オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

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新しい王子が現れました

ついに、女王様が現れましたっ

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 でっかい暖炉がある。

 火がつくのだろうか、などと思いながら、朝霞が応接間のソファに座っていると、呼びに行った十文字とともに、女王様が現れた。

 そう思ったのは、あの夢のせいではない。

 本当に女王様かと思う女性が現れたのだ。

 いや、休日なので、シンプルなパンツ姿なのだが、雰囲気がもう女王様だ。

 っていうか、顔が先輩に瓜二つなんだが……と思いながら、朝霞はお尻に針でも刺されたかのように飛んで立ち上がる。

「はっ、初めましてっ。
 鬼龍院朝霞と申しますっ」
と頭を下げた。

「初めまして。
 はるの母の紀和きわです」

 そう挨拶した紀和は、どうぞ、と仕草で朝霞に座るように促す。

 紀和も向かいの椅子に腰を下ろした。

 そのまま黙ってこちらを見ている。

 め、面接のようだ……と朝霞は固まっていた。

「晴、この方は、あなたの彼女なの?」

 正面からそう問われ、十文字は困っていた。

「……そういうことにしておいた方が、ここは話がスムーズか?」

「先輩、口から真実が全部出ています」

 こういうところ、我々は似ているようだ……と朝霞は思っていた。

 結婚したら、きっと、似た者夫婦になるだろう、と付き合ってもいないのに思ってしまう。

 紀和はひとつ溜息をつき、

「まあ、いいわ。
 では、お友だちということで。

 朝霞さん、おうちは何処?

 お父様はなんのお仕事を?

 晴と同じ学校なの?
 じゃあ、とりあえず、頭はいいのね」
と矢継ぎ早に質問してくる。

 いや、全然、お友だちに対する質問ではありませんけど……と朝霞は青ざめていた。

「俺より頭いいかもしれないぞ、今年の新入生代表だから」
と十文字が言う。

 いや……そんな莫迦な、と思う朝霞の前で、紀和が驚きの声を上げた。

「まあ、そうなの?
 とても、そんな風には見えないわ」

 ……いや、どういう意味でですか、と朝霞は苦笑いする。

「普通、そういう子って、やっぱり何処か鼻にかけてるようなところがあるけど。
 晴みたいに」
とすかさず息子に毒を吐きつつ、紀和は言った。

「あなたは全然、そういうのないわね。
 確かに賢そうな顔はしてるけど。

 1+2=2とか言い出しそうな、ぼんやりした雰囲気なのに」

「お母様は超能力者ですか」
と朝霞は身を乗り出した。

「この間、やりました、それ。
 足し算と掛け算間違えるの」

「あなた、小学生?」
と言われてしまったが、嫌な感じはしなかった。

 嫌味を言おうとして、ではなく、ただ、本当にそう思った、という感じで出た言葉だったからだろう。

 ……余計悪いが。

 朝霞はうっかりミスが多いのだ。

 それでいつも点を落とすのだが、入試のときは、たまたま、全教科うっかりミスがなかったのだ。

 だから、新入生代表はただの偶然の産物だ、と朝霞は思っている。

 そのあと、朝霞の持ってきた、新しく出来た評判の洋菓子店のケーキを食べた頃から、かなり紀和とは打ち解けてきた。

「そうなんですよー。
 うちの親も算数の解き方が昔と違うとか。

 歴史の年号が違うとかよく言うんですよねー」

「晴もねえ。
 今はこんな、ひとりで賢くなったような顔してるけど。

 小学生の頃は、私が勉強見ていたのよ」

 あっ、こらっ、という顔を十文字がする。

「鎌倉幕府の成立とかも変わったわよね。

 なんだったかしら?

 1185《イイハコ》 作ろう 鎌倉幕府?

 いい箱ってなによ?」

 意味がわからないわよ、という紀和に、

「いい国の方が筋が通ってたのに。
 隠し通せばよかったですよね」
と思わず言って、

「誰に?」

「なにを?」
と十文字と紀和に言われる。

 なんだかんだで、息ぴったりですよね……と思いながら、朝霞は、こぼれ落ちそうなくらいイチゴののったタルトにサクリとフォークを刺した。


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