7 / 89
カフェ店員のやんごとなき事情
猫にとって食われそうなネズミ
しおりを挟むそれでは失礼致します、とカフェを出たあまりは、ビルの立ち並ぶ街中を海里と並んで歩いた。
ど、何処に行くのでしょう。
明日からの仕事に関係あることなのでしょうか。
なんとなく無言のまま二人で夕暮れの街を歩く。
今日が一番心細い感じがするな、と思っていた。
家を出てから、ひとりで行動することが多くなったが、なんとなくつきまとう寂しさを今日が一番強く感じる。
……それはたぶん、横に、このなに考えてんだかわからないイケメン様が居るからだ~っ。
向こうから来た仕事帰りのOLらしき女性が、まず海里を見たあとで、うらやましげにこちらを見ていった。
いやいや、貴女。
なにがうらやましいんですか、と思わず、見知らぬOLに心の中で話しかける。
ケンブリッジ卒で、この年で支社長のイケメンエリート様に真横を無言で歩かれてごらんなさい。
しかも、私は、その恐れ多い縁談を理由も言わずに断った女ですよ。
針のムシロですよっ、と思っていたが、よく考えたら、ただ、横をすれ違っただけの彼女に、そんなことわかるはずもなかった。
そのとき、
「おい」
といきなり、海里が口を開き、
「はははははは、はいっ」
とあまりは、ビクつきながら返事をした。
自分でも、『は』が多すぎるっ! と思いながらも。
俺は、おい、と言っただけだよな。
必要以上にビクつくあまりを見下ろし、海里は思った。
あまりは自分が見るたび、ネズミが猫にとって食われる寸前っ、みたいな顔をする。
……こんなところでとって食うか、と思いながら、斜め前に見えてきた店を指差した。
品のいい品揃えの洋服が並んでいるショップだ。
「お前、あの店知ってるか?」
「あ、通るときよく見ます。
素敵ですよね、高いけど」
高いけどって言葉が出るか。
意外と庶民派だな、と思う。
親がしっかりしているのかもしれない。
お嬢様のわりには、贅沢しているようには見えなかった。
服は高そうな仕立てだし、靴もいい革のを履いているが。
鞄は特にブランドものでもなく、その辺で売ってそうな可愛らしい感じだった。
だが、服にも、あまりのイメージにも合っている。
細かいことにはこだわらない性格なのかもな、と思う。
さっき、自分に言われてスケジュールをメモしていた手帳も、
『これ、100均のなんですけど、薄くて使いやすいんですよー』
と部下が見せてくれたのと同じものだった。
写真で見たイメージのままだな、と思う。
『まあ、写真だけでも見てみなさい。
可愛らしい娘さんじゃないか。
父親にひとつも似てなくて、邪悪さの欠片もないぞー』
とまだ酔ったまま、スマホに転送してもらったらしい写真を父親が見せてきた。
いや、邪悪って、あんた、友だちじゃないのか、と思いながら、その画面を覗き込んだ――。
今、横に居るあまりは、これからなにがあるんだろう? という感じで、おっかなびっくり自分の次の言葉を待っている。
そのビクビクした感じに、笑いそうになりながらも、なんとか堪えた。
「ちょっと寄っていこう」
と言うと、は? とあまりはこちらを見上げる。
22
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
ある朝、クルーザーの中で目覚めた一宮深月(いちみや みつき)は、隣にイケメンだが、ちょっと苦手な支社長、飛鳥馬陽太(あすま ようた)が寝ていることに驚愕する。
大事な神事を控えていた巫女さん兼業OL 深月は思わず叫んでいた。
「神の怒りを買ってしまいます~っ」
みんなに深月の相手と認めてもらうため、神事で舞を舞うことになる陽太だったが――。
お神楽×オフィスラブ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる