転生後宮-愛する人の唯一無二になりたいと望んだのに-

みるく

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育ての母

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「育ての母・・・ですか」
シウンは老師とユエの言葉が重なり思わず聞き返した

「そうじゃ、お前がメイユエの母として育てるのじゃ」
「ですが、私なんかが・・・」
「ユエに世話が出来て嬉しいと言っておったではないか」
「それは、母としてではなくユエ様のお側で共にメイユエ様の成長を見られると言う意味で母と言う意味では」
「母というのも同じではないか」
「え?」
聞き返すシウンの隣で老師様は像にお辞儀をしてシウンを連れ外に出る

「老師様、同じってどういう事ですか?」
シウンは何も言わずに石段を降りようとする老師に声を掛けて引き留める
「母と父。それはもちろん子にとって何者にも変え難い存在ではある。血や骨を分け与え、命を与えたのだから勿論生みの親にはなれぬ。じゃが親を失った子を育てる者は生みの親と同じく『見守る』という事が出来る。」
「見守る・・・」
「そう、見守るとは実はすごく難しい事でな。人としての道を教えてやり、間違いを正してやる事。それと同時に間違いであっても一度やらせてやるという事も大切なんじゃ。人は失敗から得るものも多い。全てが正しいと限らない。間違いもあるだろう・・・だがそこで見守り支えてやる事は生みの親だけでなく育ての親にも出来る事じゃ」

石段をゆっくり降りながら老師は話す
シウンはその話を聞きながら昨日今日産まれたばかりのメイユエを思い出す

「メイユエは産まれてすぐ母を失った子じゃ。それも母の罪ではなくとも罪人として扱われた母の。もし役人や兵士がメイユエをユエの娘と知ればメイユエの将来がどうなるか・・・そなたは尚宮だったからわかるな?」
「もしも、メイユエ様が見つかり兵に連れられてしまえば、死罪。死罪を免れても奴隷として扱われる事になると思います。」
「うむ、そのような事になるのは本意ではないじゃろう。儂もそう思う。」
石段を降りきり家屋のある方へ歩いて行くと小さく人が見えてきた

「メイユエの事を思うのなら、初めからシウンの子どもとして育てるのが理想だと儂は思う。」
「私の子として・・・」
家屋の近くでナウンがメイユエを抱いて待っている
シウンと老師に気付いたようでシウンに手を振っている

「まぁ、今すぐいきなり決めろと言うのも酷じゃ、一先ずはゆっくり身体を休めなさい。」
老師はシウンの肩をポンポンと叩くとナウンに手を挙げ別の方向に進んで行った
ナウンは老師が方向を変えて行くのを確認するとシウンの方へ歩いてきた。

「えーーと、シウンさんだっけ?」
「そうです」
「シウンさん、ほら。メイユエちゃんにお乳あげておいたよ!まだ産まれて間もない感じなのに上手に吸ってたよ!」
そう言ってナウンはシウンにメイユエを渡す
「ありがとうございます。ほんとかに助かります。」
「良いんだよ。こんなに小さいのに生きようと頑張ってるんだ。大人はできる事をしてやったら良いんだよ。」
「そう、・・・ですね。」
母乳をたくさん飲んで満足したのかすやすやと寝ているメイユエを優しく見るシウンにナウンは小さな声で話しかける
「あんた・・・訳ありなんだろ?」
「え?」
突然そう言われ目を丸くすると同時に心臓が強く跳ねた
「安心しなよ、そもそもここには訳ありの人間しかいないんだ。でもあんたは他の連中よりも更に訳ありって感じだね。」
あたしも人の事言えないけどね。とカラカラ笑うナウンにまるで見透かされたような気持ちになった

「ナウンさんも、訳ありなんですか?・・・あ、ごめんなさい。気にしないでください!」
なんと返せば良いかわからず口から出てしまった言葉を慌てて取り消す
「そーだねぇ・・・色々あるよ。こんな山奥で旦那と子ども育ててんだからさ」
ナウンは何処を見ているのかわからないが昔を思い出しているような表情をしている
「まぁ、いずれ・・・ね。」
にこりと笑ってシウンの方を見る
「シウンさんとメイユエちゃんの関係とかは聞かないけど、メイユエちゃんにはあんたが母親だろうがそうでなかろうが関係ない。この子を育てるなら愛情持って育ててあげて欲しいとあたしは思うよ。母乳はあたしがあげられるから心配要らないしね!」
カラカラと笑うナウンの言葉にモヤモヤとした悩みが少し晴れた気がした
老師からの説得は勿論心に響いたし実母であるユエの言葉もあった
それでも覚悟を決めるには決め手にならなかった
乳を与えられないシウンが乳飲子であるメイユエを育てるには自信がなかった
だがナウンがメイユエを乳母となってくれる
それだけでメイユエを生かす希望が見えた
それは今のシウンにとって覚悟を決める決め手となった
「ナウンさん・・・ありがとうございます。」
「いいよ。」
「メイユエ様が健やかに育つ事が優先です。力不足ではありますが育てる者として・・・」
「あーー!!堅っ苦しいよそんなの!!」
シウンの言葉に被せるように叫ぶとナウンはシウンをジッと見る
「堅苦しいよシウンさん!」
「え、堅苦しい?」
「そうだよ、言い訳のようにしなくて良い。メイユエちゃんを産んだ実母はあんたにとっても大切な人だったんだろう。それはなんとなくだけどわかる。だから『産んだ』実母はすごい人!敵わない。それで良い。だけどあんたは実母には出来なかった『育てる』事が出来る。この子と一緒に成長してこの子が育つ度に親になれる。」
「メイユエが育つ度に親に。」
「そうだよ。メイユエちゃんと一緒に成長しなよ。産んだ人間だって初めての子は手探りなんだ、大丈夫。手伝ってあげられるし、ここにいる人間はいろんなもん抱えてるからか良い人ばかりだよ。」
「・・・そうですね。私が立派に育てます」

ナウンにそう言うと決意が固まったのかシウンの目の奥に決意の光が差した
シウンはいつの間にか目を開けていたメイユエの小さな手を人差し指で触ろうと近づける
するとメイユエはその指をギュッと握った

「よろしくね、メイユエ。私が貴女のお母さんになります。」


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