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セイとゴヌ

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「兵隊長!いましたか?」
「いや・・・奥はだいぶ深く、最奥まで行ったが何もなかった」

その言葉を聞いて兵士は落胆する
「そうですか。」
「そんな気を落とすな。この山は殆ど調べ尽くしただろう。一度王宮へ戻ろう」
ゴヌは兵士の肩を叩き山から出るよう促す
「あれ・・・兵隊長、目が赤いですがどうしました?」
「あ、ああ・・・洞窟の中に入ったあと松明の火の粉が顔の近くに飛んでな、目を擦ったせいだ」
「それは痛い。では早く集合場所へ戻り手当ていたしましょう。」
「ああそうだな。」

そう言うと兵士達と共にゴヌは集合場所へ移動しようとした時1人の兵士がこちらに向かってくる男に声を上げる
「あ、さっきみた僧侶の・・・」
「おや、またお会いしましたね。探し人は見つかりましたか?」
セイが兵士に向かって手を合わせお辞儀をする
「いや、まだ見つかっていない。・・・ところで先程の女と老師はどこへ?」
「私共の寺へ行きました。私は山で山菜を採ってから戻ろうと思いまして。」
そう言ってセイは背負っている籠に入った山菜や薬草を見せる
それを軽くみて納得した顔で兵士はセイを見る
「そうか、気をつけて。」
「ありがとうございます。皆様もお勤めご苦労様でございます。」
手を合わせセイは兵士達の横を歩いていく
1番後ろにいたゴヌの横を通った時ゴヌはセイを呼び止める

「僧侶様、お待ちください。」
「はい?」
セイが振り返ると同時くらいにゴヌは兵士達に声をかける
「すまない、先に行っててくれ」
「わかりました。」
ゴヌの一言に兵士達は先を歩いていく
ゴヌは兵士達が距離を取るまでジッと待ち声が聞こえない程度の場所まで行くのを見届けてからセイの方を見た

そこまで見てからセイから声を掛けた
「どうされましたか?」
「お時間を頂戴して申し訳ありません。あの、僧侶様はどちらの寺にいらっしゃる方でしょうか?」
「この山にある天僧寺におります」
「天僧寺とは・・・僧侶以外の者が近寄ってはいけないと言われている禁域にある廃寺でしょうか?」
「廃寺・・・まぁ、そうですね。そもそも僧達が修行をする為に作られている寺ですし、参拝する者も早々現れない場所です。」
「先程の者が女といたと言っていたのですが、そちらに妙齢の女と産まれて間もない赤子はおりませんか?」
ゴヌはセイにそう尋ねるとセイはうーんと悩んだような顔をして答える
「私共が助けた女性は確かに赤子を連れておりましたが、この山に来る前に助け保護を目的に連れてきた者です。赤子を抱えての仕事は骨が折れます。暫く保護する為に連れていました。先程の兵士に聞いていただければと思いますが、顔も確認して貰ったところお探しの方ではないようですよ。」
「そうでしたか。いや、申し訳ありません。」
「いえいえ、・・・あ。そうです。僧侶に対しての言葉遣いをいま一度徹底するようご指導下さい。我が師である大師となられるお方に、王が変わったことで僧への対応も変わると大きな態度をとられました。」
そう聞いてゴヌは顔を真っ青にした
「なんと!!!そのような無礼を!!死罪にしても足りません!!!」
「いえ、そんな大事にするつもりはありませんのでいま一度指導だけ。よろしくお願いいたします。」
「勿論です!!」
「・・・では、私はこれにて失礼を」
そう言うとセイはその場から離れようとするがゴヌはまた声をかける
「あっ、すみません!!まだお話が!!」
「なんでしょう?」

言いにくそうにゴヌは口を開く
「この先に奥が深い洞窟があるのですが、その奥に1人の女性が亡くなっているのです。その女性は・・・今探している者ではなく私の古い知人の家族なのです。訳あって家族皆この世にもういないのですが、まさかこんな形で彼女と会うと思わず・・・」
そう言うゴヌの声はどんどん震えてくる
涙を堪えながら話す姿は最愛の者を亡くした人間と変わらない
その姿をセイは不思議そうに見る
なぜ一回の兵がそんなに辛そうに話すのか・・・と
知人の家族にそこまで気持ちを寄せる事ができるとは、深い関係だったのだろうか・・・
そんなことを考えながらゴヌの話に耳を傾ける

「今私は彼女を弔ってやる事が出来ません。近いうちに引き取りに行きますので僧侶様に火葬までお願いしたいのです。勿論その際にお礼は致します!!家族と共に同じ場所に入れてやりたいのです」
必死なお願いにセイも悩む
シウンに必ず連れて帰ると言ったのだ
ここではいそうですか。と安請け合いは出来ない
だが目の前の男は逃げた側室としてではなく1人の女性として、知り合いとしてお願いしてくるのだ
「・・・理由はわかりました。ですが寺は禁域にございます。故に私から貴方の屋敷へ行きましょう。師匠と相談して貴方にそのご遺体をお渡しするか考えさせてください。」
「わかりました。彼女を弔ってくださるだけでもありがたい!!あんな冷たい場所に長く置いておきたくないのです。」
「そうですか・・・、ではお名前をお伺いしても?」
「あ、申し訳ありません!!私は王宮で宮廷兵士の兵隊長をしております!名をイ・ゴヌ 屋敷は都の市場に面した場所に。」
「イ・ゴヌ殿。ではまた屋敷へお伺いします」
「ありがとうございますっ!!!よろしくお願いいたします。」
嬉しそうにゴヌは頭を下げ兵士達の行った方向に走って行った



「イ・ゴヌ・・・さぁ・・・帰ったらシウンさんに相談だ。」
はぁ、と軽くため息をついてセイは洞窟へ向かう
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