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#15 見ている事しか出来ないもどかしさ

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 俺は三ツ木に言われた事が、頭から離れなかった。

〔誰だってブスより美人がいいに決まってる〕

確かにそうかもしれない。
社会に出れば価値観の幅も広がるだろうが、容姿の良さは何かにつけて有利なのはあきらかだ。
それが狭い学校生活と云う社会の中では可成上位のポジションに位置している。

〔瀬戸くんだって彼女は可愛い子の方がいいでしょ〕

そりゃあ俺だって男だし、彼女だって欲しい。理想の彼女像もある。
でもそんなの誰だってあるだろ?

だけど…

《瀬戸くんだって…》

あの言葉を訊いた時、人は見かけでは判らないと言っておきながら、

〔所詮お前だって、最後は顔なんだよ〕

そう自分の本性を見透かされたみたいな
感じだった。
俺はその後、心臓を握り潰されたかの様な重苦しさを、ずっと胸の奥に抱えたまま消えなかった。

部活ではあの部長クズが相変わらず三ツ木を振り回している。
やれ掃除をしろだの
やれお茶を入れろだの
挙げ句の果てには美術部を辞めて園芸部に行けとまでほざきやがった。

三ツ木のヤツもそれを律儀に
「はい」
「今入れます」
「すみません」
と、平身低頭に笑顔で応えている。
側で見ているこっちの方が腹が立ち、
三ツ木の態度に苛立たしさを感じる。
どう考えたって、そいつにそこまでしてやる価値なんて無い事に何故気付かない!

「じゃあ帰るから、後よろしく」
他の部員が皆帰ったにも拘わらず、部室の中で彼女とベタついていた部長クズが出てきて三ツ木に言った。

「はい」
アイツはまたも帰っていく部長クズに笑顔を向けて見送る。
一体今何時だと思ってるんだ!
下校時間はとうに過ぎてるんだぞ!
それを、女の子に後始末させて自分は帰るのか?

「おい」
後片付けしている三ツ木に俺は話しかけた。
「あっ、瀬戸くん、あとわたしがやっとくから帰ってね。遅くまでありがとう」

三ツ木は新入部員として、一緒に残っていた俺に労いの言葉をよこした上、先に帰ってもいいとまで言ってくれる。
どこまでお人好しなんだ!
女の子のお前を置いて、男の俺が先に帰れる筈無いだろうが!

「お前、あの先輩のどこが良くて好きな訳?あんなクズ」
俺は片付けを手伝いながら訊いた。

三ツ木は拭き掃除の手が止まり、少し寂しげな戸惑いの表情をする。
「中学の時は、あそこまでじゃなくて、もう少し優しかったんだよ」
変わってしまった相手に対し、まるで自分の方が悪いような表情かおで話す。

「だけど…変わったからってすぐには嫌いになれなくて…」
こいつバカじゃないのか!
そんなヤツはさっさと見限るべきだろう!
最低なヤツの為に自分が嫌な思いをする事なんてないんだ。

俺はこいつのバカさ加減に呆れた。
「お前はもう少し自分の事を考えた方がいいぞ」
こいつにかけられる言葉が、今の俺にはこれしか思いつかなかった。

部長クズは三ツ木を顎で使う。
はたから見ていて気の毒な程だ。

全く、三ツ木はお前の小間使いでも何でもないんだぞ!
一体何様のつもりなんだこの男は!

三ツ木が嫌いなら構わなければいいものを、彼女の気持ちを知った上で、それを盾に揶揄からかい、弄んでいるとしか思えない!

そんな男に
あいつはいつだって真っ直ぐな気持ちで応えようと努めている。
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