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#37 本当の気持ち 後編

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 「イケメンと付き合いたい訳じゃないって知ったら、アイツがっかりするな顔しか取り柄無いんだから」
「そんな事ないよ、一緒に買い物行った時優しかったもの」

自分の知らない出来事に俺は動揺する。

「か…買い物?いつ?何かあった?」
「うーん昨日、途中で知り合いの女の子に会って、それを随分気にしてるみたいで、夕食奢ってもらったかな…あと、
帰り際頰にキスしてくれたわよ」

『頰にキス?』
俺は心臓をえぐられたように苦しくなる。
やっぱり本気で口説きにいってるのか?

くそっ!
なんでこんなに苛つくんだ!

「おい、それでも付き合う気はないんだな!」
俺は三ツ木の腕を思い切り掴み、思わず声を荒げてしまう。
「無いって言ってるでしよ!痛いってば!」
掴まれた腕の痛みに、三ツ木の声も大きくなる。

「わ…悪い…ちょっとびっくりして…」
「もう酷いな…大体わたしが誰と付き合っても、瀬戸くんには関係ないでしょ」
ちょっと不貞腐れただけだったのかもしれないが、三ツ木の言葉に俺はキレた。

「か…関係ないだと‼ふざけるな!」
何故こんなに腹が立ったのか自分でも判らない。
「今まで散々あのクズの為に厭な思いをしてきたのを忘れたのか⁉もう少し自分を大事にしろ‼」
「ごめんなさいっ」
あまりのキレように、三ツ木もびっくりして謝ってきた。



裏庭で、俺の前に女の子が立っている。
「あ…あの…部活紹介でみかけてからずっと好きでした」
色が白くて、瞳が大きく、制服の上からでもはっきり判るほどスタイルも良い…
「先輩まだ彼女いませんよね?試しでも良いのでわたしと付き合ってください!」


目の前で告白を受けてるのに、まるで映画のワンシーンを観てるみたいに冷静な自分がいる。

「部活紹介の時カッコ良いなって…
去年、ケガした女子の為に自分の体操着犠牲にした話聞いてキュンとしちゃいました」
彼女の告白を受けながら、頭の中ではまるで別のことが浮かんでくる…

好きになる切っ掛けなんて、大概は他愛もない事だ…
俺を好きな理由…
アイツだったら…何と言ってくれるだろう?

《瀬戸くんは寡黙だけど、謹厳実直でいい人だよ…》
《ちゃんと相手を見て、気遣える優しさって素敵だね》

なんでアイツのことばかり浮かぶんだ?

「今は何とも思って無くても、付き合ってるうち好きになってもらえるかもしれないし」
彼女が色々言ってるが真面に訊いていない。

アイツに傷ついて欲しくなくて…
いつも一緒にいるのが当たり前だと思ってた…
辻宮先輩にも渡したくなかった…
アイツを支えるのはいつだって俺なんだ…
これからだって…
アイツを支えるのは霧嶋じゃない…
他の男でもダメだ…

「付き合ってる間は、キスとか、色々OKですから、お願いします」
さっきからベラベラと五月蠅い女だ!

頭の中は三ツ木のことばかりだ…
そうか…
俺…アイツが好きなんだ…
どれだけ一緒にいたと思ってるんだ?
今頃気づくなんてすげぇ間抜けだな…

こんな自慢出来る程可愛い女の子から
告白されてるのに
アイツの為に断わるなんて
バカじゃねぇの俺…

「君みたいに可愛い子からそこまで言われて、断わる男なんていないな」
「それじゃあ…」

「でも…悪いな
どうしようもなく好きなヤツがいるんだよ だから君とは付き合えない!」

彼女の告白を断わって、俺はそのまま部室に戻ってきた。
ここ何日かのモヤモヤが一気に晴れた。
部室に来たのは、今一番逢いたいヤツがいるからだ。

「あれ?瀬戸くん、今日部活休みなのにどうしたの?」
泥塗れの三ツ木がいる。

『なんだ?
コイツまた園芸部の手伝いかよ!
小汚く汚れやがって…一応女の子だろっ』
造形はともかく、同じ女の子とはとても思えん!

「お前、顔にまで土が付いてるぞ!
こっち向け拭いてやるから!」
俺は三ツ木の傍まで行くと、顔を掴んで拭き始めた。
「な…何⁉」
「はあーっ!全く手を焼かせやがって!
俺がいなきゃダメダメじゃん」
「そりゃどーも」

「ほらっ真古都、さっさと着替えてこい!家まで送ってやる。こんな時間までいやがって…」
俺は手で追い払うように促した。
「はい…えっ?」
真古都の足が止まる。
「何⁉」
「いや…あの…名前、なんで呼びすて?」
真古都が不思議そうに訊き返す。

「俺が呼びすてにして、何か不都合な事があるのか?」
「な…無いです」
「だったらさっさと着替えてこい!」
「はい」

『名字も呼びすてなんだから、名前も呼びすてで十分だ!』
『な…なんか機嫌悪いな…今日はどうしちゃったんだろう…』

不機嫌そうに見える俺を真古都は困惑気味だが、俺の方は気持ちがスッキリしている。
五里霧中だった今までと違い、あやふやだった二人の関係にケリをつけられる。

真古都を送る電車の中で、俺の前に立つコイツが愛しくて思わず顔に触れてしまう。
「まっ…まだ土が付いてるぞ」
慌てて俺は、何も付いていない彼女の頰を親指でゆっくりなぞっていく。
「ありがと」
真古都は、何の疑いもなく俺の手に顔を預けてくれる。

ダメだ…
好きだって自覚しちまったら
もうどうしようもない
気持ちが止まらない
コイツ以外
どんな女も眼中に入らない…

電車が揺れて彼女がよろけたのを、俺は自分の胸に受け止める。
「危ないな」
「ご…ごめん」

「ほれっ、掴まってろ!」
差し出した腕に、真古都は自分の腕を絡ませた。
「本当にごめん…恥ずい…」
なんて鈍臭いヤツ…

『おいっ!コイツどれだけ鈍感なんだ⁉
掴まれとは言ったが、そんなにくっついたら胸が腕に当たるだろっ‼』
『瀬戸くん、なんで今日はあんなに機嫌悪かったんだろう…』

「胸、当たってるよ。触って欲しいの?」
声をかけるタイミングがみつからず、電車を降りる時そっと囁いた。
その言葉に漸く気付き顔を真っ赤にさせている。

今更だけど…
俺、
とんでもないヤツを
好きになったのかも…
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