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第一章 出会い編

リスティーナの属性

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殿下がこちらに来る!?ど、どうしよう…!リスティーナは混乱した。
スザンヌに頼んで殿下を迎える準備を整える。
い、一体、何がどうなっているの?も、もしかして、見舞いの品が気に入らなかったとか?
いや。でも、ちゃんとこの国の風習に則った下調べもしたし…。花束の色とか花の種類によっては病人に贈っては失礼にあたるものもあるだろうからそういったものは選ばず、ちゃんと慎重に選別して用意したのだ。
あのハンカチの色や刺繍だって、大丈夫な筈だ。
鷲はこの国では健康や回復、力強さ、勇気の象徴。だから、殿下の体調がよくなりますようにという思いを込めて刺繍をしたのだが…。それがいけなかったのだろうか。リスティーナはどんどん悪い方向に考えてしまう。

女官長の話だと、殿下の体調が今朝になって少し回復したらしい。
今では自力で立ち上がり、歩けるようになったとか。食事はまだ軽い物しか食べていないがそれでもかなり快調に向かっているとのことだ。その話を聞いて、リスティーナもホッとしたものだ。
殿下の体調が回復したのは喜ばしい。だが…、だからといって、今夜いきなり殿下が来られると聞いて、驚かないわけがない。とにかく、あの初夜の時のような失態を犯さないようにしないと…!
普通は寝酒を用意するものだが殿下は病み上がりの身だし、酒は身体に良くないかもしれない。
酒ではなく、ハーブティーにしよう。蜂蜜も用意して…。

そういえば、ダニエラ様達の話だと月に数回は一人一人の妃の元に通う事があると仰っていた。
殿下がここに来られたら、相手をすることになるとも…。
つまりは…、今夜ここに来られるということは私は殿下と…。
そこまで考えて、かああ、と顔が赤くなった。
いや!でも、殿下はまだ病み上がりだし…、でも、もしそういう雰囲気になったらどうすればいいのだろう?
そもそも、リスティーナは知識は知っていても、実際にどうすればいいのかとはよく分からない。
男女の営みで女性は皆、どうしているのだろうか。積極的に動くべき?夫に奉仕をするべき?
いや。でも、それだとはしたないと思われたら…、
湯浴みを済まして髪や肌に香油を塗られ、薄いネグリジェを着たリスティーナはぐるぐると混乱しながらも大人しく殿下の来訪を待っていた。

「リスティーナ様。ルーファス殿下がお見えになられました。」

リスティーナはドキッとして、身構えた。侍女に通すように返事をして立ち上がって殿下を迎える。硬い靴音を響かせて、部屋に入ってきたルーファスにリスティーナは深く頭を下げて出迎えた。

「ご機嫌麗しゅうございます。殿下。お越しいただき、光栄でございます。」

ルーファスは無言のままだ。シーン、と沈黙が流れる。それなのに、じっとこちらを見ている視線を強く感じる。重苦しい空気を破るようにリスティーナは声を上げた。

「後宮まで足を運んで下さり、痛み入ります。お疲れでございましょう?よろしければ、こちらのソファーにでも…、」

すぐに寝台に誘導するのは何となく躊躇してしまい、とりあえず、ソファーに座ってもらおうとした。

「…ああ。」

軽く頷くと、そのままソファーに座った。
注意深く観察すると、ソファーに座ったことで少し溜息を吐いたルーファスの姿を見て、やっぱり立っているだけでも辛かったのかもしれないと感じた。
リスティーナも向かい側のソファーに腰掛ける。前のように顔色は良くなったように見えるが明らかに痩せていて、以前よりも弱弱しく見える。リスティーナは何か飲み物でも…、と言おうとしたその時、

「リスティーナ姫。」

「は、はい。」

名を呼ばれ、慌てて居住まいを正した。ルーファスは無表情のまま言った。

「…見舞いの品を頂いた。気遣いに感謝する。」

リスティーナは一瞬、何を言われたのか分からず、キョトンとした。漸く、じわじわと言葉の意味を理解し、

「い、いえ!そんな…、喜んでいただけたのなら光栄です。」

まさか、お礼を言われるなんて…。リスティーナは心が温かい気持ちに包まれた。
嬉しくて思わず笑顔を浮かべるリスティーナだったがルーファスは無言のままだ。
その表情は何を考えているのか分からない。

「あ、あの…、殿下。喉は渇きませんか?よろしかったら、ハーブティーでも如何ですか?」

ルーファスがリスティーナに視線を向ける。

「ハーブティー?」

「はい。お酒だと殿下の身体に良くないと思いましたので。…もしかして、ハーブティーはお嫌いですか?」

「…いや。そんな事はない。」

「では、早速準備しますね。」

良かった。頷いてくれた。リスティーナはハーブティーを淹れ、レモンと蜂蜜を少し混ぜてルーファスに差し出した。

「お口に合えばよろしいのですけど…、」

「…。」

が、ルーファスは口をつけようとしない。

「あの…、もしかして、カモミールはお嫌いでしょうか?」

「いや…。」

ルーファスは首を振った。じっとカップに視線を注ぐ。
一瞬、躊躇したように見えたがカップを手に取り、口をつけた。良かった。飲んでくれた。

「お口に合いますか?」

「…ああ。」

「そうですか。良かったです。」

ルーファスの言葉にリスティーナはホッと安堵した。

「あの、もうお加減はよろしいのですか?」

「今の所は大丈夫だ。」

「それは良かったです。一時は危なかったとお聞きしていましたので…、回復したのなら何よりですわ。あの、でも、まだ回復したばかりなのですから、無理はせずに…、」

「今日ここに来たのは、君に聞きたいことがあったからだ。」

聞きたいこと?何だろう。リスティーナは改めてルーファスに向き直った。

「何でございましょうか?」

「君は魔力持ちだな?属性は何だ?」

「え…、属性、ですか?私の?」

「そうだ。もしかして、光の属性持ちか?」

「い、いえ。私の属性は土魔法ですわ。」

「土?…本当か?」

「はい。成人した年に受けた魔力の属性判定の儀式でそう判定されました。」

リスティーナの言葉にルーファスは考え込むように顎に手を当てた。

「あの…、突然どうして属性の事をお聞きに?それに、私の属性が光の魔力持ちと思ったのは…?」

ルーファスは黙ったまま、懐から何かを取り出した。スッと目の前に置かれたそれは…、リスティーナがあげたハンカチだった。

「このハンカチに何か光魔法でも使ったのではないのかと思ったのだ。」

「え…、まさか!だって、私は光の属性ではないですからそもそも光魔法は使えませんから…。」

「…そうか。」

ルーファスはリスティーナの答えに何かを考える様な素振りを見せた。

「あの…、そのハンカチに何か…?」

「…いや。ただの気のせいだったみたいだ。」

ルーファスにそう言われ、リスティーナは首を傾げながらもそれ以上は聞かなかった。
もしかして、私の魔力が光属性だとありもしない噂がこの国に流れているのだろうか?
そんな馬鹿な。それに、私はここで光魔法は使ったことないし、そもそも使えない。
だって、光の属性ではないのだから。土属性だって、初歩的な魔法しか使えないのに…。
あ、そういえば、私…、
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