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第二章 相思相愛編

パレフィエ国の王太子

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「パレフィエ国はローゼンハイム程の国力はない。だが…、勇者や聖女が相手となると、話は別だ。勇者や聖女は一国の王族よりも価値があるといわれている。
例え、ローゼンハイムがパレフィエ国より立場が上であったとしても、相手が勇者である以上、強くは出られない。勇者と対立するような真似をすれば、教会の連中は黙っていないし、精霊の怒りを買う可能性もある。だから、父上はローザとラシードの婚約を認めたんだ。
勇者の顔を立てておいた方が国の利益になると考えたのだろう。」

「そんな…。」

勇者だからといって、他人の婚約者を奪っていいわけがない。
ルーファス様の気持ちを丸っきり無視した処遇だ。ひどすぎる…。
そんな方が勇者として敬われているのだと思うと、悔しくて堪らない。

「とても、アーリヤ様のお兄様とは思えません。アーリヤ様はあんなにも親切で大らかな方なのに…。」

リスティーナは思わず、そう呟くが、

「俺はそうは思わない。あの二人は血が繋がっているだけあって、よく似ている。」

「え…?」

ルーファス様の言葉は意外だった。
話を聞く限り、アーリヤ様とは正反対の性格に思えるのに…。
でも、ルーファス様は二人が似ているという。

ルーファス様はパレフィエ国の王太子様をよく知っているの?
そういえば、彼はさっきパレフィエ国の王太子を名前で呼んでいた。
もしかして、ローザ様の一件とは関係なく、昔から付き合いがあったとか?

「あの…、ルーファス様はパレフィエ国の王太子様と面識があったのですか?」

「俺が呪いにかかる前に一度だけ剣の手合わせをしたことがある。それだけだ。次にラシードと会ったのはローザに婚約を破棄された時だった。それ以降は会っていない。」

そうだったんだ。よく考えれば、ローゼンハイムとパレフィエ国は同盟国なのだから、交流があってもおかしくない。

「私共が見つけた手がかりはこれだけです。…ただ、方法を見つけた所で聖女様もローザ様も協力はして下さいません。何度も手紙を認めてはいるのですが、断られてしまうのが今の現状です。別の方法を探すべきかとも思うのですが、他に方法は見つからず…。」

「ロジャー様…。」

きっと、ロジャー様達はルーファス様の呪いを解くために一生懸命、調べてその方法を見つけてくれたのだろう。私は昨日からその手がかりを見つけようとしたけれど、ロジャー様はきっと多くの年月を費やして…。
そんなロジャー様の努力を無駄にしたくはなかった。

「爺。ローザの件はもういい。…別の方法を探そう。」

「殿下…!しかし…、」

「もうローザには何度も断られているんだ。これ以上、頼んだ所で結果は同じだ。」

「あの…!それなら、アーリヤ様に頼んでみるのはどうでしょうか?」

「アーリヤに?」

ルーファスは眉を顰めた。

「アーリヤ様はローザ様と義理の姉妹なのですよね?もし、アーリヤ様がローザ様にお願いして下されば、ローザ様も聞き入れて下さるのではないかと…。」

「確かにアーリヤ様はパレフィエ国の王女ではありますが…。今まで殿下に見向きもしなかったあの方が力を貸してくれるとは思いませんが…?」

「昨日、アーリヤ様はルーファス様の呪いを解くために力を貸してくれると言って下さったんです。私に呪術の本も貸して下さって…。」

アーリヤ様はパレフィエ国の王女。つまり、パレフィエ国の王太子の妹だ。ローザ様とは義理の姉妹になる。アーリヤ様がローザ様に頼んでくれたら、もしかしたら…!

「あのアーリヤ様が?」

「アーリヤ様は本当はとても親切で朗らかでお優しい方なんです。きっと、力になって下さいます!」

「そうでしょうか…?」

半信半疑のロジャー達にリスティーナは力強く頷いた。

「私、後宮に戻ったら、早速、アーリヤ様に話してみます!」

リスティーナはそう言うが、ルーファスが口を開いた。

「いや…。俺がアーリヤに話をつけてくる。リスティーナ。君は何もするな。」

「え、でも…、」

「アーリヤはああ見えて、計算高く、腹黒い女だ。君に近付いたのも何か裏がある気がする。」

「そんな方には見えませんけど…、」

「アーリヤはあのラシードの妹だ。腹の底は何を考えているのか分からない。だから、君も不用意に近づかない方がいい。」

「わ、分かりました。」

ルーファスの言葉にリスティーナは素直に頷いた。
ルーファス様はアーリヤ様の事を随分警戒しているみたい。
自分の婚約者を奪った人の妹なのだから、警戒するのも当たり前かもしれない。
大丈夫だよね?アーリヤ様もルーファス様の事を誤解していたと言っていたし、前ほどルーファス様を怖がらない筈だし、ルーファス様も話したら、アーリヤ様がいい人であることに気付くかもしれない。
リスティーナはそう考え直した。




「アーリヤ様!大変です!」

「あら、カーラ。どうしたのよ?そんなに慌てて。」

「い、今、ルーファス殿下がお見えになっていて…、アーリヤ様に会わせろと…、」

カーラのその言葉にアーリヤは驚くことなく、二ッと口角を吊り上げ、笑った。

「いいわ。お通しして頂戴。」

上手くいけば、お兄様の力を借りることなく、あの子を手にすることができるかもしれない。

「まあ、殿下。あなたが私の所に来て下さるなんて…。こうして、顔を合わせるのは初夜以来ですわね?」

アーリヤは扇で口元を隠しながら、目を細めて薄っすらと笑った。
突然、ルーファスが訪ねてもあまり動じた様子は見られない。ルーファスはそんなアーリヤを無表情で見下ろし、

「頼みがある。」

「私に?何でしょうか?」

「ローザを説得して欲しい。俺の呪いを解くために力を貸してくれるようにと。」

「何故、私があの女の為に頭を下げなければならないのです?お断りしますわ。」

アーリヤはそう言って、ツンと顔を背けた。そして、チラッとルーファスを窺った。

「そうか。分かった。」

ルーファスはアーリヤの答えにあっさりと引き下がる。その反応は予想外だったのかアーリヤは目を瞠った。

「邪魔をしたな。」

そう言って、ルーファスはそのまま部屋から出て行こうとする。

「お待ちください!殿下。何故、そうも簡単に諦めるのです。殿下がお望みでしたら、私も少しは力に…、」

「それでお前は俺に何を要求するつもりだ?」

ルーファスは振り返って、アーリヤに訊ねた。

「何を仰るのかと思えば…。そのようなこと…、」

「お前は無条件で他人に手助けをする女じゃない。どんな時でも自分や自国に利益があるかどうかという基準で動く女だ。違うか?」

「殿下は私を誤解なさってますわ。私は本当にただ殿下のお力に…。」

「知っているか?初めは相手にとって耳障りのいい言葉を吐いておきながら、終わった後になると、その代償を払わせる。詐欺師や高利貸しがよく使う手だ。お前は絶対にそんな事はしないと誓えるのか?」

「……。」

アーリヤはルーファスの言葉にグッと押し黙った。
チッ…、無駄に勘のいい男はこれだから、嫌いだ。扱いにくい事この上ない。
死ぬか生きるかという瀬戸際で追い詰められているだろうから、冷静な判断力も失っていると思っていたのに…。アーリヤは内心、舌打ちした。
ここで恩を着せておけば、容易く事が運ぶかと思ったけど、やっぱりこの男にその手は通用しないみたいだ。

「そんなお前が昨日、リスティーナに近付いたのはただの親切心だとでも?俺はそうは思わない。お前は
何を考えている?」

「別に何も…。私はただの善意でリスティーナ様の力になりたいと思っただけで…、」

「アーリヤ。お前が兄上や他の貴族とつるんで何をしようがそれを咎めるつもりはない。ただ…、これだけは言っておく。無関係の人間を巻き込むな。」

「っ!」

バレている。
他人に興味も関心もなさそうな男だから気づいていないと思っていたのに…。

「お前達兄妹が何を考えているのかは知らないが…、あまりにも勝手な真似をすると俺も見過ごすわけにはいかない。分かるな?」

ルーファスはアーリヤを睨みつけ、威圧した。
アーリヤは息を呑み、身を固くした。
喉元にナイフを突きつけられたかのような感覚がする。
背筋に冷や汗が流れた。
この、私が…、目の前の男に圧されている。
目の前にいるこの男は病弱で見るからに軟弱そうだというのに…。
今、この瞬間だって私がその気になれば、この男を力でねじ伏せることができる自信がある。
それなのに…、どうして、私はこの男に恐れを抱いてしまうのだろうか。

「身に覚えはありませんが…、殿下のご忠告、胸に留めておきますわ…。」

アーリヤはそう答えるのが精一杯だった。

「それなら、いい。」

ルーファスがそう言うと、威圧が消えた。
アーリヤは肩から力が抜けたのが自分でも分かった。
そのままルーファスは話は終わりだと言わんばかりに部屋から出て行った。
アーリヤはルーファスが出て行った後、ドサッとソファーに座り込んだ。

「何なの…?あの男…。」

兄がルーファスを警戒しろと言っていた気持ちがよく分かる。
あの男は危険だ。直感的にそう悟った。
ルーファスが生きている間はリスティーナに手出しをするのは控えた方がいいわね。
アーリヤはそう考え直した。
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