あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
27 / 89
派遣秘書のとんでもない日常

無駄な知識を披露するな

しおりを挟む
 

 海里は、なんとなく成田と電車で帰り、じゃあ、と二人は別れた。

 家に戻って、ベッドに入り、考える。

 失敗した。

 早く決めるべきだった。

 別にどっちでも良かったじゃないか。

 頭だろうが、脚だろうが。

 ……でも、自分が抱えない方を成田が持つわけで。

 成田に、あまりの脚を持たせるとか。

 いやいや、頭を持たせるのも嫌だしな……。

 また悩み始める海里を、もし、秋月が見ていたら、
『だったら、ひとりで抱えればよかったじゃないですか』
と言い出すところだろうが。

 人前でひとりであまりを抱きかかえるとか。

 今の自分では、まだ出来そうにもない、と海里は思っていた。
 


「どうしたんですか、支社長。
 寝不足っぽい顔してますけど」

 朝、お茶を持って行ったあまりは、海里に言った。

 海里は目を閉じ、機嫌悪く言う。

「……顔と脚だけの妖怪が出てきて、うなされたんだ」

「一本だたらですか?」

「無駄な知識を披露するな……。
 お前の顔をしていたぞ」

 な、なんでですか、と思っていると、
「昨日は無理やり入り込んだんだから、呑み代は俺が払うと言ったのに」
と海里は言ってくる。

「いえ、昨夜の海里さんは支社長ではないので、払ってくれなくていいそうです。

 そうでなければ、昨日のご無礼がなかったことにはならないので、と秋月さんが言ってました」
とあまりは笑う。

 あ、昨日のまま、うっかり海里さんとか言っちゃった、と思ったのだが、海里は、
「そうか」
と特にそこは反応せずに流していた。
 


 あまりが去ったあと、海里はいつも通り仕事を続けていた。

 すると、
「失礼します」
とやって来た寺坂が、おや? という顔をして笑う。

「どうしたんですか? 支社長。
 ご機嫌ですね」

 ……別に機嫌が良くなどない。

 あまりに、海里さんと呼ばれたからとか、その程度で。

 そんなわけはない、と意味もなく、キーボードの早打ちをする。

「ところで支社長」
 側に来た寺坂が声を落として訊いてきた。

「私、夕べは失礼なこととかしてませんよね?」

「……記憶ないのか?」

 泣き上戸なだけで、あのメンバーの中では、比較的冷静に見えてたのにな、と思う。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

OL 万千湖さんのささやかなる野望

菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。 ところが、見合い当日。 息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。 「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」 万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。 部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~ その後

菱沼あゆ
キャラ文芸
咲子と行正、その後のお話です(⌒▽⌒)

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 令和のはじめ。  めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。  同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。  酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。  休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。  職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。  おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。  庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。

ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ
恋愛
 ご先祖さまの残した証文のせいで、ホテル王 有坂桔平(ありさか きっぺい)と戸籍上だけの婚姻関係を結んでいる花木真珠(はなき まじゅ)。  一度だけ結婚式で会った桔平に、 「これもなにかの縁でしょう。  なにか困ったことがあったら言ってください」 と言ったのだが。  ついにそのときが来たようだった。 「妻が必要になった。  月末までにドバイに来てくれ」  そう言われ、迎えに来てくれた桔平と空港で待ち合わせた真珠だったが。  ……私の夫はどの人ですかっ。  コンタクト忘れていった結婚式の日に、一度しか会っていないのでわかりません~っ。  よく知らない夫と結婚以来、初めての再会でいきなり旅に出ることになった真珠のドバイ旅行記。  ちょっぴりモルディブです。

処理中です...