてるなんてさすがフランスだ。
フランスは日本みたいに、べったり介護とかしないんだって言ってたのは覚えてるんですが」
と呟くと、それしか記憶ないのか、と言われる。
「二年間、赤ずきんちゃんだけやってたわけじゃあるまい」
「活用っぽいものなら、ところどころ言えますよ。
ぬざぼん~。
いるぼん~。
えるぼん、ぶざべー」
「……何処のなにを言っているのかわからないうえに、フランス人に殴られそうな発音だな」
だからなにも言わなかったんじゃないですか……。
「いいんですよ。
私は日本から出ないんですからっ」
と逆ギレすると、
「新婚旅行は、カジノをしながら船旅をするんじゃなかったのか」
と言ってくる。
それはおにいちゃんです……。
そして、カジノは貴方が言ったんですよ。
そう思いながら、あまりは外を見て呟いた。
「偉く田舎道に入っていきますね」
「一番安い候補地がこの先にあるんだ。
向こうの金額的な条件には合ってるんだが、田舎は車で動くのが主流とは言っても、幾らなんでもな。
ちょっと高速からも距離があるし」
まあ、一応覗いてみようかと思って、と言ってくる。
11
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。
大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。
「神の怒りを買ってしまいます~っ」
みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。
お神楽×オフィスラブ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
薔薇と少年
白亜凛
キャラ文芸
路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。
夕べ、店の近くで男が刺されたという。
警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。
常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。
ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。
アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。
事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。
博士の愛しき発明品たち!
夏夜やもり
キャラ文芸
近年まで、私と妹は常識的でゆるやかな日常を送っていました。
しかし、ご近所に住む博士の発明品で、世界と一緒に振り回されてしまいます!
そんなお話。あと斉藤さん。
【あらすじ】
氏名・年齢・性別などを問われたとき、かならず『ひみつ』と答える私は、本物の科学者と出会った!
博士は、その恐るべき科学力と体をなげうつ研究努力と独自理論によって、悍ましき発明品を次々生み出し、世界と私たちの日常を脅かす!
そんな博士と私と妹たちで繰り広げるS・Fの深淵を、共に覗きましょう。
**―――――
「ねえ、これ気になるんだけど?」
居間のソファーですっごい姿勢の妹が、適当に取り繕った『あらすじ』をひらひらさせる。
「なこが?」
「色々あるけどさ……SFってのはおこがましいんじゃない?」
「S・F(サイエンス・ファンキー)だから良いのだよ?」
「……イカレた科学?」
「イカした科学!」
少しだけ妹に同意しているが、それは胸にしまっておく。
「文句があるなら自分もお勧めしてよ」
私は少し唇尖らせ、妹に促す。
「んー、暇つぶしには最適! あたしや博士に興味があって、お暇な時にお読みください!」
「私は?」
「本編で邪魔ってくらい語るでしょ?」
「…………」
えっとね、私、これでも頑張ってますよ? いろいろ沸き上がる感情を抑えつつ……。
本編へつづく
*)小説家になろうさん・エブリスタさんにも同時投稿です。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる