17 / 89
派遣秘書のとんでもない日常
座敷牢にでも入ってろ
しおりを挟む「お疲れ様ですー」
とあまりは秘書室に戻った。
「お帰り」
お弁当を食べていた秋月が顔を上げる。
「完売だって?
買いに行く前に終わっちゃったわよ」
「すみません。
今日はちょっと前倒しに売ってしまって。
なんでしたら、明日の分、ご予約お受けしますよ」
「そうね。
お願いしようかな。
でも、順調でよかったじゃない」
そんな秋月の言葉に、ファミちゃんこと、桜田も頷いていた。
「いや、まだわかりませんよ。
二、三日は物珍しさで売れるでしょうけどね。
成田さんだって、今日は最初だから少し残ってもらいましたけど、店の方があるので、そう長くは引っ張れませんしね」
そう真剣に呟いて、秋月に、
「……あんた、此処に二号店出しそうな勢いね」
と言われてしまう。
「まあ、あの二枚目の店員さんとやらが居なくても大丈夫じゃない?
男性社員が、美人のカフェ店員が珈琲淹れてくれるって、こぞって行ってたみたいだし」
そう言い、秋月はこちらを見て笑った。
「なんでも美人とつけるのはよくない傾向だな」
という声が背後からした。
振り返ると、海里が立っていた。
「美人すぎるなになにとか、綺麗すぎるなになにとかの名称もどうかと思う」
あまりを指差し言う。
「少なくとも、これは美人じゃないだろ。
美人ってのは、もっとこう、落ち着いた人のことだ。
秋月さんとか、桜田とか」
あら、と二人が嬉しそうな声を上げる。
「……そうですね。
大崎さんとか」
と意識はしていなかったのに、なんとなく低く怨念のこもった声で言ってしまった。
「大崎、関係ないだろ」
と言ったあとで、ちょっとの間のあと、海里は、
「なんだ今のは。
妬いてるとか?」
と訊いてくる。
「そっ、そんなこと言ってないじゃないですかっ。
ところで、パンはどうでしたっ?」
あまりがそう早口に訊くと、
「駄目だな」
と言う。
「ええっ?
美味しくなかったですかっ?
マスターの焼いたパンが美味しくないなんて。
支社長、味覚がおかしいんじゃないですか?」
「……どんな店員だ。
自分の店の味を不味いと言ったら、客を全否定か」
いや、パンは美味かった、と海里は言う。
「俺が文句があるのは、お前だ。
何故、人に任せるっ。
お前の仕事だろうがっ」
「だって、私より、成田さんの方が支社長の好みに詳しいかと思いまして」
「じゃあ、せめて持ってこいよっ」
「だって、手が離せなかったんですっ。
それに、成田さんの方がついでに持ってけるし」
「成田、帰るんだったろ。
遠回りさせて先輩に持ってこさせるとかどうなんだ」
うっ。
それは確かに。
成田さんにこれ以上手伝わせては悪いと思ったし、ひっきりなしにお客様が来ていたので、つい、頼んでしまったが、悪かったな、と思っていると、海里がトドメを刺すように言ってくる。
「お前にカフェの店員なんか勤まるか。
家に帰れ。
帰って、おとなしく結婚でもしろ」
と言ったあとで、いや……と言い、
「座敷牢にでも閉じこもってろ」
と言い直す。
「なんでですかっ。
ちょっと先輩に物運ばせただけでっ」
「客の要望のわかっていない店員なんか役立たずだって言ってるんだ」
「……この場合のお客様のご要望はなんですか?」
思わず、真面目に訊いてしまったが、
「俺が知るか」
と言う。
「いや、お客様、貴方ですよね」
「お、時間だ。
じゃあな」
海里は聞かぬふりをし、秋月さん、と呼びかける。
「遠慮なくしごいてやってください。
桜田、迷惑かけると思うが、頼む。
室長」
と呼びかけたあとで、
「……起きてますか?」
と訊いていた。
あ、ああ、どうもどうも海里くん、と今は支社長の海里に向かい、室長は言っていた。
起きているのか、本当に……。
海里が出て行ったあとで、塩を撒いてやろうかな、と思っていると、秋月が近づいてきて、ポン、と肩を叩く。
「なになに。
貴女、支社長のなんなの?
おかしいと思ってたのよ。
わざわざカフェから店員呼ぶなんて。
支社長は福利厚生の一環として、社食以外にも食事の販売をしてみるとか言ってたみたいだけど」
とにやりと笑う。
「ねえ、ファミちゃん」
と言うと、また桜田は、無言で、コクコク頷いていたが、興味津々という顔をしていた。
「支社長と貴女、どういう関係?」
と訊かれ、あまりは慌てて答える。
「ししし、知りませんっ。
あんな人っ。
見たことも聞いたこともない人ですっ」
そう思わず、言ってしまい、
「いや……うちの支社長よね」
と冷静に言い返された。
24
あなたにおすすめの小説
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。
光子
恋愛
ーーー両親の愛情は、全て、可愛い妹の物だった。
昔から、私のモノは、妹が欲しがれば、全て妹のモノになった。お菓子も、玩具も、友人も、恋人も、何もかも。
逆らえば、頬を叩かれ、食事を取り上げられ、何日も部屋に閉じ込められる。
でも、私は不幸じゃなかった。
私には、幼馴染である、カインがいたから。同じ伯爵爵位を持つ、私の大好きな幼馴染、《カイン=マルクス》。彼だけは、いつも私の傍にいてくれた。
彼からのプロポーズを受けた時は、本当に嬉しかった。私を、あの家から救い出してくれたと思った。
私は貴方と結婚出来て、本当に幸せだったーーー
例え、私に子供が出来ず、義母からハズレ嫁と罵られようとも、義父から、マルクス伯爵家の事業全般を丸投げされようとも、私は、貴方さえいてくれれば、それで幸せだったのにーーー。
「《ルエル》お姉様、ごめんなさぁい。私、カイン様との子供を授かったんです」
「すまない、ルエル。君の事は愛しているんだ……でも、僕はマルクス伯爵家の跡取りとして、どうしても世継ぎが必要なんだ!だから、君と離婚し、僕の子供を宿してくれた《エレノア》と、再婚する!」
夫と妹から告げられたのは、地獄に叩き落とされるような、残酷な言葉だった。
カインも結局、私を裏切るのね。
エレノアは、結局、私から全てを奪うのね。
それなら、もういいわ。全部、要らない。
絶対に許さないわ。
私が味わった苦しみを、悲しみを、怒りを、全部返さないと気がすまないーー!
覚悟していてね?
私は、絶対に貴方達を許さないから。
「私、貴方と離婚出来て、幸せよ。
私、あんな男の子供を産まなくて、幸せよ。
ざまぁみろ」
不定期更新。
この世界は私の考えた世界の話です。設定ゆるゆるです。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる