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#53話 暗雲低迷
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部屋に戻ってベッドに入っても、霧嶋が言った言葉が頭から離れないでいた。
あんなクズのために傷ついても、
それでも一途に思いを寄せているアイツが
なんだか痛々しくて…
何かしてやりたくて…
だから側にいるのが当たり前だった…
ずっとこのまま側にいられたらそれで良かった。
霧嶋がアイツを好きになって、
初めてアイツへの気持ちを自覚した…
でも…今は…
霧嶋に言われるまでもない。
今すぐアイツのところへ行って、
思いきり抱きしめて
キス出来たらどれ程良いか…
どうしようもなく好きで、
頭の中はいつだってアイツのことばかりで…
頭がおかしくなりそうだ……
「くそっ!」
頭の中をしめるアイツへの想いが、
自分ではどうすることも出来なくて
俺は外の空気を吸いに部屋を出た。
『霧嶋の所為で全然眠れ…あれっ?』
一階に降りて玄関に向かうと外に出ていく真古都を目にする。
『こんな時間にどこ行くんだ?』
何となく、様子をみようと直ぐに声をかけなかった。
真古都は玄関の側にあるベンチへ腰掛けると、
暫くじっと座って下を向いていた。
ところがそのうち辛そうな顔になり
両手で頭を抱え始めた。
俺はもう見ていられなくなり声をかけた。
「真古都?」
「せっ…瀬戸くん? どうして……」
誰もいないと思っていたところへ
急に声をかけられビックリして俺を見る。
今にも泣きそうな顔だ。
「な…何でもない…ちょっと眠れなくて…
ごめん…おやすみなさい」
真古都は立ち上がると宿舎の方へ躰を向けた。
俺は帰ろうとする彼女の腕を掴み引き止めた。
「な…なに…」
「いや…俺もちょっと眠れなくて…」
心なしか真古都が俺の手から離れようとしている…
俺は彼女を今離したらいけない気がした。
「少し歩くか?」
彼女の顔を覗き込むようにして訊くと、
コクコクと躊躇いがちに頷いた。
俺は彼女の手を離されないよう
強く握り歩き出した。
心臓が五月蝿く鳴り響き
握った手が汗ばんできたが
絶対離したくなかった。
「真古都…
ここまで来たら大丈夫だ
多分誰も来ない
二人きりだ…泣いていいぞ」
「瀬戸くんの…意地悪…」
真古都は躰を離そうとするが、
俺が離さなかった。
「瀬戸くんのバカァ!
瀬戸くんなんて大っ嫌い!」
そう言って真古都は俺の胸に顔を埋めると声をあげて泣き出した。
『はいはい……
俺は大好きだけどね…』
俺の胸で、肩を震わせて泣く真古都に、
愛しい気持ちがとまらなかった。
「落ち着いたか?」
「うん」
真古都は浴衣の袖で、鼻の下を気にしている。
「涙と鼻水で酷い顔だな」
「仕方ないじゃない!
泣けって言ったの瀬戸くんでしょ!」
真古都に回した腕はそのままだったが、
彼女の方も先程の離れようとする感じは
もう無かった。
「じゃあ責任取らないとな…」
「な…何するの」
俺はまだ涙が乾いて無いところを
自分の唇を近づけて拭った。
「悪い……泣けって言った割に…
俺、ハンカチ持って無いんだわ…
今はこれで勘弁しろよ」
「だ…だからって普通舐めないでしよ…」
それでも
俺が涙を拭い終わるまで、
真古都は俺の腕の中で
じっと目を閉じて待っていた。
次の日、
俺は頭がボーッとして何も手につかなかった。
昨夜…ドサクサに紛れてとんでもない事をした。
アイツは気がつかなかったみたいだが、
反対側の頬に移る時彼女の唇にそっと触れた。
真古都の唇…柔らかかった…
ダメだ…
昨夜の事が頭から離れない…
俺は罪悪感で真古都の顔がまともに見れない…
真古都が話しかけようとしているのに
プイッとそっぽを向いてしまう。
『くそっ!
今なら霧嶋がアイツとキスしたがる気持ちが判る…』
俺の態度に真古都の方が困惑している。
「瀬戸くん どうしたんだろ…」
「さあ…」
『今更意識しちゃって 何やってるんだか…』
霧嶋が呆れ顔で俺を見ている。
「あ…あの 瀬戸くん」
思い余ったのか、真古都が話しかけてくる。
「わたし…
瀬戸くんを怒らせるような事した?
ほ…ほら わたし鈍いところあるから……
知らないうち瀬戸くん不快にしたかもって…」
真古都が申し訳なさそうに話す。
「もし…不快にさせたんなら……
その…申し訳なくて……」
気まずくて避けてたのは俺の方なのに…
真古都の額を中指で弾く
「痛っ!」
「何 変な気を遣ってるんだ…
俺がちょっと話しをしなかったくらいで…
…あ…でも一つあるかも…」
俺はちょっと思い出して言った。
「えっ…何?」
真古都は額を手で押さえながら訊く。
「昨夜…俺の事…大嫌いって言ったよな…」
俺はちょっとだけ面白くなくて言った。
「あれは…
言葉のあや…と云うか…はずみで…」
真古都も思い出して慌てている。
「訂正しろよ」
俺は顔を近づけて迫った。
「ご…ごめんなさい…訂正します……」
彼女の困り顔は可愛い。
「ま…まあ 許してやるけど…」
俺は仕方なさそうに言う。
「あ…ありがとう!
良かった 瀬戸くん大好き」
そう言って笑う真古都に、
心臓が跳ねて落ち着かないのは俺の方だ…
『あーっ
俺もう死んでもいい!』
単純なのは寧ろ俺の方かもしれない…
「ま…まぁな
お前が泣けるのは俺の腕の中だけだしな……
たまには貸してやるよ」
「その言葉だけで十分心強いよ」
真古都がいつもの笑顔を俺に向ける。
俺の腕の中で
コイツが安心して泣けるなら
この場所は誰にも譲りたくない…
自惚れだと言われてもいい…
この笑顔を守るためなら
コイツの涙を支えるのは
俺の腕の中だけだ!
あんなクズのために傷ついても、
それでも一途に思いを寄せているアイツが
なんだか痛々しくて…
何かしてやりたくて…
だから側にいるのが当たり前だった…
ずっとこのまま側にいられたらそれで良かった。
霧嶋がアイツを好きになって、
初めてアイツへの気持ちを自覚した…
でも…今は…
霧嶋に言われるまでもない。
今すぐアイツのところへ行って、
思いきり抱きしめて
キス出来たらどれ程良いか…
どうしようもなく好きで、
頭の中はいつだってアイツのことばかりで…
頭がおかしくなりそうだ……
「くそっ!」
頭の中をしめるアイツへの想いが、
自分ではどうすることも出来なくて
俺は外の空気を吸いに部屋を出た。
『霧嶋の所為で全然眠れ…あれっ?』
一階に降りて玄関に向かうと外に出ていく真古都を目にする。
『こんな時間にどこ行くんだ?』
何となく、様子をみようと直ぐに声をかけなかった。
真古都は玄関の側にあるベンチへ腰掛けると、
暫くじっと座って下を向いていた。
ところがそのうち辛そうな顔になり
両手で頭を抱え始めた。
俺はもう見ていられなくなり声をかけた。
「真古都?」
「せっ…瀬戸くん? どうして……」
誰もいないと思っていたところへ
急に声をかけられビックリして俺を見る。
今にも泣きそうな顔だ。
「な…何でもない…ちょっと眠れなくて…
ごめん…おやすみなさい」
真古都は立ち上がると宿舎の方へ躰を向けた。
俺は帰ろうとする彼女の腕を掴み引き止めた。
「な…なに…」
「いや…俺もちょっと眠れなくて…」
心なしか真古都が俺の手から離れようとしている…
俺は彼女を今離したらいけない気がした。
「少し歩くか?」
彼女の顔を覗き込むようにして訊くと、
コクコクと躊躇いがちに頷いた。
俺は彼女の手を離されないよう
強く握り歩き出した。
心臓が五月蝿く鳴り響き
握った手が汗ばんできたが
絶対離したくなかった。
「真古都…
ここまで来たら大丈夫だ
多分誰も来ない
二人きりだ…泣いていいぞ」
「瀬戸くんの…意地悪…」
真古都は躰を離そうとするが、
俺が離さなかった。
「瀬戸くんのバカァ!
瀬戸くんなんて大っ嫌い!」
そう言って真古都は俺の胸に顔を埋めると声をあげて泣き出した。
『はいはい……
俺は大好きだけどね…』
俺の胸で、肩を震わせて泣く真古都に、
愛しい気持ちがとまらなかった。
「落ち着いたか?」
「うん」
真古都は浴衣の袖で、鼻の下を気にしている。
「涙と鼻水で酷い顔だな」
「仕方ないじゃない!
泣けって言ったの瀬戸くんでしょ!」
真古都に回した腕はそのままだったが、
彼女の方も先程の離れようとする感じは
もう無かった。
「じゃあ責任取らないとな…」
「な…何するの」
俺はまだ涙が乾いて無いところを
自分の唇を近づけて拭った。
「悪い……泣けって言った割に…
俺、ハンカチ持って無いんだわ…
今はこれで勘弁しろよ」
「だ…だからって普通舐めないでしよ…」
それでも
俺が涙を拭い終わるまで、
真古都は俺の腕の中で
じっと目を閉じて待っていた。
次の日、
俺は頭がボーッとして何も手につかなかった。
昨夜…ドサクサに紛れてとんでもない事をした。
アイツは気がつかなかったみたいだが、
反対側の頬に移る時彼女の唇にそっと触れた。
真古都の唇…柔らかかった…
ダメだ…
昨夜の事が頭から離れない…
俺は罪悪感で真古都の顔がまともに見れない…
真古都が話しかけようとしているのに
プイッとそっぽを向いてしまう。
『くそっ!
今なら霧嶋がアイツとキスしたがる気持ちが判る…』
俺の態度に真古都の方が困惑している。
「瀬戸くん どうしたんだろ…」
「さあ…」
『今更意識しちゃって 何やってるんだか…』
霧嶋が呆れ顔で俺を見ている。
「あ…あの 瀬戸くん」
思い余ったのか、真古都が話しかけてくる。
「わたし…
瀬戸くんを怒らせるような事した?
ほ…ほら わたし鈍いところあるから……
知らないうち瀬戸くん不快にしたかもって…」
真古都が申し訳なさそうに話す。
「もし…不快にさせたんなら……
その…申し訳なくて……」
気まずくて避けてたのは俺の方なのに…
真古都の額を中指で弾く
「痛っ!」
「何 変な気を遣ってるんだ…
俺がちょっと話しをしなかったくらいで…
…あ…でも一つあるかも…」
俺はちょっと思い出して言った。
「えっ…何?」
真古都は額を手で押さえながら訊く。
「昨夜…俺の事…大嫌いって言ったよな…」
俺はちょっとだけ面白くなくて言った。
「あれは…
言葉のあや…と云うか…はずみで…」
真古都も思い出して慌てている。
「訂正しろよ」
俺は顔を近づけて迫った。
「ご…ごめんなさい…訂正します……」
彼女の困り顔は可愛い。
「ま…まあ 許してやるけど…」
俺は仕方なさそうに言う。
「あ…ありがとう!
良かった 瀬戸くん大好き」
そう言って笑う真古都に、
心臓が跳ねて落ち着かないのは俺の方だ…
『あーっ
俺もう死んでもいい!』
単純なのは寧ろ俺の方かもしれない…
「ま…まぁな
お前が泣けるのは俺の腕の中だけだしな……
たまには貸してやるよ」
「その言葉だけで十分心強いよ」
真古都がいつもの笑顔を俺に向ける。
俺の腕の中で
コイツが安心して泣けるなら
この場所は誰にも譲りたくない…
自惚れだと言われてもいい…
この笑顔を守るためなら
コイツの涙を支えるのは
俺の腕の中だけだ!
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