上 下
5 / 100

#5 一年A組 瀬戸翔吾 その2

しおりを挟む
 「三ツ木くんにも今の美術部がどれだけ酷い状況か話したんだけど、他人事みたいに取り合ってくれないんだよ」

《わたしみたいな不細工は、女の子としては見てもらえないですから、大丈夫ですよ》

そう言って笑っていたそうだ。

「そ…そりゃあ、お世辞にも可愛いとは言わないけど、彼女が自分で言う程悪くはないと思うんだよ。寧ろ、いつでも真摯な姿勢は好感が持てる。あんな子が、見す見す先輩達が手を出すと判ってて部に引き止められないよ」
二年の先輩は本当に悔しそうに話している。
「部に残りたい理由わけでもあるんですか?」
俺は何気なく訊いてみた。
「実は、部長と中学の部活で一緒だったから、また同じ部活でいたそうだよ。この学校に入ったのもその為みたい」

なんだそりゃ…憧れの先輩と部活も一緒って云うやつか?
なんて妙な事をするやつなんだ。
俺は半ば呆れて溜息が出た。

「部長も副部長も、一緒にいるのは彼女だから、そうそう直ぐには手を出して来ないと思うけど、もう一人の辻宮先輩は本当に見境がないから、いつ手を出されてもおかしくないんだ」
この先輩の話しぶりから察するに、本当に危ないのだろう。
「だから瀬戸くん、君からも言ってあげてくれないか?同じ一年の君が言った方が彼女も訊くかもしれないから」
先輩は、真剣な顔で俺に訴えてきた。

……おいおい、それ無理だろ。
先輩が言って訊かないのに、初めて会った俺が言っても訊くわけないじゃん。

所が、これ以上見て見ぬふりは出来ないと、先輩があまりにも熱心に頼むので、俺もつい断わりきれず了承してしまった。
『何やってんだかな俺…』
さっさと退部届を出して帰る筈だったのに。

準備室の前に来ると、また溜息が出てきた。
軽くノックすると、「はい」と女の子の声が聞こえる。
静かにドアを開けると、体操服で床に跪いている彼女と目があった。
薄暗い中、両膝をついて床を磨いている。
『こんな所で篭ってると、ホントにアナグマみたいだな』
俺がそんな事を考えていると、彼女の方が遠慮がちに声をかけてきた。
「あの、すみません。今片付け中で、何か捜し物なら言ってもらえたら代わりに取って来ますけど」
彼女はそう言って立ち上がると、近くに置いてあったタオルで手を拭いている。

俺は話をする為に近づいた。
彼女の方では、明らかに困った様な顔になり、伏し目がちに目を逸らし始めた。
正面に立つと、単刀直入に切り出した。
「二年の先輩に、辞めるならお前も一緒に退部を決めるよう説得を頼まれた」
その言葉を訊いた途端、俺の顔を見たと思ったら直ぐにまた目を伏せた。
「あ…あの、わたし部活辞めたくないです」
二年生から事前に訊かせてもらっていたから、予想通りの返事で驚きはしなかった。

大体、同じ一年ってだけで、よく知りもしない俺が言って辞めるくらいなら、先輩である二年生が説得した時に、当然退部を決めてる筈なんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

年下の彼氏には同い年の女性の方がお似合いなので、別れ話をしようと思います!

ほったげな
恋愛
私には年下の彼氏がいる。その彼氏が同い年くらいの女性と街を歩いていた。同じくらいの年の女性の方が彼には似合う。だから、私は彼に別れ話をしようと思う。

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

処理中です...