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ついにドレスを着ましたっ!

暇なら、来い

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 ふふふふ、と昼休み、あの側溝のところでお弁当を食べていたら、マキがこらえきれなくなったように笑い出した。

「どうしたの? マキちゃん」
と朝霞が訊くと、

「実はね。
 告白されたのよ、E組の男子から」
とマキは言い出す。

「ええっ?
 そうなのっ? すごいねっ」

「いや、それがさ。
 最近、私、あんたといるじゃない。

 それで目につくようになったんだって。

 朝霞姫にもおくさず話しかけている可愛い子だなって思ったって」

「いやそれ、朝霞がいいなと思って見てたけど。
 全然手が届きそうにもないから、まあ可愛いあんたでいいやって話じゃないの?」
と冷ややかに仁美が言う。

「だったらなによ。
 最終的に選ばれたのは私なんだからいいじゃない。

 っていうか、あんたの口から、可愛いって出たから、むしろビックリしたわよ、今」
とマキは言う。

「私は別に真実を押し曲げてまで、あんたを貶めようとは思わないだけよ。
 それにこれで、佐野村をめぐるライバルもひとり減るわけだしね」

 お弁当の艶やかな白いお米を食べながら、仁美は言った。

「なに言ってんのよ、減らないわよ。
 言われて嬉しかったってだけの話よ」
とマキは言う。

 受けるつもりはないようだ。

 まあ、そうだろうと思った、と朝霞は思う。

 さっき、マキがこの話をしたとき、E組の男子、という言い方をしたからだ。
 おそらく、名前も覚えてはいまい。

 ただ、告白されたことが嬉しかっただけなのだ。

「そういえば、あんた、自分はオタクですって言ったの?」
と仁美が口を挟んでいる。

「なんでいちいち言って歩かなきゃならないのよっ。
 そのうち、知れるわよっ」

 オタクであることは認めて、マキは言う。

「いいなあ、告白とかされてみたいなー」

 程よく焦げた醤油の香りのする肉とピーマンの炒め物を食べながら朝霞は言った。

 すると、マキはそんな朝霞を見て、勝利の高笑いをする。

「過ぎたるは及ばざるがごとしって、まさに、あんたの顔のことかもねっ。
 みんな姫の称号にびびってあんたに声かけないしっ」

 仁美が、まあねー、と言う。

「確かに昔から、私の方がまだモテててた気がする」

 そういえば、仁美は昔からスポーツで目立っていた。

「でもさ、朝霞。
 きっと十文字先輩はあんたにちょっとは気があるよ」

 それを聞いたマキもそうねえ、と言う。

「ま、とりあえず、好きな人が自分を好きでいてくれれば、特にモテなくても幸せよね。

 ……だから、早く、佐野村との仲を取り持ちなさいよ」
と言ったマキに仁美が言い返し、

「あんた、なにどさくさ紛れに図々しいこと言ってんのよっ」
といつものように、二人は揉め出した。




「朝霞」

 昼休みが終わり、教室に戻ろうと廊下を歩いていたら、朝霞は、すごくいい声の人に呼び止められた。

 先輩だ、と振り返る前にわかり、どきりとする。

 乙女ゲームの声の人は、みんなうっとりするような声をしているが。

 ひいき目抜きでも、先輩の声は、同じくらい、うっとりな声だな、と思いながら、びくびく振り返った。

 なにを言われるかと思ったのだ。

 少し離れた位置から十文字が言ってくる。

「今朝、言いそびれたんだが、この日曜は暇か?」

「……は?」

「珍しく、昼間、うちの親がいるんだ」

 ああ、母親の方な、と十文字が付け足す。

「暇ならうちに来い。
 なんだったら、鬼龍院たちも一緒で構わんぞ」

 ……あの、私も鬼龍院なんですが。

 相変わらず、呼び方変えないですよね~と朝霞は思っていた。

 うちに遊びに来ているときでも迷いなく兄を、
「鬼龍院」
と呼ぶので、家族全員、振り向いてしまう。

 だが、そのなにものにも揺らがないマイペースなところが好きだな、と朝霞は思っていた。


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