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第三章 立志編
謎の声
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「話を戻すが…、リスティーナ。つまり、君はコインを隠されていても、コインがどこにあるかを見る事ができるという事か?」
「あ、はい。上手く言えないんですけど…、集中して、一点だけを見つめればぼんやりとですけど、コインの輪郭が浮かび上がってくるんです。そのお蔭で何とか当てることができて…、」
「その時、ラシードはどんな反応をしていた?」
「ラシード殿下の?えっと…、あんまり覚えていないんですけど、すごい驚いていた様子でした。後…、勝負中もすごい視線を感じて…。コインを見ていたというより、私の顔を凝視していたような気がするんですけど…、あ。でも、それはただの勘違いだったかもしれないです!」
さすがにそれは自意識過剰だ。リスティーナは一瞬感じた自分の考えをすぐさま否定した。
ルーファスは表情を曇らせ、
「まさか、あいつ…。」
ぼそりと低く、呟いたかと思うと、ルーファスはリスティーナに向き直ると、
「つまり、ラシードは勝負を中断し、妃になれと君に迫ったんだな?」
「は、はい…。」
「あいつは、それ以外に何か言っていたか?君を正妃にするとか言っていなかったか?」
「あ…、そういえば、場合によっては私を正妃にしてあげてもいいって言っていたような…。で、でも、さすがに本気ではないと思います。きっと、あれはただ酔ってただけで…、」
リスティーナが言い終わる前にルーファスがいきなり寝台から起き上がり、立ち上がった。リスティーナは驚いて、ルーファスを見上げた。ルーファスの表情は顔色が悪く、焦った表情をしていた。
「る、ルーファス様…?あの、大丈夫ですか?いきなり立ったりして…。」
「……。」
ギリッと歯を食い縛り、爪が食い込みそうな位に手を握り締めるルーファスをリスティーナは不安そうに見つめた。どうしたのかしら?何だか、様子が…。
「ルーファス様。あの、どうかされましたか…?」
「…リスティーナ。今夜はここに泊まってくれ。」
「え、でも…、スザンヌ達が心配しているので…。」
「後宮には使いの者を送らせる。…頼むから、今夜は俺の傍にいてくれ。」
そう言って、ルーファスはリスティーナの肩を掴んでそう懇願した。彼の手が微かに震えている。
ルーファス様…?リスティーナは不思議そうにしながらも、弱々しい表情を浮かべるルーファスに微笑んで頷いた。
「はい。ルーファス様。」
そんなリスティーナにルーファスはそっと優しく抱き締め、耳元に囁いた。
「…ありがとう。」
ルーファス様…?今のルーファス様はまるで何かを怖がっているように見える。
一体、どうしたのだろう?何かあったのかな?
でも…、それは今無理矢理問いただすべきじゃない。
今の私にできる事は…、ルーファス様の傍にいることだ。リスティーナはそっとルーファスを抱き締め返した。
スウスウ、と寝息を立てて眠るリスティーナの寝顔を見下ろしながら、ルーファスはリスティーナの髪を手櫛で梳いていく。
よりにもよって、ラシードがリスティーナの正体に勘づいてしまった。
ラシードは昔から、巫女を妻にすることに執着していた。
パレフィエ国はかつて、巫女の力によって国が繁栄したという歴史がある。
その為、パレフィエ国には巫女伝説が今でも語り継がれ、遺跡や文献が数多く残っている。
巫女伝説によれば、巫女を妻に娶れば、女神の祝福と加護が得られ、国が繁栄するという言い伝えがある。実際、巫女を妻に娶ったことで領地や国が栄えたという実例がある。
巫女を妻にすれば、地位と権力、富を手に入れることができ、国の繁栄にも繋がるということは歴史が証明している。
その為、王族や貴族達は巫女を自分の物にしようと狙う輩が多い。
それは自らの野望の為だったり、国や利益の為だったりと思惑はそれぞれ異なるがそのほとんどが巫女の力を利用しようと企んでいる。
ラシードは昔から、野心のある男だった。
ラシードが王太子に任命されてから、パレフィエ国は急速に成長を遂げている。
ラシードは巫女を妻にすることで、パレフィエ国が栄華を極める為の足掛かりに使うつもりだ。
だからこそ、あいつはローザに近付いたのだ。ローザが巫女の末裔だといわれていたから…。
ルーファスは唇を噛み締めた。
恐らく、ラシードは近いうちに俺に接触してくるはずだ。
リスティーナを手に入れる為に。
ルーファスはリスティーナの瞳が桃色に変化することはとっくに気付いていた。
何度目かの情事中でリスティーナの目が桃色に変わるのをこの目で見たからだ。
初めは気付かなかった。恐らく、最初の方はリスティーナも初めての行為で慣れていなかったし、痛みを感じていたからだろう。
初代巫女であるペネロペ女王の容姿は黒髪紫眼であると伝えられているが一部の伝承によれば、ペネロペの瞳は桃色であったと記されている。
恐らく、ペネロペもリスティーナと同じで普段は紫色の目をしていたが力を使った時のみ瞳が桃色に変化する特徴を持っていたのだろう。
そして、そういった巫女は過去に何人も存在していたようだ。
瞳の色が変わるのも幾つか条件がある。
一番多いのは、神聖力を発動した時。
それ以外でも感情が高ぶったり、行為の最中に強い快感を感じたり、絶頂を味わうと、瞳の色が桃色に変わることもあるらしい。
初めて見た時はルーファスも驚いた。
でも、これで確信した。やはり、彼女は間違いなく、巫女の末裔なのだと。
ルーファスはそっとリスティーナの頬に触れた。
また…、奪われるのか。ラシードの言葉を思い出す。
弱い者は強い者に逆らえない。力がないと、何も守れない。だから、奪われる。
あの時もそうだった。ローザを奪われても俺は何もできなかった。
だけど、仕方ないと思っていた。自分は呪われているから…。
役立たずで出来損ないの王子だからと、諦めていた。俺の手には何も残らない。
いつかは必ず奪われてしまう。だったら、最初から諦めてしまえばいい。
何かに執着すればそれを失った時の喪失感と絶望を味わう。
それなら、最初から何も持たなければいい。
ずっと、そう思って、生きてきた。
だけど…、俺はもう知ってしまった。
彼女の温もりを知ってしまったのだ。この手を離したくない。
今までずっと奪われたばかりの人生だった。だけど…、彼女だけは奪われたくない。
それはルーファスが今までで感じたことのない強い想いだった。
「渡さない…。」
ルーファスは低く、そう呟くと、そっとリスティーナを抱き締めた。
渡したくない…。他の男に奪われたくない。
リスティーナを抱き締める腕に力が籠る。
ラシードの通りだ。弱いままじゃ、愛する女性一人守ることもできない。
『また、奪われても文句は言えないな。』
嫌だ…!嫌だ!もう、奪わるのはたくさんだ!
彼女だけは…、リスティーナだけは…、誰にも渡さない!
俺にもっと、力があれば…!この身体が恨めしい。呪いに侵された身体のせいで満足にリスティーナを守る事すらできない。
せめて、健康な体があれば…!剣や魔法でリスティーナを守ることもできたかもしれないのに。
悔しい。自分の身体が役立たずな事を今以上に悔しく思ったことはない。
力が欲しい。誰にも負けない絶対的な力が…!
『…強くなりたい?』
頭の中に声が響いた。ルーファスはバッと辺りを見回した。
気配は感じなかった。辺りを見回しても、誰もいない。誰だ?一体、どこから…。
不気味な現象にルーファスは辺りを警戒した。
窓が開いていないにも関わらず、どこからともなく、フワッと風が舞い、ルーファスに直撃した。
その瞬間、ルーファスは強い眠気を感じ、そのまま意識が闇に沈んだ。
気付いたら、ルーファスは闇の中にいた。手には剣が握られている。
目の前が真っ暗だ。何も見えない。ルーファスは手探りでゆっくりと歩いていく。
ここは…、どこだ?辺りを見渡しても灯りが一つも見当たらない。
自分の足音と息遣いしか聞こえない。この世界には自分一人しかいないような錯覚に囚われる。
出口は…、どこだ?ルーファスは辺りを警戒しながら、先を急いだ。
その時、どこからか何かが近付いてくるような音が聞こえた。
何だ?ルーファスは警戒して、手にしていた剣を構えた。また、異形の化け物か?
段々と音が近付いてくる。風を切るような音が聞こえる。一体、何の音なんだ?
どこからくる?何も見えない。視覚以外の五感を研ぎ澄まさないと…、
一際大きく、ヒュン!と背後から音が聞こえた。
ルーファスは瞬時に振り返り、感覚のままに剣を振り翳した。キン!と音を立てて、何かが弾き返された。
その直後、岩が破壊するような音が鳴り響いた。何が…、起こっているんだ?
分からない。状況が何も分からない。焦りと不安で息遣いが荒くなる。精神的に動揺したせいか反応するのが一瞬、遅れてしまった。音が間近に迫ってきた。
しまっ…!
慌てて、剣を構え直すが遅かった。ザン!と音を立てて、何かが切断するような音がする。
カラン、と音と共に剣が地面に落下する音がした。同時に、ボトッと何かが落ちた音もした。
「ッ、ああああああああ!」
あまりの激痛にルーファスは悲鳴を上げ、膝をついた。
腕を切られたのだ。それも、両方とも。肘から先の腕がない。
そこから、噴き出す血とそれに伴う痛み。血が止まらない。早く、止血をしないと…!
そう思いながらも、腕を失った身体では止血することもままならない。
その時、また、あの音が聞こえた。ハッと顔を上げると、眼前に白い刃が見えた。その直後、肩に痛みが走り、衝撃に耐えきれず、ルーファスの身体は地面に倒れた。
「うっ…!」
肩から先の腕がない。また、斬られたのか…?何なんだ。これは…、一体、誰がこんな事を…。
敵が誰かも分からないのに…。ルーファスは立ち上がろうとするが自力で立ち上がることができない。視界が歪む。痛みが強くて、気絶しそうだ。ヒュンッ!とまたあの音が近付いてくる。
ルーファスは避けることができない。そのまま、まともに攻撃を食らった。
「ぐああああああああ!」
足が…、足がない。唯一無事だった足ですら、失ってしまった。
痛い!痛い…!気が狂いそうな程の苦痛…!
これは、現実なのか?俺の両腕と両脚は…、本当に失って…?
現実を受け入れたくなくて、思考を停止するルーファスにヒュッ!と音と同時に白刃が振り下ろされる。白刃はルーファスの首を斬り落とした。
「あ、はい。上手く言えないんですけど…、集中して、一点だけを見つめればぼんやりとですけど、コインの輪郭が浮かび上がってくるんです。そのお蔭で何とか当てることができて…、」
「その時、ラシードはどんな反応をしていた?」
「ラシード殿下の?えっと…、あんまり覚えていないんですけど、すごい驚いていた様子でした。後…、勝負中もすごい視線を感じて…。コインを見ていたというより、私の顔を凝視していたような気がするんですけど…、あ。でも、それはただの勘違いだったかもしれないです!」
さすがにそれは自意識過剰だ。リスティーナは一瞬感じた自分の考えをすぐさま否定した。
ルーファスは表情を曇らせ、
「まさか、あいつ…。」
ぼそりと低く、呟いたかと思うと、ルーファスはリスティーナに向き直ると、
「つまり、ラシードは勝負を中断し、妃になれと君に迫ったんだな?」
「は、はい…。」
「あいつは、それ以外に何か言っていたか?君を正妃にするとか言っていなかったか?」
「あ…、そういえば、場合によっては私を正妃にしてあげてもいいって言っていたような…。で、でも、さすがに本気ではないと思います。きっと、あれはただ酔ってただけで…、」
リスティーナが言い終わる前にルーファスがいきなり寝台から起き上がり、立ち上がった。リスティーナは驚いて、ルーファスを見上げた。ルーファスの表情は顔色が悪く、焦った表情をしていた。
「る、ルーファス様…?あの、大丈夫ですか?いきなり立ったりして…。」
「……。」
ギリッと歯を食い縛り、爪が食い込みそうな位に手を握り締めるルーファスをリスティーナは不安そうに見つめた。どうしたのかしら?何だか、様子が…。
「ルーファス様。あの、どうかされましたか…?」
「…リスティーナ。今夜はここに泊まってくれ。」
「え、でも…、スザンヌ達が心配しているので…。」
「後宮には使いの者を送らせる。…頼むから、今夜は俺の傍にいてくれ。」
そう言って、ルーファスはリスティーナの肩を掴んでそう懇願した。彼の手が微かに震えている。
ルーファス様…?リスティーナは不思議そうにしながらも、弱々しい表情を浮かべるルーファスに微笑んで頷いた。
「はい。ルーファス様。」
そんなリスティーナにルーファスはそっと優しく抱き締め、耳元に囁いた。
「…ありがとう。」
ルーファス様…?今のルーファス様はまるで何かを怖がっているように見える。
一体、どうしたのだろう?何かあったのかな?
でも…、それは今無理矢理問いただすべきじゃない。
今の私にできる事は…、ルーファス様の傍にいることだ。リスティーナはそっとルーファスを抱き締め返した。
スウスウ、と寝息を立てて眠るリスティーナの寝顔を見下ろしながら、ルーファスはリスティーナの髪を手櫛で梳いていく。
よりにもよって、ラシードがリスティーナの正体に勘づいてしまった。
ラシードは昔から、巫女を妻にすることに執着していた。
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その為、パレフィエ国には巫女伝説が今でも語り継がれ、遺跡や文献が数多く残っている。
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巫女を妻にすれば、地位と権力、富を手に入れることができ、国の繁栄にも繋がるということは歴史が証明している。
その為、王族や貴族達は巫女を自分の物にしようと狙う輩が多い。
それは自らの野望の為だったり、国や利益の為だったりと思惑はそれぞれ異なるがそのほとんどが巫女の力を利用しようと企んでいる。
ラシードは昔から、野心のある男だった。
ラシードが王太子に任命されてから、パレフィエ国は急速に成長を遂げている。
ラシードは巫女を妻にすることで、パレフィエ国が栄華を極める為の足掛かりに使うつもりだ。
だからこそ、あいつはローザに近付いたのだ。ローザが巫女の末裔だといわれていたから…。
ルーファスは唇を噛み締めた。
恐らく、ラシードは近いうちに俺に接触してくるはずだ。
リスティーナを手に入れる為に。
ルーファスはリスティーナの瞳が桃色に変化することはとっくに気付いていた。
何度目かの情事中でリスティーナの目が桃色に変わるのをこの目で見たからだ。
初めは気付かなかった。恐らく、最初の方はリスティーナも初めての行為で慣れていなかったし、痛みを感じていたからだろう。
初代巫女であるペネロペ女王の容姿は黒髪紫眼であると伝えられているが一部の伝承によれば、ペネロペの瞳は桃色であったと記されている。
恐らく、ペネロペもリスティーナと同じで普段は紫色の目をしていたが力を使った時のみ瞳が桃色に変化する特徴を持っていたのだろう。
そして、そういった巫女は過去に何人も存在していたようだ。
瞳の色が変わるのも幾つか条件がある。
一番多いのは、神聖力を発動した時。
それ以外でも感情が高ぶったり、行為の最中に強い快感を感じたり、絶頂を味わうと、瞳の色が桃色に変わることもあるらしい。
初めて見た時はルーファスも驚いた。
でも、これで確信した。やはり、彼女は間違いなく、巫女の末裔なのだと。
ルーファスはそっとリスティーナの頬に触れた。
また…、奪われるのか。ラシードの言葉を思い出す。
弱い者は強い者に逆らえない。力がないと、何も守れない。だから、奪われる。
あの時もそうだった。ローザを奪われても俺は何もできなかった。
だけど、仕方ないと思っていた。自分は呪われているから…。
役立たずで出来損ないの王子だからと、諦めていた。俺の手には何も残らない。
いつかは必ず奪われてしまう。だったら、最初から諦めてしまえばいい。
何かに執着すればそれを失った時の喪失感と絶望を味わう。
それなら、最初から何も持たなければいい。
ずっと、そう思って、生きてきた。
だけど…、俺はもう知ってしまった。
彼女の温もりを知ってしまったのだ。この手を離したくない。
今までずっと奪われたばかりの人生だった。だけど…、彼女だけは奪われたくない。
それはルーファスが今までで感じたことのない強い想いだった。
「渡さない…。」
ルーファスは低く、そう呟くと、そっとリスティーナを抱き締めた。
渡したくない…。他の男に奪われたくない。
リスティーナを抱き締める腕に力が籠る。
ラシードの通りだ。弱いままじゃ、愛する女性一人守ることもできない。
『また、奪われても文句は言えないな。』
嫌だ…!嫌だ!もう、奪わるのはたくさんだ!
彼女だけは…、リスティーナだけは…、誰にも渡さない!
俺にもっと、力があれば…!この身体が恨めしい。呪いに侵された身体のせいで満足にリスティーナを守る事すらできない。
せめて、健康な体があれば…!剣や魔法でリスティーナを守ることもできたかもしれないのに。
悔しい。自分の身体が役立たずな事を今以上に悔しく思ったことはない。
力が欲しい。誰にも負けない絶対的な力が…!
『…強くなりたい?』
頭の中に声が響いた。ルーファスはバッと辺りを見回した。
気配は感じなかった。辺りを見回しても、誰もいない。誰だ?一体、どこから…。
不気味な現象にルーファスは辺りを警戒した。
窓が開いていないにも関わらず、どこからともなく、フワッと風が舞い、ルーファスに直撃した。
その瞬間、ルーファスは強い眠気を感じ、そのまま意識が闇に沈んだ。
気付いたら、ルーファスは闇の中にいた。手には剣が握られている。
目の前が真っ暗だ。何も見えない。ルーファスは手探りでゆっくりと歩いていく。
ここは…、どこだ?辺りを見渡しても灯りが一つも見当たらない。
自分の足音と息遣いしか聞こえない。この世界には自分一人しかいないような錯覚に囚われる。
出口は…、どこだ?ルーファスは辺りを警戒しながら、先を急いだ。
その時、どこからか何かが近付いてくるような音が聞こえた。
何だ?ルーファスは警戒して、手にしていた剣を構えた。また、異形の化け物か?
段々と音が近付いてくる。風を切るような音が聞こえる。一体、何の音なんだ?
どこからくる?何も見えない。視覚以外の五感を研ぎ澄まさないと…、
一際大きく、ヒュン!と背後から音が聞こえた。
ルーファスは瞬時に振り返り、感覚のままに剣を振り翳した。キン!と音を立てて、何かが弾き返された。
その直後、岩が破壊するような音が鳴り響いた。何が…、起こっているんだ?
分からない。状況が何も分からない。焦りと不安で息遣いが荒くなる。精神的に動揺したせいか反応するのが一瞬、遅れてしまった。音が間近に迫ってきた。
しまっ…!
慌てて、剣を構え直すが遅かった。ザン!と音を立てて、何かが切断するような音がする。
カラン、と音と共に剣が地面に落下する音がした。同時に、ボトッと何かが落ちた音もした。
「ッ、ああああああああ!」
あまりの激痛にルーファスは悲鳴を上げ、膝をついた。
腕を切られたのだ。それも、両方とも。肘から先の腕がない。
そこから、噴き出す血とそれに伴う痛み。血が止まらない。早く、止血をしないと…!
そう思いながらも、腕を失った身体では止血することもままならない。
その時、また、あの音が聞こえた。ハッと顔を上げると、眼前に白い刃が見えた。その直後、肩に痛みが走り、衝撃に耐えきれず、ルーファスの身体は地面に倒れた。
「うっ…!」
肩から先の腕がない。また、斬られたのか…?何なんだ。これは…、一体、誰がこんな事を…。
敵が誰かも分からないのに…。ルーファスは立ち上がろうとするが自力で立ち上がることができない。視界が歪む。痛みが強くて、気絶しそうだ。ヒュンッ!とまたあの音が近付いてくる。
ルーファスは避けることができない。そのまま、まともに攻撃を食らった。
「ぐああああああああ!」
足が…、足がない。唯一無事だった足ですら、失ってしまった。
痛い!痛い…!気が狂いそうな程の苦痛…!
これは、現実なのか?俺の両腕と両脚は…、本当に失って…?
現実を受け入れたくなくて、思考を停止するルーファスにヒュッ!と音と同時に白刃が振り下ろされる。白刃はルーファスの首を斬り落とした。
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