上 下
16 / 100

#16 届かぬ思いと不測の災禍

しおりを挟む
 「おい、少しは嫌いになる努力はしてるのか?」
あれから暫く経った日の部活で、ぶっきら棒に俺は訊いた。

「じゃあ瀬戸くんは努力したらわたしみたいなブスを好きになれるの?」

「えっ?」
俺の質問に突拍子もない返事をされ、
躊躇していると

「でしょ?
人の気持ちなんて努力でなんとかなるもんじゃないんだよ。
強いて言うなら、月並みだけど時間が解決してくれるよ。きっと」

ヒトが折角心配してやってるのに、呆れたような顔で俺を見て言いやがった。
何だよ時間て…
それまでずっと、今のまま傷口を増やしていくのかよ…

こいつは他人ひとの言葉に傷つき、自分の殻に閉じ籠っていた、昔の俺に似ていると思っていたが違う、俺とは正反対だ。
俺は自分を守るために相手を拒絶する事を選んだが、アイツは拒絶される辛さを知っているからいつでも真摯に向き合おうとする。

『くそっ!』

こんな俺が一体どんな言葉をアイツにかけてやれるって云うんだ!
せめてこれ以上傷つかない様にしてやれないのか?


「ねぇ三ツ木さん」
部長の彼女である単語水島朱音みずしまあかねが珍しく三ツ木に声をかけてきた。
切れ長の目で気の強そうな顔だが確かに美人だ。
「三ツ木さんて、そんなに春樹のことが好きなの?」
少し小さめの口を尖らせて、不満そうな顔を三ツ木に向けている。

「えっ?いや…あの…」
突然の事で三ツ木も戸惑っている様子だ。
「春樹が三ツ木さんみたいな控えめな単語娘に靡くとは思わないけど、あんまりおもわせぶりな態度とかしないでよね」
腕を組み、上から目線で三ツ木に意見している。

「はいっ!すみませんっ」
三ツ木は何度も頭を下げ謝っている。
彼女がその場を離れても、後ろ姿に頭を下げていた。
彼氏の側にいる女を神経質になるのは判るが、いつも絡んでくるのはあの部長クズの方だ。
三ツ木が彼女からあんな言われ方をされる謂れはないし理不尽だろ!
俺は三ツ木のところへ駆け寄って声をかける。

「おい、三ツ木」
三ツ木は俺の方に顔を向けると、表情を一変させ単語戯たわけて笑い始めた。
「彼女さんに怒られちゃいました」
頭をさすって困り顔で笑っているが、彼女の後ろ姿を眺めていた時、あんなに切ない面持ちをしてたじゃないか!

「いい加減にしろよ!」
無理に笑って取り繕う三ツ木の態度に言いようの無い遣る瀬なさを感じ、つい大声になってしまった。

「あそこまで言われても、まだあいつの側にいたいのか?お前の一途な気持ちなんてあいつには重いだけなんだよ!!」
いつもいつもそうやって笑いやがって!
部長クズが向ける無神経な言葉が、剃刀の刃の様にお前を傷つけてる筈なのに、なんでそうやって笑っていられるんだよ!

俺はあんまりコイツがバカすぎて、自分の事でもないのに腹が立って仕方なかった。
「そろそろ潮時だろう?あんな男は見限って部活も辞めた方がいい。それこそ園芸部にでもいけばいいじゃないか」

怒りで興奮気味な俺とは反対に、三ツ木は辛そうな顔でこっちを窺っている。
「先輩の事とは関係なく、絵は好きだから部活は辞めたくない。これからは迷惑かけないよう気をつけるね」

ここまで言っても、尚考えるのは自分の事より俺の事なのかよ!
いくら自己評価が低くたって、自分を粗末に扱いすぎだろ!
今は何を言っても、きっとコイツには届かない。俺は晴れない気持ちのままそれ以上の言葉を飲み込んだ。



次の日の放課後
俺はクラスのやつらと一緒に校庭で球技大会の練習をしていた。
サッカーだって?
なんで俺がサッカーなんだよ…
団体競技は苦手だ…

俺はゴール前で試合の流れを見ていると、校舎下の花壇で植え替えをしている三ツ木が視界の端に映る。

『相変わらず園芸部の手伝いをしているのか』
まぁ、アイツにとってはいつもの事だから…と思ったのと同時に別の物が目に飛び込んできた。

「三ツ木あぶない!」

そう叫んだが間に合わない。
二階から落ちた鉢植えは途中でぶつかり割れたものの、その破片がアイツの頭の上に容赦なく降りかかった。
俺が彼女の側に駆け寄ると、散乱した破片と一緒に倒れ右側の額を押さえている。

「おい、大丈夫か!」
「痛い…」

押さえた手の間から血が流れ、地面に吸い込まれていく。

「三ツ木ごめん!」

俺は着ていた体操着を脱ぐと、押さえていた手を力ずくでどける。
血塗れの手を引き剥がすと、ザックリと割れた傷口から溢れるように次から次へと血が流れ出ていた。

俺は脱いだ体操着を傷口に押し当てた。

三ツ木の血が、彼女と俺を赤く汚していく。

不安と恐怖が俺を襲った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

処理中です...