上 下
89 / 100

#89話 怯える羊

しおりを挟む
 三ツ木真古都とは小学校からずっと同じ学校だった。
大して可愛くも無いのに花瓶の水換えや花壇の水やりを毎日楽しそうにしているヤツだった。

「ズブ濡れの野良猫みたいにみっともねぇお前が、花なんか似合う訳ねぇだろ。ブサイクのくせに生意気なんだよ!」

ブスのくせに、毎日ニコニコしながら花の世話をしてるのが、見てて腹立たしかったから泥水を頭から被せて揶揄ったのが始まりだった。

それからは、面白くない時や、ムシャクシャしてる時は、酷い悪戯いたずらをして遊んだ。

怯える羊みたいに、いつもビクビクしてて、どれだけ酷い事をしても絶対歯向かって来ないから愉しかった。

「おい、葵。 お前本当にするのか?」
俺と一緒に三ツ木を揶揄ってた蓮奈賀準哉はすながじゅんやが訊いてきた。
「丁度良い機会だろ?そろそろ泣いた顔を見せてもらおうじゃん」

あの女は、俺たちが揶揄って、酷い嫌がらせをしても、今まで一度も泣いた顔を見せた事が無い。

困った顔で俯くばかりで、泣いて赦しを請う事は無かった。
その事が一層俺を苛立たせた。




「お前って酷いヤツだよなぁ」
「それ言ったらお前だって同類じゃねぇか」
「それもそーか カッカッカッ」
準哉が変な笑い方をしてる。

あの先輩が、もっと上手くやってくれたら、こんな面倒な事しなくてもすんだんだ。

あんなにあっさり親元に連れてかれるなんてホント使えねーヤツ…

「あの子も可哀相になー こんなヤツに目をつけられてさぁ」
準哉が冷やかすように言う。

「準哉、一言多いぞ。俺は小学校からの級友として、いつもボッチなあいつと遊んでやってるだけだ」

「そりゃいーや」
準哉の下卑た笑い声が放課後の教室に響いた。




「ついに、明日から文化祭ですね! 部長!」
「色々楽しめるといいな」

霧嶋のクラスはやはり去年同様演劇で、今年は[王子役]から逃れられなかったらしい。

「まあ、霧嶋くんにはハマり役じゃないですかぁ?」
笹森がそう言って霧嶋を揶揄った。

「もう、煩いなぁ」
霧嶋は少し拗ねて、プイッと横を向いた。
「いいじゃないか。そのムダに良い顔を存分に発揮してこいよ」
「何だよ先輩まで!」

「こらあ、あんまり揶揄わないの!
でも、霧嶋くんの王子様はやっぱり素敵だと思うよ」
真古都が拗ねてる霧嶋の顔を覗きこんで慰めてる。

「そう言ってくれるのは真古都さんだけだよ!
愛を囁くシーンでの台詞は全て君に捧げるよ!」
霧嶋はドサクサに紛れて、真古都の両手を取り、その指先へキスをおとしてる。

「何ドサクサに紛れて変な事してるんだよ!
真古都から離れろ霧嶋!」

「えーっやだよ!」
霧嶋が益々真古都を抱き竦めて言った。

「だってみんなして先輩に投票したんでしょ?
後夜祭でのキスの相手は先輩にほぼ決まりじゃん?
今ぐらいくっついてたっていーじゃない!」

「黙れ!それとこれとは関係無いだろ!」

「…あ…あの…キスって…何?」

思ってもみなかった一言で、その場にいた部員は一斉に真古都を見た!


「????????」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...