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派遣秘書のとんでもない日常

カフェから派遣されて行ってきますっ

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 たくさん買ってもらったので、どれを着ようか迷っていた。

 やっぱり、あのベージュのスーツかな、と思ったのだが、あの夢がちょっと気になっていた。

 あれを着て海里の会社に行ったら、羊羹を磨かされそうな気がしたからだ。

 だが、一番最初にあのスーツを見たので、頭の中の仕事のイメージがあのスーツで固まってしまっていた。

 よしっ。
 羊羹はともかく、まずこれだっ、と思って、あのスーツを持ってきた。

 ロッカーの扉についている鏡にスーツを着たおのれの姿を映してみる。

 おお、OLさんが居る、と思いながら、マジマジと鏡を眺めてしまった。

 だが、格好だけで、中身が伴っていないのはわかっていた。

 鞄を手に、店へと戻ると、成田とマスターが話していた。

「では、行って参ります」
と頭を下げた。

 こちらを振り向いた成田が何故か黙り込む。

「やあ、あまりちゃん。
 すごい仕事の出来そうなOLさんに見えるよー」
とマスターが褒めてくれた。

 海里が居たら、働かなきゃな、と言い出しそうだが……。

『……この俺を振った報復、たっぷりとしてやるからな』
と言う海里の言葉を思い出し、背筋がぞくっとしたとき、成田が言ってきた。

「あまり、いろいろと気をつけろよ。
 世の中には物騒な奴がたくさん居るからな」

 海里とか海里とか、海里とか……っ、と何故か呪詛のように繰り返す。

 は、はあ、と思いながら、
「あ、ありがとうございますっ。
 頑張ってきますっ」
と頭を下げた。
 


「来たな、あまり」

 海里に言われた通り、受付に行くと、支社長室に通された。

 支社とはいっても、大きな会社だな、と見回していると、海里が、
「ほう。
 格好だけは立派なOLだな。

 お前のことは、カフェから研修に来たとだけ通達してあるから、せいぜい頑張れ」
と言ってくる。

 は、はい、と言う頭の中では、既にお局様に、羊羹まみれのモップでつつかれていた。

 ああっ、いじめないでくださいっ、と妄想の中で、ビクビク怯えていると、
「寺坂」
と海里がインターフォンで誰かを呼んだ。

 はい、と現れた大柄な男にビクつく。

 スーツの上からでも、がっしりとしたその体格がわかる。

 整ってはいるが、いかつい顔に、斜めに傷など入っていないのが不思議なくらいのご面相だ。

 ……ボディガードの人とか? とそのスーツの下に拳銃でも吊るしているのではないかと見てしまう。

 よく考えたら、日本で銃を持ったボディガードが居るはずもなかったのだが。

「俺の第二秘書の寺坂だ。
 寺坂、こいつを秘書室に連れていけ」

 はい、と寺坂は頭を下げる。

 来い、と言って腕など引きずって行かれ、助けてください~っと海里に向かって叫ぶおのれの姿をなんとなく想像していたのだが。

 寺坂は、うやうやしく頭を下げ、
「こちらへどうぞ、南条様」
と言ってきた。

 すると、今、妄想の中で、吸血鬼のようなマントを羽織り、助けてと叫ぶ自分を蔑むように見て笑っていた海里が、
「寺坂。
 そいつをそんな丁重に扱う必要はない」
と言ってくる。

 うむ。
 こいつはイメージ通りだ、と思っていると、寺坂が笑って言ってきた。

「でも、南条様は、支社長のお見合い相……」

「寺坂」
と海里は最後まで言わせず、その名を呼んだ。

「いいから、あまりを連れていけ。
 絶対、特別扱いするなよっ」

 だが、海里が凄んで見せても、寺坂は笑いを堪えているような顔で、はい、と言い、
「では、こちらへ、南条……南条さん」
と言いかえていた。

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