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10年

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ユエの遺骨をイ・ゴヌに渡してから十年の月日が流れた


先王の暴君極まりない政務によって国力の衰えたこの国を建て直そうと実の兄である先王を引き摺り下ろし、国の名を永久とこしえの春であるようにという意味を込め、【永春えいしゅん】と名付けた。
その王の名はキ・ハオ
凄腕の国王は民からの上奏じょうそうを聞き入れこの国発展を進めているまさに英雄と崇められている

という風に貴族達からは語られているが実際のところは王座を奪う際に協力した官僚達の良い操り人形となっている
その上最近は裏で何か良からぬことを企んでいると黒い噂のある臣下の娘が側室として上がり若さと美しさから王の寵愛を一身に受け、その側室が欲しいと言うものはどれだけの金を積んでも手に入れているという
政務に関わる協力した官僚貴族の進言に考えることもなく許可をする為、先王に付いていた反対派からは裏で【風に流される凧】と呼ばれている
そして、1番その凧からの被害を受けるのは民である

以前の王は貴族達よりも民の生活を1番に考えていた。

『王が王でいられるのは民のおかげ』

その言葉が口癖であった。
それゆえに良い顔をしない貴族が多く、その貴族達の手中にいた官僚や役人を使い民を苦しめた。
そうして暴君に仕立て上げられ陰謀の海に飲まれその命は消えた

暴君だと噂が広がっていたが、苦しんでいた民達の心は時折り視察に現れる先王の振る舞いをみているので先王の真心を多くの民が信じていた
噂を信じるものも勿論いたが先王の死は何かの陰謀だと語る者も多かった。
むしろ今の王は貴族官僚の良い駒で元々裕福でないこの国の民の暮らしはじわじわと苦しくなっていっている。



そんな時勢の事を知らず、メイユエは天僧寺ですくすくと育っている




「メイユエー!!!早くこいよ!!」
「待ってよソク!!」
背中に背負った籠に沢山の野草や野菜を入れて目ともに大小のホクロを付け、色素の薄い肩ぐらいまである髪をギュッと1つの団子に纏めた少年と漆黒の美しい髪をふたつに結んだ少女が走って寺まで急いでいる

「母ちゃん達が洗濯から帰ってくる前にセイ様にもらったお菓子食べるんだろ!」
「そんなに急がなくても市場に行ってお魚買ってくるって言ってたから大丈夫じゃない?」
「ばっか!そんな時に限って早く帰ってくんだよ!!今日は簡単な収穫だからって結構な量とるのに時間かかっただろ!」

寺の裏手の畑と言えども少し距離がある
2人は大急ぎで寺に向かうとそこにはセイとその奥にナウンとその夫ソハ、シウン・そして同じくこの寺に住む男が塩漬けされた魚や木綿・糸、他にも寺の修繕の為の木板等を持って立っていた

それを見てソクは後ろを走っていたメイユエに向き直る
「ほらみろ、メイユエが遅いから!!」
「え?!私悪くないもん!!」
「お前があのでかい芋を持って帰るって言わなかったら間に合ってた!!」
「それはソクでしょ!!持って帰って芋菓子にしてもらうんだー!!って言ってたじゃない!!」
「うるせー!」
「うるさいのはお前だよ!!ソク!」

小声で話していたのにどんどんと声が大きくなり、ソクが大きな声を上げるとそれより更に大きな声と一緒にナウンがソクの頭をパンッと叩く
「いてっ!」
ソクは頭を抑えて座り込む。
その横にソクの父親のソハが来てソクの頭をポンポンと撫でる

「ソクとメイユエ、ご苦労さん。」
「おじさん、お帰りなさい。」
ソハはメイユエの頭もポンポンと撫でると荷物を持って家へ帰っていった

「メイユエ、普段から手伝ってくれてるけどソクの面倒と畑仕事は大変だったでしょ?」
「母ちゃんどう言う事だよ!」
「あはは!大丈夫だったよおばさん!ソクが沢山働いてくれたから私は楽できたよ!」
「そうかい?ありがとうね。」
ナウンはメイユエの頭を撫でると市場で買ってきた魚や反物を別ける作業に戻った
ナウンの隣にはシウンが座って同じように作業している
メイユエはシウンの隣に座り声をかける

「お母さん、おかえりなさい!疲れてない?」
「ただいま、畑仕事は疲れたでしょ?ありがとうね。」
「ううん、それよりお母さんも無理しないでね。」
「そうよ、シウンさん。あんたは今あんただけの身体じゃないんだよ?身重なんだからね。」
そう言われてシウンは少し膨らんできたお腹を撫でる
「メイユエもナウンさんもありがとう。でも大丈夫。今日は調子が良いの。」
「それならいいけど、数日前まで寝込んでたんだから無理しないで」
ナウンはシウンを心配そうに見る

「ええ、これが終わったらまた横になるわ」
そう言って作業に戻ろうとした時後ろからシウンが持っていた塩漬けの魚をセイが取り上げる
「シウンさん、朝より顔色が良くありません。気分転換にと市場まで行って疲れたでしょう?ここは俺がやりますから」
「あなた・・・」
「ほらっ、旦那様のセイ様がそう仰ってるんだから!シウンさんは家で横になってなよ!」
ニヤニヤと笑いながらナウンは言った
「ナウンさん、あなたもありがとう。じゃあ横にならせてもらいますね。」

そう言うとシウンは立ち上がり家に入っていく
それを見ていたナウンはニヤニヤと笑いながら話し始める
「まったく、セイ様も隅におけないね。ここに来た時からシウンさんには少し周りと扱いが違うとは思ってたけど、まさか良い仲になって子どもまで授かるなんて!」
「とんだなまくら坊主と思われてしまうかもしれませんが、人と言う俗世に生を受けた者として後継を持つ為に婚姻は許されているのですよ」
ニコニコと微笑みながらセイは答えるとナウンは慌てたように顔の前で手を振る
「まさかそんな!なまくら坊主だなんて思っちゃいませんよ!元々この国で母と子が生きていくのに男親が居なけりゃまともに生きていけないんです。ここにいる間は良くてもいずれここから出るとなったらそんなわけにはいかない。シウンさんとメイユエの事情は詳しく知らなくても、長く一緒に居るんだからこれからも幸せに生きて欲しいと思ってるんです。だからシウンさんの旦那様がセイ様で良かったと思うよ。」

照れたように頬を掻きながら笑うナウンにメイユエとセイは暖かい気持ちになった



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