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#32 新たなる思い 後編
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「瀬戸くん大丈夫?」
三ツ木が心配そうな顔で覗きこむ。
片手にハンカチを握っている。
よく、汗をかいてる男子に女子が拭いてくれるシーンとかあるけど、そんな真似コイツには出来ないよな。
「何?そのハンカチで拭いてくれんの?」
俺はわざと三ツ木に顔を近づける。
途端にコイツの顔が赤く染まる。
俺の一言一言に、コロコロと変わる表情が嬉しくて、つい困らせたくなる。
案の定、次の言葉に困っておろおろしてる。
三ツ木のこんな顔を知ってるのは俺だけで十分だ。
「瀬戸くんのいじわる!貸すだけ、そのままだと風邪引くから」
「そりゃどーも」
おれは少し不貞腐れた三ツ木からハンカチを受け取ると顔の汗を拭った。
「そんなに走って来なくても良かったのに…でも来てくれて嬉しい」
そっぽを向いて話す三ツ木の頭を軽く撫でる。
「ほらっ!さっさと帰るぞ、お前足遅いんだから!」
俺は荷物を持って先に歩き出した。
『くそっ!メチャクチャ嬉しい…』
文化祭は二日間あり、一般公開の日は家族や友人などたくさんの人が来る。
「なんで親父がいるんだよ!露月さんまで!」
予想外のことに呆れた。
「まあ、一応親として息子の学校がどんなところか見たくてな」
「ったく!過保護過ぎだろ!」
「えっ?社長、文化祭行くんですか?」
「ああ、二時間くらいなら何とかなりそうなんで、ちょっと見てこようかと…」
「まあ、夏休みの一件もありますからね…」
悪評の絶えない美術部に入る時、あまり酷いようなら帰宅部になると言っていたが、結局まだ部活は続けている。
少しの時間でも、実際に見てみようと思うのが親心だ。
「イベント続きで忙しいんだから無理するなよ」
俺は校舎の外まで二人を送りながら言った。
「ああ、何とかやってるようで安心したよ」
「…あっ、悪い!親父、露月さんも気をつけて!」
いきなり走り出した息子を目で追うと、その先に大きなゴミ袋を持って歩く女生徒がいる。
「何やってるんだ、こんな大きな袋二つも持って!」
「今日は人が多いから、今のうちに一回捨てとこうと思って…」
「今そこで転んだよな?出来ないことするなよ」
「ごめんなさい」
「かせよ!ったく、お前は!」
「露月くん、今の…本当に翔吾か?」
女生徒から引ったくるように袋を取り、ゴミ捨て場に向かう息子を見た父親は、それが信じられないような顔だ。
「まあ、翔吾くんも年頃ってことですかね…」
一緒に目撃した露月も答えに困った。
「だからって信じられるか?あの翔吾が女の子の荷物を持ってやったんだぞ?」
「そうですね。言葉づかいと態度は最悪でしたけど…」
父親は、また違う心配を抱えて帰る羽目になってしまった。
次の日は校内の生徒だけだから、昨日ほど忙しくはない。
トイレを出る時辻宮先輩に出会した。
「おい、一年」
辻宮先輩が声をかけてくる。
「これやるよ」
先輩がチラシを一枚くれる。
「ウチのクラス喫茶店をやるみたいだから、お前も後で三ツ木誘って来いよ」
「はあ、ありがとうございます」
三ツ木のクラスはグレープを出店してる。
女子が男子の目を引くような、揃いのエプロンドレスを着て売り子をしていた。
「瀬戸くんも一つどう?」
小間澤由布穂だ。
「甘いのは苦手なんで結構」
俺は即座に断った。
裏手に回ると、三ツ木が中で作業している。
首にタオルを巻いて必死でグレープを作ってる。
「よう」
俺は声をかける。
「瀬戸くん、休憩時間?」
「いや、辻宮先輩が自分のクラスで喫茶店やるから来いって。お前、休憩時間何時からだ?」
「わたし一番最後だから15時だけど」
三ツ木が申し訳なさそうな顔をする。
「大丈夫だ」
いつものように頭を撫でてやると、恥ずかしげに含羞んでいる。
「ところで…それ何だ?」
クレープ生地を焼く鉄板の横に、山盛りになった残骸がある。
「あ…焼くの失敗しちゃって…さっきから少しづつ食べてるんだけど…中々減らなくて」
「ったく!その量はお前に無理だろう?俺食ってやるから袋に入れろ」
「おっ、瀬戸、用はもう良いのか?」
「ああ、悪かったな。その代わり15時迄俺が店番やるから」
俺はスタッフ用のテーブルに着くと、お茶を入れ三ツ木から貰ったクレープを出した。
「何だよそれ」
「えっ?クレープだよ。作り損なったヤツを貰ったんだ」
「ホントだ!ひっでぇ形」
言ったそばからバクバク食べ始めた。
「形は悪いがイケるな」
『当たり前だ!三ツ木が作ったんだぞ!不味い訳無いだろ!』
三ツ木は生地だけでは申し訳ないと、少しずつ具を入れてくれたんだ。
結局、三ツ木がくれたクレープはその場にいた男どもの腹に収まってしまった。
休憩時間になり、辻宮先輩のクラスの受付を済ませ中に入る。
パ~ン!
パ~ン!
パ~ン!
立て続けに鳴るクラッカーの音に何事かと思う。
三ツ木は俺の腕にしがみつき、躰ごとぴったりとくっついてきた。
「おめでとうございま~す!」
俺たちは丁度100組目のカップルだとかで、大きな金魚鉢パフェを振る舞われ写真まで撮られた。
そろそろ後夜祭が始まる。
三ツ木のところへ行くと、一人で片付けをしている。
「なんた他の奴ら、後片付け押し付けて!」
「もう終わりだから大丈夫。みんな後夜祭楽しみにしてたから」
「焼きそば買ってきたから!お前殆ど飯食って無いだろ」
俺と三ツ木は裏庭のベンチに腰かけて食べる。
「瀬戸くんが買ってくれる焼きそばはいつも美味しいね」
『焼きそばなんて誰が買っても同じ味だろ!』
……いつも?
購買部には学食のパンや飲み物もあり、毎週水曜日には手作りの惣菜パンも並ぶ。
あのたくさんの生徒でごった返す中を、三ツ木が買えるわけがない。
「今日は弁当交換しろよ」
買ってきたと、何となく言えずにそんな渡し方をしたが、三ツ木は美味しそうに食ってた。
その顔が見たくて、水曜日は学食のパンを買いに行く。
瀬戸くんは水曜日になると、決まってお弁当を交換しようと言ってくる。
わたしが焼きそば好きだから…
瀬戸くんが買ってくれるのが嬉しくて、水曜日のお弁当作りに気合が入る。
焼きそばを食べ終わると、溜まっていた疲れが出たのか俺の横でうとうと居眠りし始めた。
前屈みになり落ちそうだったので、肩を掴んで抱き寄せる。
三ツ木は俺の胸の中で寝息をたてている。
俺と三ツ木の二人だけの時間。
抱き寄せた三ツ木の躰が凄く華奢で、今更ながら辻宮先輩の手に渡らなかった事を安堵する。
「誰にも渡さないから」
眠っている三ツ木の顔を見ていたら、ついそんな言葉が出てしまった。
三ツ木が心配そうな顔で覗きこむ。
片手にハンカチを握っている。
よく、汗をかいてる男子に女子が拭いてくれるシーンとかあるけど、そんな真似コイツには出来ないよな。
「何?そのハンカチで拭いてくれんの?」
俺はわざと三ツ木に顔を近づける。
途端にコイツの顔が赤く染まる。
俺の一言一言に、コロコロと変わる表情が嬉しくて、つい困らせたくなる。
案の定、次の言葉に困っておろおろしてる。
三ツ木のこんな顔を知ってるのは俺だけで十分だ。
「瀬戸くんのいじわる!貸すだけ、そのままだと風邪引くから」
「そりゃどーも」
おれは少し不貞腐れた三ツ木からハンカチを受け取ると顔の汗を拭った。
「そんなに走って来なくても良かったのに…でも来てくれて嬉しい」
そっぽを向いて話す三ツ木の頭を軽く撫でる。
「ほらっ!さっさと帰るぞ、お前足遅いんだから!」
俺は荷物を持って先に歩き出した。
『くそっ!メチャクチャ嬉しい…』
文化祭は二日間あり、一般公開の日は家族や友人などたくさんの人が来る。
「なんで親父がいるんだよ!露月さんまで!」
予想外のことに呆れた。
「まあ、一応親として息子の学校がどんなところか見たくてな」
「ったく!過保護過ぎだろ!」
「えっ?社長、文化祭行くんですか?」
「ああ、二時間くらいなら何とかなりそうなんで、ちょっと見てこようかと…」
「まあ、夏休みの一件もありますからね…」
悪評の絶えない美術部に入る時、あまり酷いようなら帰宅部になると言っていたが、結局まだ部活は続けている。
少しの時間でも、実際に見てみようと思うのが親心だ。
「イベント続きで忙しいんだから無理するなよ」
俺は校舎の外まで二人を送りながら言った。
「ああ、何とかやってるようで安心したよ」
「…あっ、悪い!親父、露月さんも気をつけて!」
いきなり走り出した息子を目で追うと、その先に大きなゴミ袋を持って歩く女生徒がいる。
「何やってるんだ、こんな大きな袋二つも持って!」
「今日は人が多いから、今のうちに一回捨てとこうと思って…」
「今そこで転んだよな?出来ないことするなよ」
「ごめんなさい」
「かせよ!ったく、お前は!」
「露月くん、今の…本当に翔吾か?」
女生徒から引ったくるように袋を取り、ゴミ捨て場に向かう息子を見た父親は、それが信じられないような顔だ。
「まあ、翔吾くんも年頃ってことですかね…」
一緒に目撃した露月も答えに困った。
「だからって信じられるか?あの翔吾が女の子の荷物を持ってやったんだぞ?」
「そうですね。言葉づかいと態度は最悪でしたけど…」
父親は、また違う心配を抱えて帰る羽目になってしまった。
次の日は校内の生徒だけだから、昨日ほど忙しくはない。
トイレを出る時辻宮先輩に出会した。
「おい、一年」
辻宮先輩が声をかけてくる。
「これやるよ」
先輩がチラシを一枚くれる。
「ウチのクラス喫茶店をやるみたいだから、お前も後で三ツ木誘って来いよ」
「はあ、ありがとうございます」
三ツ木のクラスはグレープを出店してる。
女子が男子の目を引くような、揃いのエプロンドレスを着て売り子をしていた。
「瀬戸くんも一つどう?」
小間澤由布穂だ。
「甘いのは苦手なんで結構」
俺は即座に断った。
裏手に回ると、三ツ木が中で作業している。
首にタオルを巻いて必死でグレープを作ってる。
「よう」
俺は声をかける。
「瀬戸くん、休憩時間?」
「いや、辻宮先輩が自分のクラスで喫茶店やるから来いって。お前、休憩時間何時からだ?」
「わたし一番最後だから15時だけど」
三ツ木が申し訳なさそうな顔をする。
「大丈夫だ」
いつものように頭を撫でてやると、恥ずかしげに含羞んでいる。
「ところで…それ何だ?」
クレープ生地を焼く鉄板の横に、山盛りになった残骸がある。
「あ…焼くの失敗しちゃって…さっきから少しづつ食べてるんだけど…中々減らなくて」
「ったく!その量はお前に無理だろう?俺食ってやるから袋に入れろ」
「おっ、瀬戸、用はもう良いのか?」
「ああ、悪かったな。その代わり15時迄俺が店番やるから」
俺はスタッフ用のテーブルに着くと、お茶を入れ三ツ木から貰ったクレープを出した。
「何だよそれ」
「えっ?クレープだよ。作り損なったヤツを貰ったんだ」
「ホントだ!ひっでぇ形」
言ったそばからバクバク食べ始めた。
「形は悪いがイケるな」
『当たり前だ!三ツ木が作ったんだぞ!不味い訳無いだろ!』
三ツ木は生地だけでは申し訳ないと、少しずつ具を入れてくれたんだ。
結局、三ツ木がくれたクレープはその場にいた男どもの腹に収まってしまった。
休憩時間になり、辻宮先輩のクラスの受付を済ませ中に入る。
パ~ン!
パ~ン!
パ~ン!
立て続けに鳴るクラッカーの音に何事かと思う。
三ツ木は俺の腕にしがみつき、躰ごとぴったりとくっついてきた。
「おめでとうございま~す!」
俺たちは丁度100組目のカップルだとかで、大きな金魚鉢パフェを振る舞われ写真まで撮られた。
そろそろ後夜祭が始まる。
三ツ木のところへ行くと、一人で片付けをしている。
「なんた他の奴ら、後片付け押し付けて!」
「もう終わりだから大丈夫。みんな後夜祭楽しみにしてたから」
「焼きそば買ってきたから!お前殆ど飯食って無いだろ」
俺と三ツ木は裏庭のベンチに腰かけて食べる。
「瀬戸くんが買ってくれる焼きそばはいつも美味しいね」
『焼きそばなんて誰が買っても同じ味だろ!』
……いつも?
購買部には学食のパンや飲み物もあり、毎週水曜日には手作りの惣菜パンも並ぶ。
あのたくさんの生徒でごった返す中を、三ツ木が買えるわけがない。
「今日は弁当交換しろよ」
買ってきたと、何となく言えずにそんな渡し方をしたが、三ツ木は美味しそうに食ってた。
その顔が見たくて、水曜日は学食のパンを買いに行く。
瀬戸くんは水曜日になると、決まってお弁当を交換しようと言ってくる。
わたしが焼きそば好きだから…
瀬戸くんが買ってくれるのが嬉しくて、水曜日のお弁当作りに気合が入る。
焼きそばを食べ終わると、溜まっていた疲れが出たのか俺の横でうとうと居眠りし始めた。
前屈みになり落ちそうだったので、肩を掴んで抱き寄せる。
三ツ木は俺の胸の中で寝息をたてている。
俺と三ツ木の二人だけの時間。
抱き寄せた三ツ木の躰が凄く華奢で、今更ながら辻宮先輩の手に渡らなかった事を安堵する。
「誰にも渡さないから」
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