あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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お茶汲み秘書の話すのやめときたい秘密

人の目には俺たちはどう見えてるんだろうな

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 半分食べていいですよって、どうしろと言うんだ、と一本丸ごと突き出された羊羹を見ながら海里は思う。

 動かない自分を見て、ああ、と言ったあまりは、いきなり、包装をはがそうとした。

 いや待て。
 むいてないから食べられないという意味じゃないんだが、と思いながら、羊羹をつかむ。

「俺はいい。
 帰ってから、切って食え」

「そうですか?」
と言いながら、あまりは、それをまた鞄にしまおうとする。

「……重いだろ。
 持ってやろうか」
と言うと、

「えっ?
 大丈夫ですよっ」
と慌てて言ってくる。

「いや、取らないから、そんなもの……」

 そんなこと言ってないじゃないですか~、とあまりは泳ぐ目線で言ってきた。

 そんなくだらない話をしているうちに、目的の駅に着いていた。

 なんか、あっという間だったな、と思う。

 一人だと時間を持て余すくらい長く感じてしまうのだが。

「降りるぞ、あまり」

 はーい、とあまりは素直についてくる。

 頭を下げていると思ったら、少し後ろに座っていた、さっきのおばあさんと目が合ったらしい。

 自分も下げると、笑って下げ返してくれた。

 人の目には俺たちはどう見えてるんだろうな、とふと思う。

 上司と部下。

 恋人……、夫婦とか?

 いや、ないか。

 一緒に居て、沈黙を苦痛に感じるほど、自分たちの関係は、まだ、ぎこちないから。

 家族や親しい友人だと、黙っていても、なにも感じないのに。

 ……大崎とかな、と思う。

 新幹線を降り、少し遅れてついてくるあまりを見ながら、成田の言葉を思い出していた。

『二週間のうちに、あまりがお前のことを好きになるとかないからな』

 あの日見せられた、スマホの中で微笑んでいたあまりが、今、後ろをトコトコ歩いている。

 ほんとにトコトコって感じだな……。

 平和そうで、今はムカつく。

「ほら、早く行け」

 少し足を止め、鞄の角で背中を突くと、何故、いきなり攻撃っ? という顔であまりが振り返った。

 そして、タクシーに乗ったあとで、ようやくあまりは訊いてきた。

「ところで、何処行くんですか?」

「それ、今訊くか……?」
と呟く。


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