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紅華

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セイはユエを無事に寺へ連れ帰りシウンに引き渡した。

「ユエ様お待ちしておりました。」
シウンは涙を堪えながら笑いかけた

出血の酷かったユエは身体から出た体液が多く置いておくわけにもいかないのですぐに火葬の準備を始め、老師とセイは丁寧に弔った

棺のような良いものはなく藁むしろに包まれ焼かれていく
紅い炎に包まれていくユエを見るシウンの目にはもう涙はなかった
守るべき存在が新たにでき、そして目標も出来たからだろう

燃え盛る炎が少し落ち着いてくる頃、シウンはセイに話しかける
「セイさん、本当にありがとうございました。」
「いえいえ」
「老師様とセイさんにはどれだけのお礼を述べても足りません」
「老師がシウンさんを『助ける人間』だと仰いました。それは天の意思です。このご意思に従う事は私達の運命さだめなのです。」
運命さだめ・・・その運命で私達は救われたんですね。こちらにお世話になる間精一杯恩返し致します。」
「ありがたい事です。・・・老師と私は暫くこの寺に住むので、いつまででもいてくださって構いませんよ。困った事があればナウンに聞いて下さい。彼女はソクが産まれる前からここに居ます。女同士の方が何かと分かり合えることもあるでしょう。畑もありますし自給自足ですが慣れれば俗世より快適に暮らせるでしょう。」
「ありがとうございます。」
「部屋は暫く待ってくださいね。古い家屋なので修復出来るまでは表の社にある一室を使って下さい。老師と私も同じ社の別室にいるので不審者が来る事はありません。」
セイとシウンはこれからの事を話しながら火が消えていくのを見守る
その時セイがゴヌの事を思い出した

「そう言えばシウンさん、イ・ゴヌという方はご存知ですか?ユエさんの昔からのお知り合いだそうなのですが。」
「イ・ゴヌ・・・イ兵隊長ですかね。」
シウンは顎に手をやり考えてから答える
「そうです。先程ユエさんを迎えに行く際に捜索中の兵士に出会い、イ兵隊長からユエさんの火葬と遺骨を引き取りたいと言われました。」
「え?!」
「ひとまず老師と相談して後日イ兵隊長のお屋敷に向かうと伝えたのですが、シウンさんに一度聞いておかなければと思いまして。」
勝手な事をして申し訳ないとセイはシウンに頭を下げる
「謝らないでください。・・・イ兵隊長のお話は以前ユエ様からお聞きした事があります」




**回想

王様から賜った絢爛豪華な家具が所狭しと並ぶ寵姫の宮殿に華やかな衣を見に纏うユエが宮の奥でゆったりと座っている
向かいにはユエの兄が武官の姿で座りお互いに身体を気遣いあい兄妹ならではの昔話に花を咲かせていた


「お兄様が久しぶりに来てくださり本当に嬉しいです。お元気でしたか?」
「新しい部署への移動になって覚える事ばかりでなかなかこちらに来られずユエ様には寂しい思いをさせてしまいましたね。」
「ユエ様だなんてよそよそしい・・・後宮にあがる前と同じようにユエと呼んでくださいと何度も言ってますでしょ?」
「そうは仰いますが、この国の決まりを守らねば。」
「今は私とお兄様、そしてシウンだけです。私が良いと言ってるのですからせめてこの部屋にいる間は!ね?」
そう言って上目遣い気味に兄に懇願するユエに妹に甘い兄は困ったような嬉しいような顔で微笑んだ
「では・・・ユエ」
「はぁい?お兄様」
ニコニコと笑い合う兄妹は顔立ちがよく似ていて傍で見ているシウンも嬉しくなり顔が綻ぶ
「それでね!私お兄様が来たら聞きたい事があったのよ?お兄様は最近ゴヌ兄様とはお会いになったの?」
頬を少し赤らめながら食い気味に兄に聞く姿はまだまだ少女の面影がある
「ゴヌ?あ~兵隊長になってから忙しくしているみたいだ。以前会った時には外回りの兵隊長から必ず宮中の部隊に行ってお前を護ると息巻いてたよ。」
「ゴヌ兄様が私を・・・」
ニコニコと喜んでる姿に部屋の中が優しい気持ちに包まれる
「外回りの兵は怪我も多く大変と聞きます。お会いになったら怪我をしないように、あと体調を崩したりしないようにと言っておいて下さいね!もちろんお兄様もですよ!!」
「わかったよ。」
やれやれと笑う兄に後宮内では絶対に見せないような笑顔を見せるユエ

また来るよとあっという間に帰ってしまった兄を見送りシウンとユエ2人の空間になった

「ユエ様、ゴヌ兄様とはどなたの事なのですか?ユエ様のお兄様はお一人では?」
ユエの兄が帰った後ユエに疑問をぶつけてみた
「ゴヌ兄様はお兄様の幼馴染で幼い頃から沢山遊んでくれた方なの。いつも『俺がユエちゃんを守るから』と言ってくれていたの・・・私の初恋」
ユエはそう言うと少し寂しそうな顔をする

「初恋ですか・・・」
「ごめんなさい、こんな事貴女に言うべきではないわよね。」
「いえ、ここに来る前のことですし、ユエ様のお話聞きたいです!」
「そうは言っても恋と気付いた時にはにここに来る事が決まってしまっていたのよ。」
ユエは遅いわよね。と苦笑いする

「王様はとてもお優しくて好きよ。私のことをとても大切にしてくださる。色々な嫌がらせや思惑が渦巻いているけれど、叔母様である皇后様もいらっしゃる。私を大切にしてくれる方はここには沢山いる。シウン・・・貴女も」
「ユエ様・・・」
「でもね。もしももう少しだけでも早く恋に気付けていたら、ゴヌ兄様に嫁ぐことも出来たのかと考えた事もあったのよ。」
そう言ったユエは寂しそうな顔をした





***


セイとシウンは焼けた骨を骨壷にしまう
骨を拾いながらシウンはセイに話しかける
「セイさん、・・・イ兵隊長にユエ様のお骨を渡してあげて下さい。」
「良いのですか?」
「はい、イ兵隊長はユエ様の初恋のお相手なんだそうです。天に召されてしまいましたが、初恋の方の元で大切に保管されるのならユエ様もお喜びになられると思います。」
黙々と骨を拾い壺の中へ入れていくシウンをセイはじっと見る
「そうですか。ユエ様は心の優しい従者を持たれましたね。わかりました、私が責任を持ってユエさんをイ兵隊長の元へお連れしましょう。」
「ありがとうございます。」
シウンは嬉しそうに微笑んだ
「シウンさん、お骨はイ兵隊長にお渡ししますが、こちらはシウンさんがお待ちになれば良いと思いますよ。」
そう言うとセイは焼けた骨の間から花弁の多い彫刻が彫られた美しい赤い石をシウンの手に乗せた
「これは・・・」
「イ兵隊長にはお骨をお渡ししますが、ユエさんが逃げる時にも大切に首から下げておられた物のようです。これはシウンさんがお持ちになっても良いと私は思いますよ。」
そう言われて手のひらに乗ったその石をぎゅっと両手で包んだ
「・・・ありがとう、ございます。」







『ユエ様!』
『どうしたの?シウン』
『私の実家が所有している鉱山で美しい宝石が採れたのです。ユエ様にぜひ持っていただきたくて実家から送って貰ったのですが、良ければ貰って頂けませんか?』
『まぁ!!なんて鮮やかな赤なの、この花弁の多い花の彫刻もとても素敵。なんて言う花なの?』
『私の生まれ育った故郷に咲くと言われる伝説の花を彫りました。この花が咲く時苦しみは和らぎ皆笑顔で平穏に暮らせると言われる花です。紅華ホンファと言います。ユエ様の朗らかな笑顔は皆を幸せにするので掘ってもらいました。』
『素敵。・・・ありがとう。大切にするわ』


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