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第一章 出会い編
ルーファスからの贈り物
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「あの、リスティーナ様。わたし、リスティーナ様に謝りたくて…、今までのご無礼、どうぞお許しください!」
ミラはペコッと頭を下げた。リスティーナは謝られる理由が分からなかった。
「謝るって…、何に?」
「全てです!リスティーナ様に挨拶をした時から今日までの間…、失礼な態度ばかりを取ってしまって…、」
「え。そんな事は…、あなた達はよく働いてくれるし、仕事もよくできて失礼な態度だと思ったことはないけれど…、」
強いて言うのなら、距離感があるなと思っただけだ。でも、主従関係なんてそんなものなのかもしれない。
「いいえ!あたし達の態度はメイドにあるまじき態度でした。本来なら、遠い国から嫁がれたリスティーナ様を労わって誠心誠意、お世話をするべきでした。」
ミラは悔いるような表情を浮かべながら続けて言った。
「実は、あたしも先輩もこの仕事は初めてじゃないんです。今までも側室様のお世話係を任されることがあって…、でも、その方達はルーファス殿下の側室になったのが心底、嫌だったらしく…、その鬱憤をあたし達にぶつけるようになって…、」
知らなかった…。そういえば、殿下には他にも側室がいた筈だ。全員、不審な死を遂げたらしいが。
不審な死?もしかして、彼女達って…、リスティーナはふと、今までの正妃と側室達の死に疑問を抱いた。
「もう、散々でした。ヒステリックに泣き喚いたり、家具や食器を壊したり、躾と称して鞭打ってきたり…。正直言って、亡くなった時は少しホッとした位です。」
確かに身分の高い貴族や王族は使用人を道具か物のように扱う人が多い。
機嫌が悪い時にその苛立ちを自分よりも身分が下の人間にぶつける。それは、リスティーナも経験があるからよく分かる。
「だから…、その…、リスティーナ様もそんな人だったらどうしようって思ってしまって…、
また巻き込まれたり、目を付けられたくないのでできるだけ興味を持たれないように無関心で義務的に接しようって先輩達と話し合って決めたんです。でも、その…、リスティーナ様は今までの側室様達と違って穏やかで優しい人だったらびっくりして…。けど、それも演技かもしれないって先輩達が言うからあたしも中々信じられなくて…、その、申し訳ありませんでした!」
「…。」
そうだったんだ…。ミラ達もここで色んなことがあって苦労をしたのだと知り、リスティーナはミラを責める気にはなれなかった。今まで側室達に嫌な目に遭わされてきたのだから同じ側室として嫁いだリスティーナを信用できないのも無理はない。
「正直に話してくれてありがとう。私は別にあなた達に対して怒ってないから、気にしないで。
むしろ、あなた達はよくしてくれていると思っているわ。」
「っ…、あ、ありがとうございます…。」
リスティーナが微笑むと、ミラは少し頬を赤く染め、涙ぐんだ。
「顔が赤いけど、熱でもあるの?」
「い、いいえ!大丈夫です!あたし、元気だけが取り柄なので!」
ミラは慌ててそう言って、手をパタパタと振った。その仕草が小動物みたいで可愛いとリスティーナは思った。
「リスティーナ様!私、先輩達にも今の事話してきますね!それで…、もし、良かったら…、先輩達のことも…、」
「私は別に気にしていないからそこまでしなくてもいいと思っているのだけど…、でも、ミラがそう言うのなら…、」
リスティーナはそう言って、ミラの提案を受け入れた。ミラは嬉しそうにありがとうございます!とお礼を言い、他のメイド達を呼びに行った。
あの後、ミラ以外の二人のメイドとも和解することができ、リスティーナは良かったと安堵した。
心を許せるメイドはスザンヌだけだと思ったがミラ達ともこれからいい関係を築けたらいい。そう思った。
ミラ達はルーファスとリスティーナの間に何かあったのか何となく、事情は察しているようだが、リスティーナに直接聞くことはなかった。
柔らかいクッションや枕を用意したり、お茶や砂糖菓子を持ってきたりと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、リスティーナを気遣ってくれた。
「姫様。あの…、」
「どうしたの?スザンヌ。」
リスティーナがベッドの上で本を読んでいると、不安そうな表情を浮かべたスザンヌが入ってきた。
「実は…、ルーファス殿下から、リスティーナ様にと贈り物が届いておりまして…、」
「え?殿下から?」
そうしている間にもう使いの者が部屋に到着し、大きな白い箱と小さな容器が贈られた。
リスティーナが箱を開けようと近づくと、ミラが悲鳴を上げた。
「リスティーナ様!開けちゃ駄目です!な、何が入っているか分かりませんよ!?」
「でも、開けないと中身は分からないから…、」
「こ、ここは先輩達とスザンヌさんの誰かが開けることにしましょう!」
矛先を向けられたスザンヌと二人の侍女はギョッとした。
「ええ!?ど、どうして、私達が!?い、言い出したのはミラなんだから、ミラがすればいいじゃない!」
「あたしは今日、ルーファス殿下の給仕をしたんですよ!?っていうか、セリーさんもジーナさんも酷いです!幾らあたしがこの中で一番若いからってあたしに給仕役を押し付けるなんて…!」
「押し付けるなんて人聞きの悪い事言わないで頂戴!ああいう時は一番年下のあなたが率先してやるべきでしょう!」
「こういう時だけ、先輩面するなんてあんまりです!あたし、死ぬかと思ったんですからね!
とにかく!もう、あたしは十分、仕事をやりましたから!今度は先輩たちの番です!」
「何言っているの!結局、失敗して部屋を追い出されたっていうのに…!あんなの、無効よ!無効!」
「あなた達!姫様の前で見苦しい真似は止めなさい!全く…。仕方ありません。このままじゃ、いつまで経っても平行線ですし、ここは私が引き受けましょう。」
言い争いを始めるミラ達を叱りつけたスザンヌは自らその役目を名乗り出た。
すると、スザンヌの言葉にミラ達はぱあ、と表情を明るくした。
「え、ええ!?いいんですか!スザンヌさん!」
「ほ、本当に?」
「た、助かった…。」
あからさまに安堵する三人。そんな三人に呆れつつ、スザンヌはその気持ちが少しは分かるので責めることはしなかった。しかし、スザンヌは彼女達に気を取られていたせいでリスティーナにまで意識が向いていなかった。
「仕方がありません。姫様の為です。ということで…、姫様。私が開けますので少し離れて…、」
くるり、と振り向いたスザンヌだったが既にリスティーナは箱を開けている所だった。
スザンヌ達が話し込んでいる間にリスティーナはリボンを解いていた。
蓋を開けると、中から出てきたのはドレスだった。
「まあ、綺麗なドレス…。」
「ひ、姫様あ!?」
悲鳴を上げるスザンヌ達とは対照的にリスティーナは箱に入っていた薄緑色のドレスに見惚れた。
「スザンヌ。見て。素敵なドレスだと思わない?」
「姫様!いけません!素手で触ったりするなんて…!」
リスティーナは嬉しそうにスザンヌにも見せるようにドレスを広げて見せる。
だが、スザンヌ達はまるで爆弾か恐ろしい魔道具を前にしているかのような反応をした。
「そ、それはあのルーファス殿下からの贈り物ですよ?な、何が仕込まれているか分かった物ではありません!の、呪われたらどうするんですか!?」
「大丈夫よ。だって…、ほら。触っても何ともないもの。」
リスティーナはドレスをそっと優しく触れて安心させるように微笑んだ。
改めて、ドレスに視線を落とす。胸元には、赤い薔薇の模様が刺繍され、スカートの裾には、小花の刺繍が無数に散らばっている。柔らかい肌触りのドレスは高価な生地で作られていることがよく分かる。
ドレスを持ち上げた時に箱から手紙らしき何かが出てきた。
手紙…?リスティーナが中身を開けると、それはルーファスからだった。
こんなことで償いにはならないかもしれないが、詫びの品を贈らせて頂くということ、ドレスと一緒に渡した容器の中身は塗り薬であること、昨夜は乱暴にしてしまったので痛むようなら、その薬を使うようにと書かれていた。男の人が書いたとは思えない綺麗な筆跡…。その筆跡をそっとリスティーナは指でなぞった。手紙からは微かにミントの香りがする。
「スザンヌ。紙とペンを用意してくれる?」
「は、はい…。」
早速、お礼の手紙を書こうと思い、リスティーナがスザンヌにそう声を掛けた。
スザンヌはそんなリスティーナを戸惑った目で見つめながらも言われた通りに紙とペンを持ってきてくれた。
ミラはペコッと頭を下げた。リスティーナは謝られる理由が分からなかった。
「謝るって…、何に?」
「全てです!リスティーナ様に挨拶をした時から今日までの間…、失礼な態度ばかりを取ってしまって…、」
「え。そんな事は…、あなた達はよく働いてくれるし、仕事もよくできて失礼な態度だと思ったことはないけれど…、」
強いて言うのなら、距離感があるなと思っただけだ。でも、主従関係なんてそんなものなのかもしれない。
「いいえ!あたし達の態度はメイドにあるまじき態度でした。本来なら、遠い国から嫁がれたリスティーナ様を労わって誠心誠意、お世話をするべきでした。」
ミラは悔いるような表情を浮かべながら続けて言った。
「実は、あたしも先輩もこの仕事は初めてじゃないんです。今までも側室様のお世話係を任されることがあって…、でも、その方達はルーファス殿下の側室になったのが心底、嫌だったらしく…、その鬱憤をあたし達にぶつけるようになって…、」
知らなかった…。そういえば、殿下には他にも側室がいた筈だ。全員、不審な死を遂げたらしいが。
不審な死?もしかして、彼女達って…、リスティーナはふと、今までの正妃と側室達の死に疑問を抱いた。
「もう、散々でした。ヒステリックに泣き喚いたり、家具や食器を壊したり、躾と称して鞭打ってきたり…。正直言って、亡くなった時は少しホッとした位です。」
確かに身分の高い貴族や王族は使用人を道具か物のように扱う人が多い。
機嫌が悪い時にその苛立ちを自分よりも身分が下の人間にぶつける。それは、リスティーナも経験があるからよく分かる。
「だから…、その…、リスティーナ様もそんな人だったらどうしようって思ってしまって…、
また巻き込まれたり、目を付けられたくないのでできるだけ興味を持たれないように無関心で義務的に接しようって先輩達と話し合って決めたんです。でも、その…、リスティーナ様は今までの側室様達と違って穏やかで優しい人だったらびっくりして…。けど、それも演技かもしれないって先輩達が言うからあたしも中々信じられなくて…、その、申し訳ありませんでした!」
「…。」
そうだったんだ…。ミラ達もここで色んなことがあって苦労をしたのだと知り、リスティーナはミラを責める気にはなれなかった。今まで側室達に嫌な目に遭わされてきたのだから同じ側室として嫁いだリスティーナを信用できないのも無理はない。
「正直に話してくれてありがとう。私は別にあなた達に対して怒ってないから、気にしないで。
むしろ、あなた達はよくしてくれていると思っているわ。」
「っ…、あ、ありがとうございます…。」
リスティーナが微笑むと、ミラは少し頬を赤く染め、涙ぐんだ。
「顔が赤いけど、熱でもあるの?」
「い、いいえ!大丈夫です!あたし、元気だけが取り柄なので!」
ミラは慌ててそう言って、手をパタパタと振った。その仕草が小動物みたいで可愛いとリスティーナは思った。
「リスティーナ様!私、先輩達にも今の事話してきますね!それで…、もし、良かったら…、先輩達のことも…、」
「私は別に気にしていないからそこまでしなくてもいいと思っているのだけど…、でも、ミラがそう言うのなら…、」
リスティーナはそう言って、ミラの提案を受け入れた。ミラは嬉しそうにありがとうございます!とお礼を言い、他のメイド達を呼びに行った。
あの後、ミラ以外の二人のメイドとも和解することができ、リスティーナは良かったと安堵した。
心を許せるメイドはスザンヌだけだと思ったがミラ達ともこれからいい関係を築けたらいい。そう思った。
ミラ達はルーファスとリスティーナの間に何かあったのか何となく、事情は察しているようだが、リスティーナに直接聞くことはなかった。
柔らかいクッションや枕を用意したり、お茶や砂糖菓子を持ってきたりと甲斐甲斐しく世話を焼いてくれて、リスティーナを気遣ってくれた。
「姫様。あの…、」
「どうしたの?スザンヌ。」
リスティーナがベッドの上で本を読んでいると、不安そうな表情を浮かべたスザンヌが入ってきた。
「実は…、ルーファス殿下から、リスティーナ様にと贈り物が届いておりまして…、」
「え?殿下から?」
そうしている間にもう使いの者が部屋に到着し、大きな白い箱と小さな容器が贈られた。
リスティーナが箱を開けようと近づくと、ミラが悲鳴を上げた。
「リスティーナ様!開けちゃ駄目です!な、何が入っているか分かりませんよ!?」
「でも、開けないと中身は分からないから…、」
「こ、ここは先輩達とスザンヌさんの誰かが開けることにしましょう!」
矛先を向けられたスザンヌと二人の侍女はギョッとした。
「ええ!?ど、どうして、私達が!?い、言い出したのはミラなんだから、ミラがすればいいじゃない!」
「あたしは今日、ルーファス殿下の給仕をしたんですよ!?っていうか、セリーさんもジーナさんも酷いです!幾らあたしがこの中で一番若いからってあたしに給仕役を押し付けるなんて…!」
「押し付けるなんて人聞きの悪い事言わないで頂戴!ああいう時は一番年下のあなたが率先してやるべきでしょう!」
「こういう時だけ、先輩面するなんてあんまりです!あたし、死ぬかと思ったんですからね!
とにかく!もう、あたしは十分、仕事をやりましたから!今度は先輩たちの番です!」
「何言っているの!結局、失敗して部屋を追い出されたっていうのに…!あんなの、無効よ!無効!」
「あなた達!姫様の前で見苦しい真似は止めなさい!全く…。仕方ありません。このままじゃ、いつまで経っても平行線ですし、ここは私が引き受けましょう。」
言い争いを始めるミラ達を叱りつけたスザンヌは自らその役目を名乗り出た。
すると、スザンヌの言葉にミラ達はぱあ、と表情を明るくした。
「え、ええ!?いいんですか!スザンヌさん!」
「ほ、本当に?」
「た、助かった…。」
あからさまに安堵する三人。そんな三人に呆れつつ、スザンヌはその気持ちが少しは分かるので責めることはしなかった。しかし、スザンヌは彼女達に気を取られていたせいでリスティーナにまで意識が向いていなかった。
「仕方がありません。姫様の為です。ということで…、姫様。私が開けますので少し離れて…、」
くるり、と振り向いたスザンヌだったが既にリスティーナは箱を開けている所だった。
スザンヌ達が話し込んでいる間にリスティーナはリボンを解いていた。
蓋を開けると、中から出てきたのはドレスだった。
「まあ、綺麗なドレス…。」
「ひ、姫様あ!?」
悲鳴を上げるスザンヌ達とは対照的にリスティーナは箱に入っていた薄緑色のドレスに見惚れた。
「スザンヌ。見て。素敵なドレスだと思わない?」
「姫様!いけません!素手で触ったりするなんて…!」
リスティーナは嬉しそうにスザンヌにも見せるようにドレスを広げて見せる。
だが、スザンヌ達はまるで爆弾か恐ろしい魔道具を前にしているかのような反応をした。
「そ、それはあのルーファス殿下からの贈り物ですよ?な、何が仕込まれているか分かった物ではありません!の、呪われたらどうするんですか!?」
「大丈夫よ。だって…、ほら。触っても何ともないもの。」
リスティーナはドレスをそっと優しく触れて安心させるように微笑んだ。
改めて、ドレスに視線を落とす。胸元には、赤い薔薇の模様が刺繍され、スカートの裾には、小花の刺繍が無数に散らばっている。柔らかい肌触りのドレスは高価な生地で作られていることがよく分かる。
ドレスを持ち上げた時に箱から手紙らしき何かが出てきた。
手紙…?リスティーナが中身を開けると、それはルーファスからだった。
こんなことで償いにはならないかもしれないが、詫びの品を贈らせて頂くということ、ドレスと一緒に渡した容器の中身は塗り薬であること、昨夜は乱暴にしてしまったので痛むようなら、その薬を使うようにと書かれていた。男の人が書いたとは思えない綺麗な筆跡…。その筆跡をそっとリスティーナは指でなぞった。手紙からは微かにミントの香りがする。
「スザンヌ。紙とペンを用意してくれる?」
「は、はい…。」
早速、お礼の手紙を書こうと思い、リスティーナがスザンヌにそう声を掛けた。
スザンヌはそんなリスティーナを戸惑った目で見つめながらも言われた通りに紙とペンを持ってきてくれた。
応援ありがとうございます!
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