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#24 期末試験
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一年C組の教室がざわついているのはいつもの事だった。
仲の良い者同士集まりホームルームが始まるまで話し声が絶えない。
そんな教室の中に、女の子が入って来る。三ツ木真古都だ。
三週間前、二階から落ちてきた鉢植えでケガをし入院していたが、今日から登校してきた。
彼女が教室に入ると空気が変わる。
興味本位の好奇心に満ちた視線が彼女に纏わりつく。
《あの眼帯の下、どうなってるのかな?》
《可成り酷いケガだって訊いたけど?》
《どんだけ酷いキズか見てみたいよな》
《悪趣味だね》
三ツ木真古都が自分の席に着き、深く心を占めたのは、教室のあちこちから聞こえる嘲笑する声や視線にではなく別の事だった。
『瀬戸くん、わたしまだ眼帯外す勇気ないよ』
彼女は窓の外に目を向け、退院の前日、病院での出来事を思い出す。
診察の後、病室で鏡を見て自分のキズを確認する。
「やっぱり残っちゃったな…」
何度見ても溜息しか出てこない。
その時ドアを
ノックする音が聞こえ、人が入って来る。
「三ツ木、明日退院だろ?おめでとう」
同じ部活で同学年の瀬戸翔吾だ。
「瀬戸くん、ありがとう」
そうは言ったものの、顔に残った傷痕を考えたら素直には喜べなかった。
「三ツ木、お前いつから学校に来るんだ?」
彼女の暗い気持ちなどお構い無しに訊いてきた。
「え…来週から…」
「そうか…」
何か考え込んでいる彼を見て、『退院したからって、直ぐに学校に行けないよっ!』と、心の中で文句を言った。
「じゃあ登校日の放課後から始めよう」
意味不明な提案に首を傾げる。
「何を?」
「何をって、期末の勉強だよっ!
登校日の翌週には期末が始まるんだぞ。時間が無いから効率的にやるからな。
赤点は取りたくないだろ?」
A組の彼と違って、今更自分がどれだけ頑張ろうと、赤点を免れるとは思えない。
「瀬戸くん、今回は仕方ないよ。
後で補習と追試を受けるから心配しないで」
当たり前のように言う彼女に向かって、彼は目を吊り上げ激髙する言葉を浴びせかけてきた。
「仕方ない?何だよその投げやりな態度は!お前まだ何もして無いだろうが!
何もしてないうちから結果を決めつけて努力もせずに諦めるってどう云う事だよっ!仕方ないって云うのはな、出来る事は全てやり尽くして、それでもどうにもならない時使う言葉なんだよ!」
普段でも目つきの鋭い彼が、それに輪を掛けて強い眼差しを向ける。
「いいか?お前は登校日までとにかく今までの復習をしろ!
試験対策は俺がする!」
こんなに彼を怒らせたのは、初めて会話をした時以来だった。
そのため、反射的に謝ったものの、次の言葉が出なかった。
「何黙ってるんだよっ、返事は!?」
「はいっ!」
彼の勢いに思わず返事をする。
「…ったく、相変わらず手のかかるヤツだ。俺は準備もあるからもう帰るわ」
「う…うん」
彼はドアの前まで来ると、もう一度彼女の方に顔を向けた。
「いいな、さぼるなよ!」
念を押すように低い声が投げ掛けられる。いつにも増して重みと迫力がある。
「それと、そんなキズが有ろうと無かろうと、お前自身の価値は何も変わらないから、そのボンクラ頭によく叩きこんどけ!」
かれが帰った後も暫く動けなかった。
『せ…瀬戸くん…怒ると怖い…』
仲の良い者同士集まりホームルームが始まるまで話し声が絶えない。
そんな教室の中に、女の子が入って来る。三ツ木真古都だ。
三週間前、二階から落ちてきた鉢植えでケガをし入院していたが、今日から登校してきた。
彼女が教室に入ると空気が変わる。
興味本位の好奇心に満ちた視線が彼女に纏わりつく。
《あの眼帯の下、どうなってるのかな?》
《可成り酷いケガだって訊いたけど?》
《どんだけ酷いキズか見てみたいよな》
《悪趣味だね》
三ツ木真古都が自分の席に着き、深く心を占めたのは、教室のあちこちから聞こえる嘲笑する声や視線にではなく別の事だった。
『瀬戸くん、わたしまだ眼帯外す勇気ないよ』
彼女は窓の外に目を向け、退院の前日、病院での出来事を思い出す。
診察の後、病室で鏡を見て自分のキズを確認する。
「やっぱり残っちゃったな…」
何度見ても溜息しか出てこない。
その時ドアを
ノックする音が聞こえ、人が入って来る。
「三ツ木、明日退院だろ?おめでとう」
同じ部活で同学年の瀬戸翔吾だ。
「瀬戸くん、ありがとう」
そうは言ったものの、顔に残った傷痕を考えたら素直には喜べなかった。
「三ツ木、お前いつから学校に来るんだ?」
彼女の暗い気持ちなどお構い無しに訊いてきた。
「え…来週から…」
「そうか…」
何か考え込んでいる彼を見て、『退院したからって、直ぐに学校に行けないよっ!』と、心の中で文句を言った。
「じゃあ登校日の放課後から始めよう」
意味不明な提案に首を傾げる。
「何を?」
「何をって、期末の勉強だよっ!
登校日の翌週には期末が始まるんだぞ。時間が無いから効率的にやるからな。
赤点は取りたくないだろ?」
A組の彼と違って、今更自分がどれだけ頑張ろうと、赤点を免れるとは思えない。
「瀬戸くん、今回は仕方ないよ。
後で補習と追試を受けるから心配しないで」
当たり前のように言う彼女に向かって、彼は目を吊り上げ激髙する言葉を浴びせかけてきた。
「仕方ない?何だよその投げやりな態度は!お前まだ何もして無いだろうが!
何もしてないうちから結果を決めつけて努力もせずに諦めるってどう云う事だよっ!仕方ないって云うのはな、出来る事は全てやり尽くして、それでもどうにもならない時使う言葉なんだよ!」
普段でも目つきの鋭い彼が、それに輪を掛けて強い眼差しを向ける。
「いいか?お前は登校日までとにかく今までの復習をしろ!
試験対策は俺がする!」
こんなに彼を怒らせたのは、初めて会話をした時以来だった。
そのため、反射的に謝ったものの、次の言葉が出なかった。
「何黙ってるんだよっ、返事は!?」
「はいっ!」
彼の勢いに思わず返事をする。
「…ったく、相変わらず手のかかるヤツだ。俺は準備もあるからもう帰るわ」
「う…うん」
彼はドアの前まで来ると、もう一度彼女の方に顔を向けた。
「いいな、さぼるなよ!」
念を押すように低い声が投げ掛けられる。いつにも増して重みと迫力がある。
「それと、そんなキズが有ろうと無かろうと、お前自身の価値は何も変わらないから、そのボンクラ頭によく叩きこんどけ!」
かれが帰った後も暫く動けなかった。
『せ…瀬戸くん…怒ると怖い…』
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