君の為に出来る事ー君に伝えたかった言葉と伝えられなかった事ー

＃26 クラスいちの美少女

　放課後になると、わたしは鞄に教科書を詰め始めた。
今日は掃除当番も無いからそのまま帰れる。

「三ツ木さん」

帰り支度をしているわたしにクラスメイトが声をかけてきた。
単語小間沢由布穂こまざわゆうほだった。
彼女はクラスでも女子の中心的存在で、わたしが近寄れる様な相手ではない。
当然今まで一度も話を交わしたことすらない。

近づいてきた彼女は、わたしの前の席に座り椅子ごと躰をわたしの方に向けた。

「三ツ木さんが入院してる間、わたしが瀬戸くんに、クラスとの仲介をしてたんだよ」

大きな瞳でわたしを見つめて言った。
それだけで底辺なわたしはどぎまぎしてしまう。

「そうだったんですね。ありがとうございます」

わたしは座っている机越しに頭を下げた。

「三ツ木さんに、A組の知り合いがいるなんて知らなかったよ」

彼女はわたしの机に頬杖をつくと、上目遣いで話しかけてくる。

「せ…瀬戸くんは部活が一緒で…」

何故いきなりわたしなんかに話しかけてきたのか判らず、どうしていいのか困ってしまった。

そんなわたしに構わず、彼女は女子の間では今何が単語流行はやっているとか、どこのカフェが美味しいとか、取り留めのない話を始めた。

『一体何がしたいの？』

大きな瞳で愛くるしい彼女は、クラスの女子カースト一位だ。
そんな彼女にとって、わたしはいてもいないものとして扱われてきた。
それなのに、急にわたしに話しかけてくるなんてどう云うつもりなんだろう。

「あ…あの…」

わたしはいたたまれず、立ち上がろうとした時「瀬戸くんて、いつもあんなに無愛想なの？」彼女が瀬戸くんの話題を振ってきた。

「えっ？　瀬戸くん？」

「三ツ木さんが入院してる時、プリント届けたり、連絡事項を伝えたり、毎日行ってるのにさぁ、言葉数は少ないし、いっつも眉間に皺を寄せて怒ってるみたいだしさぁ」

彼女は自分の人差し指を眉間に当てて、口を尖らせて話している。
その仕草が実に可愛らしい。
さすがカースト一位の女子、何をやっても様になる。

「せ…瀬戸くんは寡黙で思慮深い人だからそう見えるだけで、本当は凄く聡明な人なんです」

わたしは自分が思っている事を彼女に伝えた。

「ふーん、ところで彼、彼女いるの？」

突然の質問にわたしは慌てた。

「そう云う、プライベートな話しはした事有りませんので判りかねます…」

彼女は不満そうにわたしを見ているけど、瀬戸くんに彼女がいるかどうかなんて本当に知らないもの…

「三ツ木さんはどうなの？部活でいつも一緒にいるし、入院中も毎日病室に来てもらってたんでしょ？」

彼女が顔を近づけて訊いてくる。

「あ…生憎ですが、わたしには片想いですが想い人がおりますし、その事は瀬戸くんも知っています」

わたしは彼女に圧倒されてしまい、つい片想い中なのを喋ってしまった。

「三ツ木さんの好きな人って…」

「わ…わたしこの後、用があるのでこれで失礼します！」

わたしは小間沢さんに好きな人の名前を訊かれると困るので、深々と頭を下げ、一目散にその場を後にした。

何て事だ！選りに選って、あの小間沢由布穂に好きな人がいることを暴露してしまうなんて！

彼女のことだ、明日にはクラス中に言い触らすに決まっている！

わたしはまた、身の程知らずだとクラス中から嘲笑されるんだ！

わたしは少しでも早く教室から離れたかったので、小走りで別棟にある多目的教室へ急いだ。
目的の教室の側につく頃には、可成り息が上がっていて苦しかった。

『バ…バカみたい、こんなに走って…明日になったらクラス中に噂が広まってるのは変わらないのに…』

わたしは自分に呆れた。