上 下
63 / 100

#63話 葛藤

しおりを挟む
 霧嶋と病院で会ってから、俺の胸の中には
真っ黒な澱が出来た。

これは霧嶋にも、真古都にも言えない…

霧嶋の病気の事は真古都には話さない。
それは霧嶋が願った事だから。

だけどそれは表向きだ。

俺が真古都に知られたくないから…
だから霧嶋からの申し出を、
さも、霧嶋が頼むから
仕方なく引き受けた様な顔をして
受け入れた。

真古都が俺から離れて行く可能性があるなら
それがたとえどんな小さなきっかけでも
嫌だと思った。

もし俺が霧嶋の立場なら
多分そのきっかけを逃さないだろうから

俺はこの期に及んでも、
まだ真古都に自分の気持ちを
打ち明けられずにいるくせに

彼女を誰にも取られたくないと云う
身勝手な気持ちだけは強かった。

真古都は、俺たちの関係をだと
本当に信じてるから…

霧嶋が言うように
真古都にとって俺は単なる
仲の良い友達だとしたら…

想いを伝えても拒絶されるかもしれない
俺はそれが怖かった…

どうしたらいい?




「何? 話しって…」

「悪いが…
俺とお前との仲も…
これまでになるかもしれない」

俺は悩んだ末、柏崎のところに来ていた。



神妙な顔をする俺の前で、柏崎こいつ
腹を抱えて笑っている。

俺は…どうしようもなくなり、
柏崎こいつに話しを訊いてもらった。

「全く…いつにも増してお前が怖い顔してるんで何かと思えば…」

俺は何も言えないでいる。

「良いんじゃないか?
その後輩の事は残念だと思うが、
好きな女の前で遠慮してたらダメだ!」

柏崎こいつは、普段おっとりしていて、
虫も殺さない顔をしてるが、
一年の時、好きな女の為に先輩を殴って
停学処分を受けた様なヤツだ。

その甲斐有ってか、彼女とは今でも他のヤツが
羨む程仲が良い。
下手をしたら、霧嶋なんかよりも柏崎こいつの方が先に彼女と結婚するんじゃないかと思う程の熱愛ぶりだ。

「自分の気持ちに正直になって俺は良いと思う」

柏崎こいつは彼女のことになると妥協がない。
だからこそ、俺に好きなヤツが出来たことを
凄く喜んでくれた。

「俺は…真古都が好きだ」
「うん」

「これからも一緒にいたい」
「うん」

「離れたくない」
「うん」

柏崎が俺の気持ちを静かに訊いてくれる。

「でも安心したよ。
お前は変に冷めたところがあるし、
女にも全然興味を示さないから、このままずっと一人なんじゃないかと心配してたんだが、そんなに悩むくらい好きなヤツが出来て良かったな」

柏崎と話しをして大分気持ちの整理がついた。

俺の中の澱が失くなった訳じゃないが、
真古都への気持ちは固まった。

この澱は、
一生俺の中に閉じ込めることにした。




「真古都、帰るぞ」

「はーい」

俺は真古都を迎えに行ってやる。
このクラスの男子には、真古都を揶揄ってふざけるヤツが何人かいる。

俺が迎えに行くことで少なからず牽制になる。
これは霧嶋には出来ないことだ。

「瀬戸くん、おまたせ」
「おう」

傍に来た真古都の頭を撫でてやると、
頰を紅潮させ、含羞んだ笑顔を見せる。

これぐらいのことで喜ぶコイツが
可愛くて堪らない。

やっぱりちゃんと伝えよう
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

貴方の事なんて大嫌い!

柊 月
恋愛
ティリアーナには想い人がいる。 しかし彼が彼女に向けた言葉は残酷だった。 これは不器用で素直じゃない2人の物語。

処理中です...