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第二章 相思相愛編

古代ルーミティナ国の歴史

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「リスティーナ様がルーティア文字が読めると知ったら、学者や専門家達が飛びつきそう…。それ位、ルーティア文字って貴重なものなんですよ。」

ルカはルーティア文字に凄く興味があるみたい。
それなら…、私でも教えられるかもしれない。

「ルカ。ルーティア文字について、知りたいのなら、分かる範囲で私が教えてあげるわ。」

「え!?本当ですか!?」

喜色一杯の表情を浮かべるルカにリスティーナは何だか餌を前にした子犬みたいだなと微笑ましい気持ちになった。

「リスティーナ様。よろしいのですか?そのような…、」

「大丈夫ですよ。ルカにも私はお世話になっていますし、私達は協力者同士ですから。でも、私は少ししかルーティア文字は読めないからそんなに詳しくないのだけれど、それでもいいかしら?」

「勿論です!やった!ルーティア文字を読めるようになれば古代魔術の水魔法が使えるかも!」

子供のようにはしゃぐルカにリスティーナは思わず笑ってしまう。

「全く…。ルカときたら…、魔法が絡むと途端に周りが見えなくなるのだから…。困ったものですね。」

「……。」

「殿下?」

ロジャーは俯いて、何かを考え込んでいるルーファスに怪訝そうに声を掛けた。

「いや…。何でもない。」

ルーファスはリスティーナを見て、そう答えた。

「ルカ。ルーティア文字の件は後にしなさい。」

「あ、はい!」

ロジャーにそう言われ、ルカは慌ててそうだったと頷いた。

「申し訳ありません。話が逸れてしまいましたね。ところで、リスティーナ様は古代ルーミティナ国の歴史はどれくらい知っていますか?」

「ええと…、」

リスティーナは母に教えてもらった話を思い出しながら、知識を基に知っている限りの事を答えた。

「私も詳しく知っている訳ではないのですけど…、ええと…、古代ルーミティナ国は元々は一つの国ではなかったけど、戦争に勝利して、バラバラだった国を一つに纏めて、誕生した国だと母からは教わりました。
古代ルーミティナ国の初代女王は占いとまじないを使って国を治めていたのだ聞いたことがあります。
それまでは争いが絶えない世の中だったけれど、女王が即位してからは、比較的平和で穏やかな治世が続いたとか…。その後も王位に即位したのは皆、女性で初代女王のように国を治めていたけれど、次第に王は男性が選ばれるようになり、王朝が立て続けに滅びたり、変わったりして、国は荒れていき、最後は帝国に滅ぼされてしまったのだと…。」

「よく知っているな。」

「そ、そうでしょうか?」

ルーファスに感心したように言われ、リスティーナは褒められて嬉しくなった。
母の話を覚えていて良かった。
いつも寝る前に伝説やお伽噺、歴史の話を聞かせてくれた母にリスティーナは心の中で感謝した。

「でも、あの巫女という人の話は私、知らなくて…。」

さっき、ルカから聞いた話だと、巫女とは初代女王の末裔であったと話していた。
そして、特別な力を持った女性だとも…。

「巫女って、どんな人だったのですか?特別な力とは一体…?」

「古い書物や文献によれば、巫女は聖女のような役割を担っていたといわれている。
人々を癒し、作物の豊穣をもたらし、国を守る為の結界を敷く力があったといわれている。その巫女の力で国は守られ、繁栄したのだそうだ。」

すごい…。そんな力を持った女性がいたなんて…。
本当に聖女様みたいな力だ。古代ルーミティナ国では聖女のような存在を巫女と呼んでいたのだろう。
そう思っていたのだが…、

「巫女様も聖女様のように加護持ちの方だったのでしょうか?」

しかし、ルーファスは首を横に振って、否定した。

「いや。巫女に選ばれた者は皆、魔力は微弱で魔法の才能がなかったといわれている。
当然、加護持ちではない。聖女と巫女は似ているがその性質は全く異なるものだ。
聖女は光の精霊の加護持ちだが、巫女は魔力とは違う別の力…、神聖力を持っていた。」

「神聖力?」

「神聖力とは、神から与えられた神秘の力の事だ。神に愛され、祝福を受けた者だけが与えられる特別の力…、それが神聖力だ。ただ、神聖力は魔力と相性が悪い。
だから、歴代の巫女は皆、魔力が少なかった。
初代女王ペネロペも神聖力の使い手で歴代巫女の中で一番強い力を持っていたが、その反面、魔力なしであったといわれている位だ。」

神聖力…。そんなすごい力があったなんて…。
大精霊の加護を受けた聖女や勇者達と違って、巫女は神の加護を受けた存在だということなのだろう。
巫女は神聖力の使い手。聖女は光の魔力の使い手。確かにその本質は全然違う。

「でも、どうしてそこまで強い力を持っているのに古代ルーミティナ国は滅びてしまったのでしょうか?」

帝国に攻め入られたからといって、あっさり負けるものだろうか?
今までリスティーナは古代魔術の強さはただの作り話だと思っていた。
でも、それが嘘だとなると、古代魔術は古代ルーミティナ国にとって最強の武器であった筈だ。
そして、国を守護する巫女もいるのなら、簡単に負けるとは思えない。
帝国がどれほど、強かったのかは知らないがどう考えても古代ルーミティナ国の方が圧倒的に強かったと思えるのに…。
余程、その強さを上回る軍事力が帝国にはあったのだろうか?
そう思っていると、

「古代魔術と神聖力。この二つがあれば、古代ルーミティナ国が滅びることはなかっただろう。それ程、この二つの力は国の要となっていた。だが、当時の王太子の愚行によって古代ルーミティナ国は滅びてしまった。」

ルーファスはリスティーナの知らなかった古代ルーミティナ国の歴史を教えてくれた。
初代女王ペネロペの誕生についても詳しく教えてくれた。

古代ルーミティナ国。
ルーティア文字を作って古代魔術の礎を築いた国。当時はとても大きな国で魔法大国と呼ばれていた。
同じく魔法大国と呼ばれたエミベス国よりもずっと昔から存在していた大国。
大陸で一番大きな土地と国力を持っていて、実質、大陸最強だと呼ばれていた。

元々、古代ルーミティナ国は一つの国ではなかった。小国や部族に分かれていて、たくさんの国が存在していた。その数は大小合わせて、三十ヵ国もあったといわれている。
国にはそれぞれ王や指導者がいて、お互い小競り合いをし、争いが絶えなかった。
百年もの間、争いは続いた。

とある小国で王が亡くなったが王には跡継ぎがいなかった。家臣や重臣たちは悩んだ。
今まで何代も立て続けに王が変わっているのに国は乱れ、治世は荒れている。
時期王の候補者はいたが、どれも王の器ではなかった。
重臣の中の一人が、いっそのこと、男ではなく、女を王にしてはどうだと言い出した。

初めは反対する者もいたが、ある村に不思議な力を持った少女がいるのだという話が出たことで風向きが変わった。
その村娘は未来を予言し、豊穣をもたらし、村を守る結界を敷くことができ、人を癒す力があるのだと噂されていた。
少女はその力を使って、村を守っていた。
当時は魔物もいたが少女が張った結界のお蔭で魔物による被害もなく、飢饉や災害に苦しむことなく、村は平和に過ごしていた。

少女の名はペネロペ。ペネロペの力は本物だった。
こうして、ペネロペは女王として即位した。
ペネロペは予言の力を使って、敵の戦略を見破り、国を勝利へと導いた。
武力に優れた自らの弟を総大将とし、魔力の高い妹も王宮筆頭魔術師に任命した。
ペネロペは次々と敵国を陥落させ、三十ヵ国もの国を統一した。
今まで誰も成し遂げられなかった偉業をペネロペは見事に成し遂げた。

一つの国に纏め上げた国の名は古代ルーミティナ国と名付けられ、ペネロペはその国の初代女王となった。
ペネロペ女王は魔力こそなかったが神聖力で国を平和に治めた。
予言の力もその一つだった。その他にも、国に結界を敷いて、魔物や他国の侵入を防ぐこともしていた。
ペネロペは魔力の高い人間を選出し、そういった者を重用することで魔法の発展に努めた。

そして、急成長を遂げた国は魔法大国、大陸最強と呼ばれるまでになった。
ペネロペの在位中は穏やかで平和な治世が続いた。
ペネロペの遺言で次の王位は女王の娘が即位した。ペネロペの娘もまた、母親と同じ神聖力を持っていた。

その後も女王に選ばれたのはペネロペのように神秘の力を持った娘が女王に選ばれた。
不思議な事にその力を持って生まれる者は何故か皆、女性だった。
当時からすれば、王位に就くのが女性であることは非常に珍しかったが、古代ルーミティナ国は代々、神聖力を持った女が王位に就いて、国を治めていた。

しかし、二百年あまりの年月が過ぎた頃、やはり、王になるのは女ではなく、男であるべきだという声が挙がるようになった。
そこで、次の王は王子が次期国王に選ばれ、第十代目の国王として、即位した。
古代ルーミティナ国では初めての男王の誕生だった。
それ以来、国は男を王として立てるようになった。

神聖力を持った王女は巫女として国に仕えるようになった。
巫女となった王女は神殿に住み、国を守り、王を支えた。
巫女は毎日、神殿で神に祈りを捧げ、国に豊穣をもたらし、国を守る結界を張り巡らした。
この巫女の力と古代魔術という最強兵器のおかげで古代ルーミティナ国は平和と繁栄を維持することができた。

その為、時として巫女は王よりも尊ばれる存在となり、中には巫女を女神として崇める者もいた。
しかし、長い年月の間にペネロペ王朝の血が薄まり、混血が進んでいき、王朝が途絶えてしまった。
唯一、巫女の一族だけがペネロペ女王の直系の子孫として生き残った。

王朝が変わっても巫女の一族が途絶えることはなかった。王家は巫女の力を尊び、巫女を重用した。
巫女の一族の女が王家に嫁ぐこともあり、王家と巫女は強い信頼関係で結ばれていた。
しかし、次第に巫女の存在は軽んじられるようになった。
長い治世の間で王族、貴族、民の多くが巫女の力で守られていることが当たり前になってしまい、感覚が麻痺してしまったのだ。巫女はいてもいなくてもいい。そんな風に考える人々も増えてきた。
王朝も入れ替わりが激しくなり、次第に王家ですら、巫女を軽視し、昔のように巫女を敬わなくなっていった。
巫女はただのお飾りだと人々の間では嘲笑されるようになった。

そして、当時の王太子が巫女を不要な存在だと決めつけ、国外追放にしてしまった。
王太子は次期国王の座をより強固なものとするために民の人気を得ようと、功績と手柄欲しさに独断で巫女を追放したのである。
巫女はその時、まだ若く、成人して間もない少女だった。
巫女は国外追放される際、巫女を象徴する白の装束を剥ぎ取られ、女の命とまでいわれる髪を剣で切り落とされるという暴行を受け、着の身着のまま国を追い出された。
その日を最後に巫女の姿を見た者は誰一人としていなかった。
巫女はそれ以降、二度と姿を見せることはなく、再び故郷の地に足を踏み入れることはなかった。

古代ルーミティナ国は巫女が国外追放されたことによって、衰退の道を辿った。
巫女を追放した直後に異変が起きたのだ。
突然、雨が降り、雷が鳴りやまず、あちこちで雷による被害が続いた。
嵐や台風が立て続けに起こり、村や街が水没し、何千人もの人間が死んだ。
津波や土砂崩れ、地震等の自然災害が発生した。
結界が消滅したために、魔物が町や村を襲い、民の多くが魔物に食い殺された。
川や海の水が汚染され、疫病が流行した。蝗が大量発生し、育てていた作物を全て食い尽くしてしまった。飢饉、飢餓、疫病…、次々と王国を悲劇が襲った。

そして、その隙を突くような形で帝国が国に攻め込んできた。
慌てた国王はすぐに国の結界と防衛を担う魔術師一族の力を頼った。
彼らは代々続く名門一族で数多くの魔術師を輩出した家だった。
また、古代魔術を管理している一族でもあり、一族の間でしか継承されない古代魔術の秘儀も習得していた。

しかし、彼らは既にこの国にはいなかった。巫女の処遇に憤慨し、国を捨てて、巫女の跡を追ったのだ。
かの魔術師一族はかつて、追放された巫女に恩があり、それ以来、巫女に忠誠を誓っていた一族だった。王家も貴族も民も巫女を軽んじている中でその魔術師の一族だけは巫女の味方だった。
古代魔術を使える人間は他にもいたが、古代魔術に通じ、重要戦力となっていたのはこの魔術師一族だけだった。
その上、兵士や冒険者、魔術師達はそのほとんどが疫病に侵されていたり、魔物討伐に駆り出され、命を落としていた。生き残った少数の者達が帝国軍を迎え撃ったが敵の軍勢の前にあっけなく敗れ、全滅した。

最強兵器とまで名を馳せた古代魔術。しかし、王家は今、その力を失った。
古代ルーミティナ国は巫女の力と古代魔術なくしては、存続はできなかった。
周辺諸国と同盟を結んだ帝国軍は次々と町を陥落した。
各国に援軍を要請したがどの国からも断られ、古代ルーミティナ国は完全に孤立した。

とうとう首都にまで攻め入られ、敵軍に囲まれ、追い詰められた王は籠城戦に持ち込んだ。
帝国軍はすぐに食糧が尽きて、降伏するだろうと思ったが籠城戦は数か月にも及んだ。
帝国軍が門を打ち破って首都に入った時、そこはまさに地獄のような光景が広がっていた。
どこもかしこも血で赤く染まり、餓死をした死体が転がっていた。生き残った人間は餓死者の死体を食い漁っていた。食べる物がないので死体を食べて腹を満たしていたのだ。
帝国軍の兵士はあまりにも悲惨な光景に嘔吐した者さえいた。

王城にいた王族は捕まり、処刑された。
国を滅ぼした元凶だとされた王太子は国が危機に陥った混乱に乗じて、さっさと一人だけ逃げ出したが逃亡中に平民に捕まり、嬲り殺しにされたらしい。
こうして、古代ルーミティナ国は滅亡した。
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