上 下
59 / 65
俺にも呪いがかかっている

さんすくみか

しおりを挟む
 

「なにこれ、あざとい」
とお昼休み、いきなり、マキが言い出した。

 いつもの場所で、お弁当を食べたあと、朝霞がチャットアプリを確認していたら、後ろから覗いてきたのだ。

「なにがあざといの?」

「だってさ。
 王子へのメッセージに、『うさぎして』とか可愛いこと書いちゃって。

 素なの? これ。
 ウケ狙い?」

 どうウケ狙うと言うんだ……と思いながら、朝霞は言った。

「それ、音声入力。
 よく入れ間違うんだよ。

 この間も、待ち合わせ場所に近づいたから、

『来たよ!』
 って入れたつもりが、

『来たる!』
 って入ってた」

「……あんた、何者よ」

 なにが現れるのかと思うじゃないのよ、とマキに言われる。

「でもさー」
と仁美が口を挟んできた。

「あんまりあざといのはあれだけど。
 少しは可愛らしい演技も必要かもね、女子としては」

 そう渋い顔して、言う。

「……可愛らしい演技」
と朝霞はスマホをつかんだまま呟いた。

 どうやってっ!?
と思ったのだ。

 仁美を窺うように見ると、仁美はマキを窺う。

 そして、マキは朝霞を窺った。

 さんすくみか。

 ……違うか。

 意図的に可愛くなど振る舞えない三人は、

「……あ、私、マドレーヌ焼いてきた、食べる?」

「食べる食べる。
 あんた、意外な特技ね」

「美味しいんだよ、仁美のマドレーヌ」
ととりあえず、その話題から離れてみた。
 



 夢の中、朝霞はあの洞穴の前に居た。

 満天の星空の下、王子のために制服を着ると言ったはずなのに、朝霞はまだ、ドレスを着ていた。

 脱ぎがたかったんだな、と自分で思う。

 制服は現実世界でも着られるが、ドレスはリアルで着て歩いたら、

 ……着て歩いたら、

 みんなに振り返られるからな、と思ったとき、王子は朝霞に向かい、なにかを突き出してきた。

 朝霞の手のひらに、赤い石を落とす。

「なんですか、これ。
 ルビー……?」

「やる」

 いきなり宝石を押し付けてきた隣の国の王子と変わらぬ唐突さだ。

「約束したろう、ひとつ、石をくれてやると。

 お前のように明るくて騒がしい石」

 王子の中では、ルビーがそういうイメージなのだろうか、と思いながら、

「あ、ありがとうございます」
と言ったあとで、朝霞が気がついた。

 その石が指輪に加工されていることに。

「王子、この指輪。
 穴から見つかったんですか?」

「いいや。
 城の宝石箱から見つかった」

「……それ、見つかったって言うんですかね?
 っていうか、いいんですか?」
と訊いた朝霞に、

「いいんだ。
 お前にやりたかったんだ。

 手を出せ、ほら」
と王子が言って、朝霞の手をつかんだところで、目が覚めた。

 あ~、王子~っと朝霞は思う。

 ご馳走を食べようとすると、目が覚めるのと同じだ。

 指輪なんてくれなくてよかったです、王子。

 そんなことより、私は、もうちょっと……

 ただもうちょっと一緒にいて、星でも眺めていたかったんですよ。

 でも、ありがとうございます、と朝霞は寝たまま、指輪のはまっていないおのれの手を日にかざしてみた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

最強パーティーのリーダーは一般人の僕

薄明
ファンタジー
ダンジョン配信者。 それは、世界に突如現れたダンジョンの中にいる凶悪なモンスターと戦う様子や攻略する様子などを生配信する探索者達のことだ。 死と隣り合わせで、危険が危ないダンジョンだが、モンスターを倒すことで手に入る品々は、難しいダンジョンに潜れば潜るほど珍しいものが手に入る。 そんな配信者に憧れを持った、三神《みかみ》詩音《しおん》は、幼なじみと共に、世界に名を轟かせることが夢だった。 だが、自分だけは戦闘能力において足でまとい……いや、そもそも探索者に向いていなかった。 はっきりと自分と幼なじみ達との実力差が現れていた。 「僕は向いてないみたいだから、ダンジョン配信は辞めて、個人で好きに演奏配信とかするよ。僕の代わりに頑張って……」 そうみんなに告げるが、みんなは笑った。 「シオンが弱いからって、なんで仲間はずれにしないといけないんだ?」 「そうですよ!私たちがシオンさんの分まで頑張ればいいだけじゃないですか!」 「シオンがいないと僕達も寂しいよ」 「しっかりしなさいシオン。みんなの夢なんだから、諦めるなんて言わないで」 「みんな………ありがとう!!」 泣きながら何度も感謝の言葉を伝える。 「よしっ、じゃあお前リーダーな」 「はっ?」 感動からつかの間、パーティーのリーダーになった詩音。 あれよあれよという間に、強すぎる幼なじみ達の手により、高校生にして世界トップクラスの探索者パーティーと呼ばれるようになったのだった。 初めまして。薄明です。 読み専でしたが、書くことに挑戦してみようと思いました。 よろしくお願いします🙏

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

不死殺しのイドラ

彗星無視
ファンタジー
【第一部】 大陸の果てにある小さな村で暮らす少年、イドラは外の世界に憧れていた。しかしイドラが十歳の時に天から賜った天恵、ギフトは紙のひとつも切れずなんの役にも立たない代物だった。ザコギフトと周囲に揶揄されてばかりのイドラだったが、村に現れた女旅人・ウラシマに導かれ、不死の怪物『イモータル』を巡るイドラの長い旅が幕を開ける。 イドラのギフトに隠された秘密、そしてウラシマの旅の目的とは? さらに『葬送協会』のエクソシストたちや、『不死憑き』と呼ばれて差別される少女・ソニア。旅の中でイドラは数々の出会い、そして別離を経験していく。 ——これは不死殺しと謳われる少年の、別れと再会の物語。 【第二部】 伝承をたどって『雲の上』に到達したイドラたちを待ち受けていたのは、以前ウラシマの語った石の街並みだった。かつて東京と呼ばれていたその都市は、今や残骸同然の荒れ様となっていた。その世界に魔物はなく、イモータルもいない。されど人類を絶滅するための使者、『アンゴルモア』が地上を闊歩し、人類は今や絶滅の危機に瀕していた。世界の果てで、イドラは眠る恩師と再会を果たし、ソニアは不死憑きの力を失っていく。さらに密かな想いを秘めるベルチャーナと、宿願を果たさんとするレツェリ。アンゴルモアの侵攻が苛烈さを増す中、過去の事件と数多の思惑が交錯する。か細く灯る文明の火は、やがてほかならぬこの星によって消されてしまうのだろうか? *この小説は小説家になろう/カクヨムにも掲載しています。

処理中です...