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第四章 覚醒編
縁談用の釣書
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あれから、ルーファスは一日の大半を寝て過ごすようになってしまった。
不眠症だったルーファスが寝れるのはいいことだが、あまりにも寝ている時間が長い。
一日に起きている時間の方が短くて、心配になる。このまま彼が目を覚まさないのではないかと…。
呼吸はしているので眠っているだけだとは分かっていても、このまま息が止まってしまうのではないかと考えてしまう。
その上、ルーファスは数日前から熱を出すようになってしまった。
高熱ではないが、熱のせいで全身に力が入らず、倦怠感もあるので余計に睡眠時間が長いのだ。
リスティーナは外に出られないルーファスの為に庭で花を摘んでいく。
この花が少しでもルーファス様の慰めになってくれるといいな。
そんな思いで摘んだ花をルーファスの元に持っていく。
リスティーナが庭に行った直後、丁度入れ違いでルカが氷を持ってルーファスの部屋に入った。
「殿下!?起きてて、大丈夫なんですか?」
「…ああ。」
「でも、顔色すごい悪いですよ。休んだ方がいいですって!あれ?そういえば、リスティーナ様は?」
ルカが部屋に入ると、ルーファスが上体を起こして、何か書類のような紙に目を通していた。
ルカは休むように促しながら、いつも傍にいるリスティーナの姿がないことに気が付き、辺りを見回した。
「リスティーナなら、庭に…、」
ルーファスが書類を捲りながら、そう答えると、突然、クラッと強い眩暈が襲った。
そのまま倒れそうになるが寸での所で手で身体を支える。
「殿下!大丈夫ですか!?」
「…大丈夫、だ。」
頭を押さえて、フウ、と息を吐き出す。眩暈はすぐにおさまっていた。
さっき、眩暈のせいで身体のバランスを崩しかけた為、書類を落としてしまっていた。
ルーファスはそれを拾おうとするが、
「あ、僕が拾いますよ!」
そう言って、ルカは落ちた書類を拾った。すると、そこに書かれた内容に目が留まる。
それは、王族や貴族の独身男性の釣書だった。こ、これって…!まさか、縁談用の…!?
「ルカ。早く書類を…、」
「で、殿下!何ですか!これ!?何で縁談の釣書なんか見てるんですか!」
バッと書類をかざして、ルーファスに詰め寄る。
まさかと思い、他の書類にも片っ端から目を通せば、どれも似たような内容で、独身男性ばかりをリストアップしたものばかりだった。
「リスティーナの再婚先を検討しているんだ。…俺が死んだ後、リスティーナは王宮にいられなくなるからな。リスティーナを守ってくれる相手が必要だ。」
「そ、そんな事…!まだ、分からないじゃないですか!大体、このこと、本人は知っているんですか?」
「リスティーナには話していない。俺が死んだ後の事はロジャーに任せてある。」
「じゃ、リスティーナ様は何も知らないってことですか!?そんなの、あんまりじゃないですか!
こんなことされてリスティーナ様が喜ぶとでも!?リスティーナ様は本当に殿下の事が好きなんですよ!好きな人が自分の再婚先を探してるなんて知ったらどんな気持ちになるか…!」
「これは、リスティーナの為なんだ。ルカ。お前も知っているだろう。リスティーナが母国でどんな扱いを受けてきたのかを。」
「それは…、はい。ロジャーさんから聞きましたけど…、」
「メイネシアの国王は既にリスティーナの再婚先を決めている。」
「はあ!?え、ど、どういう事ですか!?」
「リスティーナと再婚したいと申し出た他国の貴族が国王に大金を積んだんだ。金に目が眩んだ国王はその申し出を受け入れたという訳だ。」
「それって、大金と引き換えに娘を売ったってことですか!?」
「リスティーナの父親は実の娘を離宮に放置して、いない者として扱っておきながら、捨て駒のようにこの国に嫁がせた男だぞ。金の為に娘を売る位平気でするだろう。例え、相手が親子ほど、年の離れた男であったとしてもだ。」
「え!親子ほどって…、その求婚相手、幾つなんですか!?」
「四十代半ばだ。しかも、前妻との間に子供もいる。長男の跡継ぎはもう成人していて、リスティーナよりも年上だそうだ。」
「よ、四十代っておじさんじゃないですか!しかも、子供もいるんですか!?信じられない…!メイネシア国王には人の心ってものがないんですか!」
「これで、分かっただろう。俺に何かあればリスティーナは王宮を追い出され、母国に送り返される。
あの国王の事だ。リスティーナの意思も聞くことなく、強制的に再婚させる位は平気でやるだろう。
それを避けるには、この国で居場所を作ることが必要だ。」
「だから、リスティーナ様の再婚先を決めようとしているんですか?…殿下はそれでいいんですか?」
ルカの質問にルーファスは一瞬、沈黙するが…、
「リスティーナはまだ十七歳だ。彼女にはこれからの人生がある。心配しなくても、ちゃんとリスティーナを心から愛して、大切にしてくれる誠実な男性を選ぶつもりだ。リスティーナは身分や地位など気にしないだろうから、条件次第によっては、平民相手を視野に入れても…、」
「そういう事を聞いているんじゃないんです!リスティーナ様の為を想ってやっていることは分かります。分かりますけど!殿下は本ッ当にそれでいいんですか!?後悔しないんですか!?」
ルカの言葉にルーファスはピクッと反応し、ギュッと拳を握り締める。
「大体、何で自分が死ぬこと前提で話進めてるんですか!まだ死ぬと決まったわけじゃないのに…!」
「俺は主治医から余命宣告を受けている身だぞ。それに、自分の体の事は俺が一番よく分かっている。俺の身体はもう…、もたない。」
「ッ…!」
ルカは息を吞み、何も言えなくなった。
「ルカ。悪いが一人にしてくれ。」
そう言って、ルーファスはルカの手から書類を取り返した。すると、ルカがバッとルーファスの手から書類を引っ手繰った。
「なっ…!」
「納得できません!こんなの!こんな事されて、リスティーナ様が喜ぶとでも!?リスティーナ様は本当に殿下が好きなんですよ!殿下がリスティーナ様の為を思ってやっていることは分かりますけど、これは違うでしょ!
とにかく!これは僕がお預かりします!殿下が今することは、よく休んで体力を回復することです!」
では!と言って、ルカは書類を抱えて部屋から出て行ってしまう。
ルーファスはルカの後姿を見送る事しかできなかった。
バタン、と扉が閉まると、ルーファスは誰もいなくなった部屋でぽつりと呟いた。
「人の気も知らないで勝手な事を…、」
ルカに言われた言葉を思い出し、ルーファスはギリッと歯を食い縛り、顔を手で覆った。
後悔しないかだと?そんな事、聞かれるまでもない。
誰が好き好んで愛する女性を自分以外の男に渡したいだなんて思う。
リスティーナを他の男に渡すなんて、嫌に決まっているだろう…!
俺だってこんな事はしたくない!したくないんだ!
できる事なら、リスティーナには俺以外の男と結婚しないで欲しい。
例え、俺が死んだとしても、この先、俺以外の男のものになるなんて嫌だ。
ずっと俺だけを忘れずにいて…、俺だけのリスティーナでいて欲しい。
だけど…、これは俺のエゴでしかない。俺のこんな身勝手な感情をリスティーナに押し付けるのは間違っている。
今の俺ができることは、自分の身勝手な感情を押し付けるよりもリスティーナの幸せを願う事だ。
リスティーナの幸せを願うなら、俺のこの醜い感情は蓋をしておかなければいけない。
これがリスティーナの為なんだ。そう無理矢理自分を納得させて、必死に気持ちを抑えてきた。
それなのに…、ルーファスは今まで抑えてきたものが溢れだしそうになった。
リスティーナを守りたい、幸せになって欲しいという気持ちに嘘はない。
だけど…、俺以外の男と結ばれて欲しくない。そんな相反する感情がせめぎ合う。
俺が死んだ後、再婚したリスティーナは俺以外の男と人生を共にする。
自分が望んだことなのに、考えただけで身を斬られるような痛みがする。
リスティーナはその男に笑いかけたり、手を握ったりするのだろうか。俺にしてくれたように…。
想像するだけで吐き気がした。
…嫌だ。リスティーナが俺以外の男に笑いかけたり、触れるだなんて、許せない。
リスティーナには俺だけを見て欲しい。他の男なんて見ないで俺だけを…。
触れるだけでも許せないというのに、キスやそれ以上の行為をする等、考えただけで怒りが湧いてくる。
嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。ドロリ、とした黒い感情が胸に広がる。相手の男に殺意を抱いてしまう程に…。
「ハッ…、」
ルーファスは思わずこんな自分に呆れて笑ってしまう。何がリスティーナには幸せになって欲しい、だ。
リスティーナが他の男と幸せになる未来をこんなにも受け入れられない自分がいるというのに…。
いや…。違う。本当は心のどこかで気付いていた。
それなのに、俺はずっとそれに気付かない振りをしていた。現実に向き合うのが怖かったからだ。
リスティーナの幸せの為と口では言いつつ、その本心は全く異なっていたというのに…。
リスティーナの幸せを願う事ができない俺を彼女に知られたくなかった。
だから、必死に自分に言い聞かせて、取り繕っていた。
だけど、やっぱり無理だ。俺はそんなにできた人間じゃない。
「……。」
ルーファスは自分の手首を見つめる。枯れ枝のような手…。寝台の横の机に置いてある手鏡を手に取る。
目の下の隈はくっきりと濃く残っていて、血色が悪く、顔色も悪い。見るからに弱々しい病人そのものだ。
鏡を元に戻し、ルーファスは枕に頭を沈めると、天井をぼんやりと見上げた。
俺が今からすることは最低で卑怯なことだ。自分でもそれは十分に理解している。
だけど、構わない。他人にどう思われようと関係ない。リスティーナが他の男と再婚することがないようにする為なら、手段は問わない。
俺はこれから、リスティーナが再婚しないように説得する。
それが例え、リスティーナの優しさに付け込むような行為だったとしても…。
ルーファスはそっと目を瞑った。
不眠症だったルーファスが寝れるのはいいことだが、あまりにも寝ている時間が長い。
一日に起きている時間の方が短くて、心配になる。このまま彼が目を覚まさないのではないかと…。
呼吸はしているので眠っているだけだとは分かっていても、このまま息が止まってしまうのではないかと考えてしまう。
その上、ルーファスは数日前から熱を出すようになってしまった。
高熱ではないが、熱のせいで全身に力が入らず、倦怠感もあるので余計に睡眠時間が長いのだ。
リスティーナは外に出られないルーファスの為に庭で花を摘んでいく。
この花が少しでもルーファス様の慰めになってくれるといいな。
そんな思いで摘んだ花をルーファスの元に持っていく。
リスティーナが庭に行った直後、丁度入れ違いでルカが氷を持ってルーファスの部屋に入った。
「殿下!?起きてて、大丈夫なんですか?」
「…ああ。」
「でも、顔色すごい悪いですよ。休んだ方がいいですって!あれ?そういえば、リスティーナ様は?」
ルカが部屋に入ると、ルーファスが上体を起こして、何か書類のような紙に目を通していた。
ルカは休むように促しながら、いつも傍にいるリスティーナの姿がないことに気が付き、辺りを見回した。
「リスティーナなら、庭に…、」
ルーファスが書類を捲りながら、そう答えると、突然、クラッと強い眩暈が襲った。
そのまま倒れそうになるが寸での所で手で身体を支える。
「殿下!大丈夫ですか!?」
「…大丈夫、だ。」
頭を押さえて、フウ、と息を吐き出す。眩暈はすぐにおさまっていた。
さっき、眩暈のせいで身体のバランスを崩しかけた為、書類を落としてしまっていた。
ルーファスはそれを拾おうとするが、
「あ、僕が拾いますよ!」
そう言って、ルカは落ちた書類を拾った。すると、そこに書かれた内容に目が留まる。
それは、王族や貴族の独身男性の釣書だった。こ、これって…!まさか、縁談用の…!?
「ルカ。早く書類を…、」
「で、殿下!何ですか!これ!?何で縁談の釣書なんか見てるんですか!」
バッと書類をかざして、ルーファスに詰め寄る。
まさかと思い、他の書類にも片っ端から目を通せば、どれも似たような内容で、独身男性ばかりをリストアップしたものばかりだった。
「リスティーナの再婚先を検討しているんだ。…俺が死んだ後、リスティーナは王宮にいられなくなるからな。リスティーナを守ってくれる相手が必要だ。」
「そ、そんな事…!まだ、分からないじゃないですか!大体、このこと、本人は知っているんですか?」
「リスティーナには話していない。俺が死んだ後の事はロジャーに任せてある。」
「じゃ、リスティーナ様は何も知らないってことですか!?そんなの、あんまりじゃないですか!
こんなことされてリスティーナ様が喜ぶとでも!?リスティーナ様は本当に殿下の事が好きなんですよ!好きな人が自分の再婚先を探してるなんて知ったらどんな気持ちになるか…!」
「これは、リスティーナの為なんだ。ルカ。お前も知っているだろう。リスティーナが母国でどんな扱いを受けてきたのかを。」
「それは…、はい。ロジャーさんから聞きましたけど…、」
「メイネシアの国王は既にリスティーナの再婚先を決めている。」
「はあ!?え、ど、どういう事ですか!?」
「リスティーナと再婚したいと申し出た他国の貴族が国王に大金を積んだんだ。金に目が眩んだ国王はその申し出を受け入れたという訳だ。」
「それって、大金と引き換えに娘を売ったってことですか!?」
「リスティーナの父親は実の娘を離宮に放置して、いない者として扱っておきながら、捨て駒のようにこの国に嫁がせた男だぞ。金の為に娘を売る位平気でするだろう。例え、相手が親子ほど、年の離れた男であったとしてもだ。」
「え!親子ほどって…、その求婚相手、幾つなんですか!?」
「四十代半ばだ。しかも、前妻との間に子供もいる。長男の跡継ぎはもう成人していて、リスティーナよりも年上だそうだ。」
「よ、四十代っておじさんじゃないですか!しかも、子供もいるんですか!?信じられない…!メイネシア国王には人の心ってものがないんですか!」
「これで、分かっただろう。俺に何かあればリスティーナは王宮を追い出され、母国に送り返される。
あの国王の事だ。リスティーナの意思も聞くことなく、強制的に再婚させる位は平気でやるだろう。
それを避けるには、この国で居場所を作ることが必要だ。」
「だから、リスティーナ様の再婚先を決めようとしているんですか?…殿下はそれでいいんですか?」
ルカの質問にルーファスは一瞬、沈黙するが…、
「リスティーナはまだ十七歳だ。彼女にはこれからの人生がある。心配しなくても、ちゃんとリスティーナを心から愛して、大切にしてくれる誠実な男性を選ぶつもりだ。リスティーナは身分や地位など気にしないだろうから、条件次第によっては、平民相手を視野に入れても…、」
「そういう事を聞いているんじゃないんです!リスティーナ様の為を想ってやっていることは分かります。分かりますけど!殿下は本ッ当にそれでいいんですか!?後悔しないんですか!?」
ルカの言葉にルーファスはピクッと反応し、ギュッと拳を握り締める。
「大体、何で自分が死ぬこと前提で話進めてるんですか!まだ死ぬと決まったわけじゃないのに…!」
「俺は主治医から余命宣告を受けている身だぞ。それに、自分の体の事は俺が一番よく分かっている。俺の身体はもう…、もたない。」
「ッ…!」
ルカは息を吞み、何も言えなくなった。
「ルカ。悪いが一人にしてくれ。」
そう言って、ルーファスはルカの手から書類を取り返した。すると、ルカがバッとルーファスの手から書類を引っ手繰った。
「なっ…!」
「納得できません!こんなの!こんな事されて、リスティーナ様が喜ぶとでも!?リスティーナ様は本当に殿下が好きなんですよ!殿下がリスティーナ様の為を思ってやっていることは分かりますけど、これは違うでしょ!
とにかく!これは僕がお預かりします!殿下が今することは、よく休んで体力を回復することです!」
では!と言って、ルカは書類を抱えて部屋から出て行ってしまう。
ルーファスはルカの後姿を見送る事しかできなかった。
バタン、と扉が閉まると、ルーファスは誰もいなくなった部屋でぽつりと呟いた。
「人の気も知らないで勝手な事を…、」
ルカに言われた言葉を思い出し、ルーファスはギリッと歯を食い縛り、顔を手で覆った。
後悔しないかだと?そんな事、聞かれるまでもない。
誰が好き好んで愛する女性を自分以外の男に渡したいだなんて思う。
リスティーナを他の男に渡すなんて、嫌に決まっているだろう…!
俺だってこんな事はしたくない!したくないんだ!
できる事なら、リスティーナには俺以外の男と結婚しないで欲しい。
例え、俺が死んだとしても、この先、俺以外の男のものになるなんて嫌だ。
ずっと俺だけを忘れずにいて…、俺だけのリスティーナでいて欲しい。
だけど…、これは俺のエゴでしかない。俺のこんな身勝手な感情をリスティーナに押し付けるのは間違っている。
今の俺ができることは、自分の身勝手な感情を押し付けるよりもリスティーナの幸せを願う事だ。
リスティーナの幸せを願うなら、俺のこの醜い感情は蓋をしておかなければいけない。
これがリスティーナの為なんだ。そう無理矢理自分を納得させて、必死に気持ちを抑えてきた。
それなのに…、ルーファスは今まで抑えてきたものが溢れだしそうになった。
リスティーナを守りたい、幸せになって欲しいという気持ちに嘘はない。
だけど…、俺以外の男と結ばれて欲しくない。そんな相反する感情がせめぎ合う。
俺が死んだ後、再婚したリスティーナは俺以外の男と人生を共にする。
自分が望んだことなのに、考えただけで身を斬られるような痛みがする。
リスティーナはその男に笑いかけたり、手を握ったりするのだろうか。俺にしてくれたように…。
想像するだけで吐き気がした。
…嫌だ。リスティーナが俺以外の男に笑いかけたり、触れるだなんて、許せない。
リスティーナには俺だけを見て欲しい。他の男なんて見ないで俺だけを…。
触れるだけでも許せないというのに、キスやそれ以上の行為をする等、考えただけで怒りが湧いてくる。
嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。ドロリ、とした黒い感情が胸に広がる。相手の男に殺意を抱いてしまう程に…。
「ハッ…、」
ルーファスは思わずこんな自分に呆れて笑ってしまう。何がリスティーナには幸せになって欲しい、だ。
リスティーナが他の男と幸せになる未来をこんなにも受け入れられない自分がいるというのに…。
いや…。違う。本当は心のどこかで気付いていた。
それなのに、俺はずっとそれに気付かない振りをしていた。現実に向き合うのが怖かったからだ。
リスティーナの幸せの為と口では言いつつ、その本心は全く異なっていたというのに…。
リスティーナの幸せを願う事ができない俺を彼女に知られたくなかった。
だから、必死に自分に言い聞かせて、取り繕っていた。
だけど、やっぱり無理だ。俺はそんなにできた人間じゃない。
「……。」
ルーファスは自分の手首を見つめる。枯れ枝のような手…。寝台の横の机に置いてある手鏡を手に取る。
目の下の隈はくっきりと濃く残っていて、血色が悪く、顔色も悪い。見るからに弱々しい病人そのものだ。
鏡を元に戻し、ルーファスは枕に頭を沈めると、天井をぼんやりと見上げた。
俺が今からすることは最低で卑怯なことだ。自分でもそれは十分に理解している。
だけど、構わない。他人にどう思われようと関係ない。リスティーナが他の男と再婚することがないようにする為なら、手段は問わない。
俺はこれから、リスティーナが再婚しないように説得する。
それが例え、リスティーナの優しさに付け込むような行為だったとしても…。
ルーファスはそっと目を瞑った。
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