君の為に出来る事ー君に伝えたかった言葉と伝えられなかった事ー

ねこねこ暇潰商会(nekoneko)

文字の大きさ
上 下
75 / 100

#75話 波乱の始まり

しおりを挟む
 4月になって新学期が始まり、恒例の部活紹介の後、美術部は思いの外新入部員が入って来た。

「見て見て!今年は新入部員いっぱいだよ」
真古都は入ってきた新入部員の数を見て無邪気に喜んでいる。

「殆ど霧嶋目当てだけどな」
俺は鰾膠なく答える。
「で…でも、部員として残ってくれたら…」
真古都がムキになってる。

「どうだかな…目当ての霧嶋が、部長にご執心と判ったらどれだけ残るか…」
真古都がしゅんとなって俯いた。

「お前が彼氏を優先させればいい事なんじゃないのか」
俺は彼女の耳元で言った。

「わ…判った…そうする!」
真古都は頬を染めて言った。

「部長みっけ!」
そう言って、真古都を後ろから抱き締めたのは霧嶋だった。
こいつは全く、いつも真古都にベタベタと!

「離れろ! 霧嶋!」
「え~やだっ!」
怒る俺に対し、霧嶋の方は涼しい顔をしている。
こいつっ!
病人だと思って甘い顔していれば付け上がりやがって!

「いーじゃん、
どうせホントの彼氏じゃないんだし…」
霧嶋がボソッと言った。
勿論他の奴らには判らない、俺たち3人にしか聞こえない声でだが…

「五月蝿い!彼氏は彼氏だ!行くぞ真古都!」
俺は痛い所を突かれたので、早くその場を切り上げたかった。
「僕の真古都さんなのになぁ…」
俺はまたカチンとなった。
「その酷い妄想は止めろ!」




「新入部員への挨拶前だって云うのに…また始まっちゃいましたね。部長の取りっこ」
新しい副部長の笹森杏果ささもりきょうかが呆れたように言った。
「僕たちには見慣れた光景だけど、新入部員はびっくりするかもね」
笑って答えたのは同じ副部長の稲垣撫菜いながきなずなだ。


「皆さんこんにちわ、部長の三ツ木です!」
緊張気味に真古都が挨拶する。
今日は新入部員の見学兼、オリエンテーリングの日で、入部を希望するやつは、ここで正式な入部届を提出する。


《あの人だよね?霧嶋くんからプロポーズされたって云うの》
《なんだ、大した事ないじゃん。ただの噂なんじゃない?》
《横にいる人って彼氏でしょ?絶対ただのデマだって!あんな彼氏出来る訳ないよ》
《もし本当でも、あの人相手なら簡単に取れそうだよね》

1年生の中から、ヒソヒソと真古都を愚弄する声が聞こえる。
俺は我慢出来なくなって声を出そうとした時、副部長の稲垣が前に出た。

「冷やかしや、面白半分でなく、真面目に活動する気のある人だけ残って下さい。何か質問がある人は遠慮なく訊いて下さい」

噂話をしていた1年は何だかバツが悪そうだった。

俺は真古都の傍に行き頭を撫でてやる。
俯いていた彼女が、俺の顔を見上げながら含羞んだ笑顔を向ける。
部活内で抱き締める訳にはいかないので、頭を撫でながら気持ちを落ち着かせてやる。

その様子だけでも先程の1年には衝撃を与えたようだった。

「真古都さ~ん 大丈夫だったぁ?」
霧嶋のやつがまたしても真古都を横から抱きすくめた。

これには先程の1年だけでなく、新入部員として来ていた女の子たちの黄色い声が此処彼処で聞こえた。
「離れろ!霧嶋!」
俺はブチ切れた。

「えっ?嫌ですよ!
僕だって真古都さんを慰めたいです」
霧嶋は尚も真古都を抱き抱えて離さない。

「何考えてんだ!部活内で!」
「え~っ 恋愛は自由でしょ」


俺と霧嶋が言い合う間で、真古都は頬を染めながらどうしていいか判らずあたふたしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

バイバイ、旦那様。【本編完結済】

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
妻シャノンが屋敷を出て行ったお話。 この作品はフィクションです。 作者独自の世界観です。ご了承ください。 7/31 お話の至らぬところを少し訂正させていただきました。 申し訳ありません。大筋に変更はありません。 8/1 追加話を公開させていただきます。 リクエストしてくださった皆様、ありがとうございます。 調子に乗って書いてしまいました。 この後もちょこちょこ追加話を公開予定です。 甘いです(個人比)。嫌いな方はお避け下さい。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...