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#69話 適材適所

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 今日は土曜日だから丸一日作業だった。
時間は長かったが、お昼は真古都がお弁当を用意してくれた。
俺はそれだけでも凄く嬉しい。

「しかし、あの真古ちゃんが弁当まで作るなんて、お前随分愛されてんなあ…」
「あ…ありがとうございます」
ハルさんが揶揄うように話す。
俺は恥ずかしかったが、そう言われて悪い気はしなかった。

業務が終わって帰ってくると、店の前に何人もの女性で人集りが出来ていた。
「なんだ?今日は何も無かった筈だが…」
ハルさんも俺も、暫く込み合っている様子を眺めていると、その先に男がいるのに気づく。

…………?
「……霧嶋?」
「なんだ知り合いか? しかし、モデルみたいなイケメンにーちゃんだな」
ハルさんも霧嶋のイケメンぶりに感心している。

「同じ部活の一年下の後輩です。しかも真古都にご執心なんですよ」
ハルさんは俺の言葉に結構驚いていた。
そりゃそうだ、コミュ障な上に、男が苦手で籠りがちな彼女を想っている男が二人も揃ったんだから…

しかも今日の霧嶋は、あのムダに良い顔を引き立てる出で立ちで、女性客にこれでもかと云うほど甘い笑顔を向けている。
片や俺はと云えば、高校の農業科へポット苗をいくつも卸した際、服も可成り汚れて、汗と泥で真っ黒だ。

「なんだ、イケメンライバル登場で臆したか?」
少し卑屈になった俺の心を察したのか、ハルさんが背中を叩いてくれた。

「弁当作ってもらうくらい愛されてんだろーが!
自信持て!心配ならちゃんと捕まえとけよ!
顔はどうしようもないが、真古あいつは顔で選ぶようなヤツじゃないから安心しろ!」
ハルさんから訳の判らないエールを貰った。

「瀬戸くん! お帰りなさい」
真古都がいつもの笑顔で迎えてくれた。

「ご馳走様」
俺は空になった弁当箱を渡した。
「あの…どうだった…?」
彼女が心配そうな顔で訊く。
「ん? 美味かった」
するとたちまち頬を染め、ぱあっと嬉しそうな顔になる。
「直ぐにお茶とおしぼり用意するから休んでて」
彼女は事務所に走って行った。

「ほら、みろっ!」
今度は頭の後ろをハルさんから叩かれた。俺は少し照れ臭かった…



「霧嶋くんお疲れ様、気をつけて帰ってね」
真古都さんが店の外まで送ってくれた。
「お母さんが無理に誘ったのにありがとうね」
彼女が僕の顔を覗き込むように話すから、引き寄せて頬にキスをした。
「へ…変な事しちゃダメだって言ったでしょ!」
赤くなった頬を押さえてムキになってる。
「お店の中ではしてないでしょ、それじゃあまた明日ね」

僕は真古都さんのいる園芸店に行くと、女の子にそれとなく声をかけて、花を買わせることに成功した。
その後でアルバイトの話を出したら、思った通り真古都さんのお母さんがすんなりOKしてくれた。

これでクリスマスまで真古都さんと一緒だ。
しかも先輩は外回りでいない。
これで少しでも距離を縮められるぞ。
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