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第三章 立志編

リスティーナの答え

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「私は別に仕返しとか復讐とかそんな事は望みません。…ラシード殿下。客観的に見れば、あなたの言い分は正しいです。殿下に求婚されるというのはとても名誉な事だと思います。女としての幸せはどちらかと問われれば、皆が殿下の妻になる事を選ぶでしょう。それ程、殿下の妃の座は魅力的なものです。でも…、私はっ…!」

リスティーナはギュッと手を握り締め、

「私の幸せは…!ルーファス様の傍にいる事なんです!例え、ルーファス様の心が私一人の物でなくてもいい。ローザ様の身代わりであってもいい。それでも…、私はルーファス様の傍にいたいんです!それが私の幸せなんです!」

それがリスティーナの嘘偽りない言葉だった。
ルーファス様のお蔭で私は初めて世界が美しいと思えるようになった。
ルーファス様に出会ってから世界はこんなにも温かくて優しいものなのだと知った。
最愛の母が亡くなってから、心から笑えたことなんてなかった.
でも、ルーファス様に出会ってから私は心から笑えるようになれた。幸せだと思えた。
私はルーファス様が好き。その気持ちだけは…、決して変わらない。

「だから…、殿下の申し出を受けることはできません。」

そう言って、リスティーナは頭を下げて、ラシードの話を断るが…、反応がない。
聞こえなかったのかな?と思い、チラッとラシードを見上げた。
すると…、ラシードは笑っていた。心底、楽しそうに。
予想外の反応にリスティーナは困惑した。

「クッ…!ハハッ!面白い…!まさか、俺の求婚を断る女がいるなんてな!それでこそ、落とし甲斐があるというものだ!やっぱり、お前は本物だな!益々、お前が欲しくなったぞ。リスティーナ。今すぐ俺の物にしたいと思う位にはな。」

「え…?あの、それは一体どういう…、ッ!?きゃあああああ!?」

リスティーナはラシードの言葉の意味が分からず、戸惑っていると、不意にラシードの目がギラッと光った。そのまま軽く指を振ったかと思えば、リスティーナの身体が宙に浮き、思わず悲鳴を上げた。

な、何これ?こ、これってまさか浮遊魔法?
い、一体、いつの間に…?
浮遊魔法は基礎魔法とされているが、詠唱が長く、魔法を発動させるのに時間がかかる為、あまり実戦的ではないといわれている。それなのに、ラシード殿下は無詠唱で浮遊魔法を発動させた。しかも、こんな短時間で。
これが勇者の実力…。リスティーナは改めて勇者の凄さを肌で感じた。
気が付いたら、天井近くまで身体が引き上げられ、宙に浮いたまま、身動きが取れない。

「な、何をなさるのですか!お、降ろして!降ろして下さい!ラシード殿下!」

リスティーナは慌てながらも、ラシードに叫ぶがラシードはそれに答えず、カリルに視線を向けた。

「気が変わった。カリル。予定変更だ。」

「…またですか。まあ、いいですけど。」

ラシードの言葉にカリルは呆れながらも渋々頷いた。
だ、駄目だ…!この人、人の話を全然聞いてない!
ど、どうしよう…。これ、どうやって降りればいいの?
リスティーナはラシードの様子から説得は無理だと判断し、何とか自力で降りれないかと考えた。
その時、リスティーナはドレスの裾が捲れて、太腿が露になっていることに気が付いた。
リスティーナは慌てて、それを直そうとするが上手く動けず、ジタバタと不格好に手足を動かすことしかできない。

「お兄様!何を…!」

「アーリヤ。悪いが事情が変わった。こいつは俺の女にする。」

「ちょっと!約束が違うじゃない!」

「そう怒るな。ちゃんと後でお前にも味見させてやる。それでいいだろう?」

「ひどいわ!あたしが先に目を付けたのに!」

ううっ…!こ、こんな姿を他人に見られるなんて恥ずかしすぎる…!
ラシード殿下はどうしてこんな酷いことを…!リスティーナは恨みがましい目でラシードを見つめる。
こっちの事など見もせずにアーリヤ様と話している。
何を話しているのだろう?何故か周囲の音がぼんやりとしていて聞こえない。

「お前にとっても悪い話じゃないだろう?ルーファスが死ぬのを待たなくても、こいつを今すぐパレフィエ国に連れ帰ってやる。」

「なっ…!正気!?そんな事できるの?まさか…。既成事実でも作る気?」

「さすが、俺の妹だな。察しが良くて助かる。」

「馬鹿じゃないの!そんな事したら、ルーファスが黙ってないわ!
言ったでしょう!ルーファスはあの子を気に入ってるって!
あれ程、ルーファスを警戒しろって言ってた癖にお兄様ったら何を考えてるの!」

「俺を誰だと思ってるんだ?あいつにやられる程、俺は弱くないさ。
ルーファスを警戒するように言ったのはお前が相手だったら、の話だ。
お前じゃ、ルーファスに勝てない。お前の事だから、ルーファスを舐めてかかって返り討ちに遭いそうだったから忠告しただけだ。
それにな…、こっちには切り札がある。餌をチラつかせればあいつだって断ることはしないだろうさ。何せ、命が掛かっているからな。」

「まさか、ローザを…?」

「そういう事だ。」

ラシードの言葉にアーリヤは数秒、黙り込み、やがて、ハーと諦めたように溜息を吐いた。

「…いいわ。今回はお兄様に譲ってあげる。その代わり、この借りは高くつくわよ。」

「ああ。分かっているさ。」

アーリヤの同意を得たラシードは指をクイッと動かし、寝室を指差した。
その途端、リスティーナの身体がビュン、と勢いよく引っ張られ、そのまま隣室の寝室の部屋に運ばれた。ボフッと音を立てて、倒れ込んだ先は豪華な寝台の上だった。
痛くはないが、魔法を使われたせいか頭がくらくらする。
リスティーナは魔力がないので魔力に耐性がない。だから、すぐに魔力酔いを起こす。
エルザはリスティーナに魔法を使う際、リスティーナの身体に負担を掛けないように魔法を使ってくれるから魔力酔いを起こしたことはほとんどなかった。

「ううっ…、」

頭を押さえながら、リスティーナはむくっと起き上がった。
気持ち悪い…。ぼんやりする視界の中で誰かの気配を感じた。リスティーナが顔を上げるより先にグイッと男の手に顎を掴まれる。
段々と視界がはっきりしてくる。ラシードがリスティーナの顎を掴んでジッとこちらを覗き込んでいた。

「ラシード殿下?何を…、んうぅ!」

突然、唇が塞がれた。リスティーナは硬直した。一瞬、何が起こったのか分からなかった。
目の前には深紅の髪に褐色の肌をした異国の王子の顔があった。
まるで女を弄ぶかのような強引な口づけ。
ルーファス様の口づけと全然違う。
ラシードに無理矢理口づけされていることに気付いたリスティーナは慌てて、彼の胸を押して離れようとした。
が、ラシードにその手を掴まれ、そのまま寝台の上にドサッと押し倒されてしまう。

「んー!んんー!」

ラシードの手は強くて振り解けない。必死に逃げようとするが男の力には適わなかった。
そのまま口の中に舌が無遠慮に入ってくる。思わずリスティーナはラシードの舌に歯を立てた。

「ッ!」

さすがに舌を噛まれたのは痛かったのかラシードは顔を顰め、リスティーナから唇を離した。
ラシードが唇を指で拭うと、そこには血が付着していた。

「フッ…、俺の舌を噛んだ女はお前が初めてだぞ。リスティーナ。」

そう言って、ラシードは面白そうに笑い、リスティーナを見下ろした。
リスティーナはハアハアと肩で息をし、今にも泣きそうな表情でこちらを睨みつけた。
その表情にラシードはゾクッとした。

「いいな…。その顔、すげえそそる…。」

「い、嫌!止めて下さい!だ、誰か…!」

リスティーナはラシードの欲情が籠った眼差しに怖くなり、思わず助けを求めた。
従者かアーリヤ様が助けてくれないかと寝室の扉に目線を向けるが誰も来ない。
嘘…。寝室とはいえ、声が聞こえない筈ないのに…。まさか…。

「無駄だぞ。カリルもアーリヤも俺のやる事には歯向かわない。お前をこの場で抱いてもあいつらは見て見ぬ振りをするだろうさ。」

「そ…、そんな…。」

ラシードの言葉にリスティーナは絶望した。ラシードの表情と言葉にリスティーナは漸く自分が何をされるのか理解した。甘かった。
まさか、一国の王太子であり、勇者様ともあろう方がこんな真似をするはずがないと思い込んでしまった。この人、本気で私を…?
その瞬間、リスティーナは恐怖を感じた。に、逃げなきゃ…!そう思うが既にラシードに押し倒されていて、逃げ道を塞がれている。
ラシードはリスティーナの唇に指を這わせた。

「そう怯えるなよ。ちゃんと気持ちよくしてやるからさ。お互い楽しもうぜ?」

「ッ…!」

い、嫌…!嫌!このままじゃ、私…!
リスティーナは思わず、ギュッと目を瞑った。そして、無意識に心の中で助けを求めた。
ッ、助けて…!ルーファス様!
脳裏に浮かぶのは穏やかに微笑むルーファスの姿だった。

その直後、客間の方が騒がしくなったと思ったら、部屋の扉が破壊された。
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