あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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派遣秘書のとんでもない日常

美容と健康、そして、若さの維持のためにっ!

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「成田くん、来てくれて、ありがとう。
 ということで、かんぱーい」

 小洒落た店の個室で、祝杯を上げる秋月に、いや、成田さんのための歓迎会になってますよね、とあまりは苦笑する。

「美容と健康。
 そして、若さの維持のために、こうして、ときどき若いイケメンと呑まなきゃね」
と秋月は言う。

 取って食われそうだ、と思ったのか、成田は笑いながらも、なんとなく逃げ腰になっていた。

 あまりの席はファミちゃんと隣りだった。

 ちょうどいいので、今まで訊きたかったことを訊いてみる。

「桜田さんは、何故、ファミちゃんなのですか?」

 いや、もしかしたら、と思っていることはあるのだが。

 桜田は少し恥ずかしそうに言う。

「総務から秘書室に回されてすぐ、秋月さんが、貴女、桜田だから、ファミちゃんねって」

「……まさかなんですけど。
 サグラダ・ファミリアでファミちゃんだとか……」

 すると、聞いていないのかと思っていた秋月が、
「他に理由ないでしょうーっ」
と大きな声で言ってくる。

 まあ、この人に、じゃあ、貴女、ファミちゃんね、と言われたら、誰も逆らえないよな、と思った。

 そのとき、息を切らした寺坂が到着した。

「遅くなりまして」

「おー。
 イケメン、まあ、座りなさい」
と秋月は機嫌がいい。

 いや……寺坂さん程度のイケメンでは気に入らないと言ってましたよね、と思ったのだが、酔っ払いはどっちでもいいようだ。

 その後、酔った秋月は、……いや、既に酔っていた気もするが、寺坂に絡み始めた。

「寺坂っ。
 何故、結婚しないっ」
と大きな寺坂の肩を抱き、久しぶりに会った小学校の恩師かなにかのように、説教し始める。

「はあ、相手が居ないので……」

 慣れているらしい寺坂は、曖昧に笑いながら言っていた。

「そうか。ファミ子はどうだ」

 ファミさん、名前が変わっています……と思いながら見ると、桜田はグラスを手にしたまま、いつものように俯き、少し赤くなっていた。

 おやおや。
 もしかして、ファミ子さんのために寺坂さんを呼んだのだろうか、と思っていると、今度は、
「あまりはどうだ?」
と言い出した。

 特にそういうわけでもなかったようだ……。

 そして、私は呼び捨てですか。

 あだ名もつけてはいただけないのですね、と思っていると、寺坂が秋月怖さにか、余計なことを言い出した。

「し、支社長に殺されますっ」

 ……寺坂さん、と思っていると、酔っているかと思っていた秋月が冷静に言ってきた。

「そうか、やはりな」

 なんですか。
 その探偵のような口調は。

「あまりは、支社長の愛人か?」

「支社長は独身ですよ」
と寺坂が言う。

「っていうか、あまりさん、愛人ってガラではないです。

 そういうのは、もっと色っぽい人では……

 あ、すみません」

 ……支社長と結婚しておけばよかったな。

 そしたら、今、支社長夫人の権限で、こいつをクビにするのに、と思っていた。

「寺坂さん、実は秘書に向いてないのでは?」

 なにペラペラしゃべってるんですか、と思いながら言うと、寺坂は、
「そうなんです」
と刑事、……探偵か? のような秋月に肩を抱かれたまま、俯き、告白し始める。


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