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第二章 相思相愛編

ルーファスの呪いと過去の実例

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「え、これって、魔石!?こんなにたくさんどうしたの?」

魔石はその名の通り、魔力が込められた石のことを指す。
魔石は宝石よりも価値がある物だ。
魔石を作れるのは、魔力がある者だけ。
でも、魔力があるからといって誰にでも作れる物ではない。
魔力を石に込めるというのは簡単な様で難しいとされている。
魔力を石に注ぎ込むにはかなりの集中力を要するし、一気に魔力を注ぎ込むと石が魔力に耐えきれずに割れてしまうこともある。なので、魔石を作る時は絶妙なバランスで魔力を注がないと魔石は完成しない。
しかも、魔石を作るには魔力の消費が激しいので一つの魔石を作るだけでも、かなり苦労をすると聞いたことがある。
だからこそ、魔石は価値が高い。
琥珀色と緑色の魔石…。よく見れば、二つの色が混ざり合った魔石もある。

「もしかして、これ全部エルザが作ったの…?」

「はい!ティナ様の為なら、魔石の十や二十個位、パッパッと作ってみせます!」

ドーン!と胸を張るエルザにリスティーナは唖然とした。

「す、凄いわ…!魔石を一個作るだけでも凄いことなのに…!」

リスティーナはエルザの魔法の凄さは知っていたがここまでとは思わず、称賛した。
本当に凄い。それに、この魔石の色は透き通っていて、とても綺麗…。
魔石は必ずしも透き通っているわけではない。中には濁った色をした魔石もある。
色に差があるのは魔力の量や質、石に魔力を注ぎ込む時の作業が関係しているといわれている。
少しでも集中力を切らしたりすると、色が悪くなるのだとか。
エルザの作った魔石はそんな粗悪品の魔石とは比べ物にならない完成度の高い物だ。

「でも、エルザ。こんなにたくさんの魔石私が貰ってもいいの?」

この魔石を一個売るだけで高い値がつくはずだ。それを全部、私にくれるだなんて…。

「勿論です!ティナ様の為に作った物ですから!今後、また王妃様がティナ様に何をするか分からないですからね!それに、王妃様以外にもティナ様を害そうとする不届きな者がいるかもわかりませんから、護身術として持っていて損はないです!」

「エルザ…。」

私の為にそこまでしてくれるだなんて…。リスティーナはギュッと魔石が入った箱を握り締めた。

「身の危険を感じたら、その魔石を投げつけてやれば、撃退できますから!」

拳を握り締めて、熱く語るエルザにリスティーナはありがとう、と深く感謝した。
エルザが自分の魔力を使って作ってくれた貴重な魔石。大切に使おう。
リスティーナはそう心に決めた。

「そういえば、ティナ様の夫の第二王子ってどんな方なのですか?スザンヌからある程度は聞いていますけど、ティナ様の口から直接聞いておきたいなと思って…、」

「ルーファス様のこと?とても素敵な方よ。真面目で誠実でとても紳士的で…、何より、とてもお優しいの。」

リスティーナはポッと頬を染めて、ルーファスの姿を思い浮かべながら、嬉しそうに語った。
エルザはピクッと眉を顰めたが黙ってリスティーナの話を聞いた。

「初めは怖くて、冷たそうに見えた方だったんだけど…、本当は誰よりも優しい方なの。繊細だけど、誰よりも強い心を持っていて…、」

「へ、へえ。そう、なんですね。」

ヒクッとエルザの口元が少しだけ引き攣った。リスティーナはそんなエルザに気付かず、続けた。

「あの…、それでね…、これはエルザにも伝えておきたいと思ってて…。実は、私…、いつの間にかルーファス様の事が好きになってしまったの。」

リスティーナはかあ、と顔を赤くしながら、エルザに自分の気持ちを打ち明けた。

「!…ま、まあ。そうでしたか…。て、ティナ様が誰かに恋をする日がくるだなんて夢にも思っていませんでした。ティナ様は男が苦手だったので。」

「私もそう思っていたの。私が今まで出会った男性は地位や血筋ばかりを見てくる人達ばかりだったし、たまに近寄ってくる男性も下心のある方ばかりだったから…。」

リスティーナが今まで出会った男達はリスティーナが平民の血を引いているという理由だけで見下し、蔑んだ。年頃になると、厭らしい視線を向けられるようになり、一夜の遊び相手か愛人にしてやるといって、物陰に引きずり込まれそうになったこともある。
たまに優しくする男性もいたがそのほとんどが上から目線な態度で好感は抱けなかった。
だから、リスティーナはずっと男性が苦手だった。
でも…、

「だけど…、ルーファス様は違う。私の事を下賤な女だと言って、蔑んだりしないし、私を尊重してくれるの。それに、私が嫌がることは絶対にしないし、いつも気遣ってくれて…。私、お父様とレノア殿下に初めて感謝したわ。レノア様が嫌がらなかったら、私はルーファス様の妻になれなかったもの。」

「ティナ様はルーファス王子の妻になれて幸せですか?」

エルザの言葉にリスティーナはコクン、と頷いた。

「ええ。勿論!とても幸せだわ。私…、あの方の為なら、何だってしてあげたい。心からそう思うの。
あの、それでね…、実は私、今ルーファス様の呪いを解く方法について調べているの。」

「え…?」

「ルーファス様の呪いはとても強力で命に関わるものなの。その呪いのせいでルーファス様はずっと苦しんでいるの。それに、ルーファス様は二十歳まで生きられないだろうって余命宣告までされてて…、でも、きっと呪いが解ければルーファス様は助かるかもしれないの!私、ルーファス様を助けたい!」

エルザは目を見開いた。

「そして、ルーファス様に生きて欲しい。できれば、ずっとずっと…!普通の人と同じような健康な体になって、普通の人と同じように長く生き続けて欲しい…!」

そして、できるなら彼の傍にずっといたい。リスティーナは強くそう願った。

「ねえ、エルザは確か呪術に詳しかったわよね?あなたなら、ルーファス様の呪いを解く方法について心当たりはない?ルーファス様の話だと、光の聖女と巫女なら、呪いを解けるかもしれないとは言っていたのだけれど…、」

「!巫女…?」

エルザはビクッと強く反応した。

「もしかして、エルザも巫女を知っているの?さすが、エルザは物知りね。私はルーファス様に教えてもらって最近、知ったの。巫女って神聖力を持った特別な女性の事なんでしょう?まるで伝説みたいで凄いわよね。」

「そ、そうですね。本当に、その…、物語の世界に出てくる話しみたいで…。あの、それよりも、ルーファス王子は巫女について詳しいんですか?」

「ええ。古代ルーミティナ国の歴史についても詳しいし、巫女の一族についてよく知っていたわ。」

エルザはスッと表情を消し、目を細めた。

「何でそんなに詳しいんですか?…ひょっとして、ルーファス王子って呪術信仰者なんじゃありませんか?」

「え?どうして?」

呪術信仰とは、その名の通り呪術や黒魔術の儀式を行う集団の事だ。
古くから続く悪習で、黒い噂が絶えない。でも、それと巫女に詳しい事と何か関係があるのだろうか?

「ティナ様は巫女狩りについてご存知ですか?」

「ええ。知っているわ。ルーファス様が教えてくれたから。」

「巫女狩りは元々、呪術信仰から生まれた集団です。だから、巫女狩りのほとんどは呪術信仰を信じている人達が多いんです。…ルーファス王子は王族ですから、巫女の存在は知っていてもおかしくはありませんけど、妙に詳しいなと思ったので。それに、呪術信仰を崇拝している人の中には王族や高位貴族もいると聞いたことがあったので。」

「ルーファス様が?まさか。ルーファス様はどちらかというと、巫女狩りに対して、否定的だった位なのに。ルーファス様が巫女に詳しいのは、ルーファス様の婚約者だった方が巫女だったからよ。」

「!…ローザ・ド・スペンサー…。」

「エルザ。知っているの?」

「え、ええ。まあ…。その、噂で少し…。そういえば、あの公爵令嬢、ルーファス王子の元婚約者でしたね。」

「そうなの。ローザ様は巫女の末裔で最後の生き残りらしくて…。巫女の血を引くローザ様なら、ルーファス様の呪いを解けるかもしれないの。でも、ルーファス様の話だと、その話は断られているらしくて…。」

「その公爵令嬢は巫女の血を引いているだけでなく、巫女に選ばれた女性ですからね。確かに彼女の力なら、ルーファス王子の呪いは解けるかもしれません。でも、大丈夫です。それ以外でも呪いを解く方法はあります。」

「本当!?」

エルザの言葉にリスティーナはパッと顔を輝かせた。

「はい。確かルーファス王子の呪いは原因不明のものだといわれているのですよね?
呪いを解くにはまずは原因を調べないと…。あるいは、王子に呪いをかけた呪術者を探し出すか…。
ティナ様。とりあえず、ルーファス王子の呪いについて、わたしに教えて頂けませんか?過去の呪術で似たような経歴や症例があれば何か手掛かりが掴めるかもしれません。」

「ええ!勿論!」

リスティーナは頷き、知っている限りの情報を話した。
幼少期に罹った謎の発熱、顔と身体に刻まれた黒い紋様、全身の激痛や衰弱していく体、悪夢のせいで不眠症であること、反動返しの力、満月になると理性を失う事…。
リスティーナの話を聞いたエルザは何かを考え込むように顎に手を置いた。

「王子の身体に刻まれた黒い紋様がルーティア文字?」

「そうなの。文字が滲んでほとんど読み取れなかったけど、あれはルーティア文字だったわ。」

リスティーナの返答を聞いて、エルザは数秒黙り込んだ。

「エルザ。どうかしら?何か分かりそう?」

「…全く同じという訳ではないのですけど、似たような実例なら幾つか知っています。」

「本当!?」

「幼少期の発熱、黒い紋様、悪夢と幻聴、幻覚、病弱な体質にも関わらず未知の力…。そういった特徴を持った子供が過去にもいたみたいです。凄く稀なケースですけど。ただ…、その子達は全員、十歳前後で亡くなっています。」

「えっ…?」

リスティーナは愕然とした。十歳で亡くなっている?

「わたしが知っている中では過去の例でもたったの十人です。全員がまだ子供で成人もしない内に亡くなっています。十歳未満で亡くなった子がほとんどですけど、十歳以上長く生きた子もいます。でも、長く生きたと言ってもたったの数年です。大体は十二か十三歳で亡くなっています。
過去のどの実例を見ても十五歳以上、生きた子は一人もいません。
力が暴走して、亡くなった子もいますし、衰弱して寝たきりの状態になってそのまま死んでしまった子もいます。後は…、苦しみに耐えきれず自殺をした子も。」

「ッ…!」

まだ幼いのに悲惨な最期を迎えた子供達の死を聞き、リスティーナは思わず息を呑んだ。
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