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第一章 出会い編
ルーファスside
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「ゴホッ!ゴホッ…!グッ…!?」
ルーファスは止まらない咳をし、口元に手を当てた。すると、一際大きな咳をしてしまう。
同時に勢いよく口から何かが零れ出た。よく見れば、それは血だった。ハッ…、ハッ…、と荒く息を吐きだす。息が苦しい。思わず、喉元を抑える。
いつまでこの苦痛に耐えなければならないのか…。幼い頃に熱病に侵され、それからずっとこの苦しみを味わってきた。成長すればするほど、その苦痛は増していく。
自分でも分かる。この身体はもうボロボロだ。いつ壊れてもおかしくない。余命を宣告されても驚きはしなかった。むしろ、まだそこまで生きられるのかと思った程だ。
この苦痛がまだ一年も続くのかと思うと、気が狂いそうだった。…もう、いっそのこと…、
ルーファスは淀んだ目で卓上に置かれた護身用の短剣に目を向ける。ずりずり、と懸命に体を動かし、短剣に手を伸ばす。もう、いっそのことこれで楽に…、そこまで考えた時、扉がノックされる。ルーファスはハッとして短剣に伸ばした手を下ろした。扉に目を向け、入室を促した。
「殿下…、あの…、こちらリスティーナ様からのお見舞いの品でございます…。」
「見舞い?…いらん。捨てておけ。」
「そ、そんな事仰らず!折角、殿下の為に用意して下さったのですから!」
この従者は数日前にやめた従者の代わりにきた新しい従者だ。この従者は前の従者と違って何故かルーファスの世話を焼きたがる。今までの従者は目を向けたり、話しかけるだけであからさまに怯えていたというのに…。
「ほら!見て下さい!とても綺麗な花束ですよ!」
従者から差し出された花束の色は黄色を基調にした花束だった。その色があの新しい側室の髪色を連想させた。
「こちらが見舞いの品みたいですよ。」
小さな箱を差し出され、反射的に受け取る。ルーファスは溜息を吐きながら、箱を開けた。
中にはハンカチが入っていた。目を凝らしてみれば、ハンカチには鷲の刺繍が施されていた。
ハンカチからは微かに柑橘類の香りがした。
「それに、手紙まで…、よろしかったら、僕が読みましょうか?」
「…いい。処分しておけ。」
「ええ!?折角、手紙を下さったのに読まずに捨てるなんて…!せめて、読むだけでもしてあげてください。」
そう言って、従者はベッドの傍の卓上の上に手紙を置いて、花束を生ける為に花瓶を探しに行った。
ーあの側室はまだ諦めていないのか。ご苦労な事だ。どうせ、無駄な事なのに。
見舞いを断ったら諦めるかと思いきや、あの王女は未だに接触を図ってくる。理解できなかった。
そこまでして、自分の寵愛を受けろと母国から圧力をかけられているのだろうか。
さっさと切り替えて、別の男を標的にした方が利があるというのに…。何故、死にぞこないの自分に構うのだろうか。
ルーファスはチラ、と手紙を一瞥するが読まずにそのままベッドに横になった。
―けて…。助けて…。
ひたひたと忍び寄る足音と共に縋るような助けを求める声が聞こえる。
闇の中で無数の黒い手が自分に向かって伸ばされる。逃げても逃げても追ってくる。
憎悪、怨念、殺意、敵意、苦しみや悲しみ…、ありとあらゆる負の感情を乗せた声が聞こえる。
ガッと足首を掴まれる。見下ろせばそこには、眼球のない女がこちらを見上げている。
「…は、放せ!」
肩を掴まれ、思わず振り返る。頭が半分損傷した男がこちらをじっと見下ろしていた。
「ッ…!」
思わず振り払い、そのまま駆け出す。
―助けて下さい…。
―置いて行かないで…。
―私達を救って…。
「…来るな!あっちに行け!」
ルーファスは逃げていた。この亡霊達から。彼らの正体は知らない。だが、明らかに人間じゃない。身体が腐っている者、顔の半分がない者、身体が欠けている者、どちらにしろ皆、生きている筈がない状態の姿をしていた。こいつらは死者の国の住人だ。自分を死者の国に引きずり込もうとしている。夢だと分かっているのに、やけに生々しくて、現実に起こっているかのような錯覚に捉われる。
これも、呪いの一つなのだろうか。彼らに捕まったり耳を貸したりすれば自分が人間ではない何かに変わってしまいそうで恐ろしかった。早く、早く目が覚めろ。
そう願った時、ふわり、と何かに包まれたような温かい感触を感じた。…何だ?まるで羽根に包まれるかのような感覚。それは不快ではない。むしろ、揺り篭に乗って揺らされてウトウトと微睡む赤ん坊のような…、そんな気分すら味わった。ルーファスの記憶はそれが最後だった。そのままスウ、と心地よい眠りに誘われた。
フッと目を開ける。気付けば眠ってしまっていたようだ。こんなに寝れたのはいつ振りだろうか?
今日はあの痛みもない。起き上がったルーファスはパサッと何かが落ちる音に目を向けた。
鷲の刺繍が入った紺色のハンカチ…。思わずハンカチを手に取った。ふわり、と爽やかな香りが鼻腔を擽る。
「…あの王女。」
ルーファスは卓上の上に置かれた手紙に目を向ける。そして、その手紙を手に取った。ガサリ、と音を立てて、手紙の封を開ける。
「殿下?どうされましたか?」
ベルの音に従者が何事かと駆けつけた。
「後宮に使いを送れ。…今夜、リスティーナ姫に会いに行くと。」
従者はその言葉にあんぐりと口を開け、固まった。
ルーファスは止まらない咳をし、口元に手を当てた。すると、一際大きな咳をしてしまう。
同時に勢いよく口から何かが零れ出た。よく見れば、それは血だった。ハッ…、ハッ…、と荒く息を吐きだす。息が苦しい。思わず、喉元を抑える。
いつまでこの苦痛に耐えなければならないのか…。幼い頃に熱病に侵され、それからずっとこの苦しみを味わってきた。成長すればするほど、その苦痛は増していく。
自分でも分かる。この身体はもうボロボロだ。いつ壊れてもおかしくない。余命を宣告されても驚きはしなかった。むしろ、まだそこまで生きられるのかと思った程だ。
この苦痛がまだ一年も続くのかと思うと、気が狂いそうだった。…もう、いっそのこと…、
ルーファスは淀んだ目で卓上に置かれた護身用の短剣に目を向ける。ずりずり、と懸命に体を動かし、短剣に手を伸ばす。もう、いっそのことこれで楽に…、そこまで考えた時、扉がノックされる。ルーファスはハッとして短剣に伸ばした手を下ろした。扉に目を向け、入室を促した。
「殿下…、あの…、こちらリスティーナ様からのお見舞いの品でございます…。」
「見舞い?…いらん。捨てておけ。」
「そ、そんな事仰らず!折角、殿下の為に用意して下さったのですから!」
この従者は数日前にやめた従者の代わりにきた新しい従者だ。この従者は前の従者と違って何故かルーファスの世話を焼きたがる。今までの従者は目を向けたり、話しかけるだけであからさまに怯えていたというのに…。
「ほら!見て下さい!とても綺麗な花束ですよ!」
従者から差し出された花束の色は黄色を基調にした花束だった。その色があの新しい側室の髪色を連想させた。
「こちらが見舞いの品みたいですよ。」
小さな箱を差し出され、反射的に受け取る。ルーファスは溜息を吐きながら、箱を開けた。
中にはハンカチが入っていた。目を凝らしてみれば、ハンカチには鷲の刺繍が施されていた。
ハンカチからは微かに柑橘類の香りがした。
「それに、手紙まで…、よろしかったら、僕が読みましょうか?」
「…いい。処分しておけ。」
「ええ!?折角、手紙を下さったのに読まずに捨てるなんて…!せめて、読むだけでもしてあげてください。」
そう言って、従者はベッドの傍の卓上の上に手紙を置いて、花束を生ける為に花瓶を探しに行った。
ーあの側室はまだ諦めていないのか。ご苦労な事だ。どうせ、無駄な事なのに。
見舞いを断ったら諦めるかと思いきや、あの王女は未だに接触を図ってくる。理解できなかった。
そこまでして、自分の寵愛を受けろと母国から圧力をかけられているのだろうか。
さっさと切り替えて、別の男を標的にした方が利があるというのに…。何故、死にぞこないの自分に構うのだろうか。
ルーファスはチラ、と手紙を一瞥するが読まずにそのままベッドに横になった。
―けて…。助けて…。
ひたひたと忍び寄る足音と共に縋るような助けを求める声が聞こえる。
闇の中で無数の黒い手が自分に向かって伸ばされる。逃げても逃げても追ってくる。
憎悪、怨念、殺意、敵意、苦しみや悲しみ…、ありとあらゆる負の感情を乗せた声が聞こえる。
ガッと足首を掴まれる。見下ろせばそこには、眼球のない女がこちらを見上げている。
「…は、放せ!」
肩を掴まれ、思わず振り返る。頭が半分損傷した男がこちらをじっと見下ろしていた。
「ッ…!」
思わず振り払い、そのまま駆け出す。
―助けて下さい…。
―置いて行かないで…。
―私達を救って…。
「…来るな!あっちに行け!」
ルーファスは逃げていた。この亡霊達から。彼らの正体は知らない。だが、明らかに人間じゃない。身体が腐っている者、顔の半分がない者、身体が欠けている者、どちらにしろ皆、生きている筈がない状態の姿をしていた。こいつらは死者の国の住人だ。自分を死者の国に引きずり込もうとしている。夢だと分かっているのに、やけに生々しくて、現実に起こっているかのような錯覚に捉われる。
これも、呪いの一つなのだろうか。彼らに捕まったり耳を貸したりすれば自分が人間ではない何かに変わってしまいそうで恐ろしかった。早く、早く目が覚めろ。
そう願った時、ふわり、と何かに包まれたような温かい感触を感じた。…何だ?まるで羽根に包まれるかのような感覚。それは不快ではない。むしろ、揺り篭に乗って揺らされてウトウトと微睡む赤ん坊のような…、そんな気分すら味わった。ルーファスの記憶はそれが最後だった。そのままスウ、と心地よい眠りに誘われた。
フッと目を開ける。気付けば眠ってしまっていたようだ。こんなに寝れたのはいつ振りだろうか?
今日はあの痛みもない。起き上がったルーファスはパサッと何かが落ちる音に目を向けた。
鷲の刺繍が入った紺色のハンカチ…。思わずハンカチを手に取った。ふわり、と爽やかな香りが鼻腔を擽る。
「…あの王女。」
ルーファスは卓上の上に置かれた手紙に目を向ける。そして、その手紙を手に取った。ガサリ、と音を立てて、手紙の封を開ける。
「殿下?どうされましたか?」
ベルの音に従者が何事かと駆けつけた。
「後宮に使いを送れ。…今夜、リスティーナ姫に会いに行くと。」
従者はその言葉にあんぐりと口を開け、固まった。
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