転生後宮-愛する人の唯一無二になりたいと望んだのに-

みるく

文字の大きさ
上 下
7 / 15

しばしの別れと山林

しおりを挟む
「ユエ様ぁあああああ」
「んゃぁ、ふゃぁっ!!」

メイユエを強く抱いてユエにしがみついて泣くシウンにセイが両肩をそっと掴む
「シウンさん、しっかりしなさい。今は産まれたばかりの赤子をこのような環境から安全な場所に移動させなければなりません。」
「そうじゃシウン、そなたの悲しみはわかるが今はその忘形見の赤子メイユエを無事に寺まで連れて行ってやるのが先じゃ。」
「~っ、」
老師やセイの言葉に声をグッと殺しボロボロ涙を零しながら唇を噛む
「ひとまず此処にユエを寝かせておこう、後ほど儂とセイが寺まで移してやる」
「っ・・・ぁ、りがとう・・・御座います」

本当はこんな所に一時も置いていたくないが、産まれて間もないメイユエにとって焚き火があるとはいえこの寒い洞窟は良くない
万が一にでもこの寒さでメイユエを死なせてしまったら、子を残して逝ってしまったユエに顔向けが出来ない

シウンはセイにメイユエを渡し、ユエの衣服の1番厚手の生地で出来た上着を脱がせ、近くにあった石の尖った部分で布を引っ掛けて勢いよく割いた
中綿がいくつか飛び散ったが気にする素振りもなくそれ以上綿が出てこないように折り曲げ、セイからメイユエを受け取りメイユエを手際よく包む
「姫さま、貴女のお母上様の物です。ユエ様、無礼をお許し下さい。かように冷たい所に置いて行くのは心苦しいですが、すぐに迎えにきてくれますのでしばしお待ちください」
ユエに向かって軽く頭を下げ老師とセイの方を見るシウン

シウンの顔は涙の跡が付いているが瞳は強く光を持っている
「老師様、セイさん寺に向かいましょう。必ず、必ずユエ様を後で連れてきてください」
「もちろんじゃ」
「わかりました!」

メイユエは泣き疲れたのか温かく包まれた布の中で眠っている


「では参りましょう!」
シウンが進もうとするとセイが止める
「あ、シウンさん。貴女はユエさんと共に追われている身でしたね?」
「はい、そうです。」
今さらそれがどうした?と言う顔でセイを見るとセイが背中に背負っていた荷物の中から僧侶の衣を出す
「私の洗い替えのものなので大きいですし女人が着るものでもないのですが、万が一役人や兵士に見つかってもこれを着ていればお守り出来ると思います」
さぁさ、と目の前に見せてくる
「そっ、そうは言いますがセイさん、私は女人。しかも尚宮です!男性であるお二人の前できっ、着替えなど!!!」
頬が熱くなるのを感じながらそう言うとセイはキョトンと目を丸くする

「私のですが上着ですので今の衣の上から羽織るだけで良いのですよ?」
「・・・着ます」
赤い顔のまま視線を横にふいと向けるシウンに面白いものを見たと言いたそうな顔で笑うセイ

そんな2人をやれやれと言った顔で見る老師は何事もなく寺まで着くことを祈った





「はぁっ!!っは、」
「あと半刻はんとき程で寺に着く、メイユエは大丈夫か?」
「シウンさん、頑張ってください」

洞窟から出て既に一刻いっときは歩いている、赤子を連れての山歩きは思っている以上に大変だ。
幸い熟睡しているのか寝息を確認しては胸を撫で下ろしているが、そろそろお腹が空く頃だろうと思うといつ泣くかとヒヤヒヤしている

「メイユエ様は大丈夫です。ですがそろそろお腹が空く頃かもしれません・・・っは」
「寺へ着いたらまずは乳をくれる者を探さんとな。」
「老師様その辺は心配ないかと・・・」
2人でボソボソと話している老師とセイは涼しげな顔でずんずんと進んでいく
やはり普段からの修行の賜物なのだろうか、女官ゆえに大して動いておらずシウンは日頃の運動不足が恨めしく感じる

「私が乳さえ出れば・・・」
どう考えても無理なことではあるが、女の身に産まれて子を成す事もなければ異性と愛し合い肌を重ねることすらせず死んでいくのかと、今まで一度も思ったことがない様な考えが湧き出てくる
子を産まなければ乳は出ない
でも出してあげたいと叶わぬ願いに悔しさが混ざる


グッと足に力が入り坂になっている地面を踏み込む

「そこの者達!止まれ!!!」
突然聞こえてきた男の声に心臓が跳ねた

思わず顔を見せないように下を向きメイユエを強く抱きしめる
セイはシウンの前に立ちセイと男の間に老師が立つ
声をかけてきた男は明らかにシウンとユエを追ってきた兵士だ
「何用かの?」
「女を2人探している見ていないか」
「儂らは見ておらん。その女2人とはどんな理由で兵士に追われておるんじゃ?」
「そこまで話す義理はない」
「なに、年寄りの野次馬心じゃ簡単で良い」
「・・・先王の側室とそのお付きの女官だ。宮中の混乱に乗じて逃げたようでな」
「ほう、兵士もこんな寒空の中ご苦労じゃの」

気楽な物腰で兵士に話しかけ背中に手を回しセイとシウンを先に行かせようとする老師の合図を見てそっと移動しようとする2人
そこにもう1人の兵士が後ろから近づいてきた

「おい、何故先に行こうとする。」
手に持っていた槍で先に行かせまいと阻む兵士にセイが話す
「赤子がそろそろ腹を空かせる頃なので寺まで急いでおりますゆえ」
「そこの女は尼ではないのか」
「こちらの女性は私達が旅の途中に通った村で病で夫を無くしてしまい、産まれたばかりの赤子を連れて育てるには不自由だろうと寺にて保護しようと思って連れているのでございます。」
「では何故そのような上着を着ている。・・・そういえば側室は身籠っていたな。産まれた可能性もある。そこの女顔を見せろ」
ビクッと肩を振るわせるシウン
「兵士と言えども死に別れたとは言え夫を持つ身の女人の顔を気軽に見るなどこの国の教えを知らんのか?」
老師が兵士に向かって言い放つ
「ふんっ、こちらは追い人を探しているのだ、たとえ僧であるそなたの言葉とはいえ聞けぬ事だ」
「ほう、先程から軽い口の利き方だと思っていたが、儂とそなたの身分差をわかっていてのことか」
「王が代替わりしたのだ、近いうちにその辺の身分差も変わることだろう」
「ほう、楽しみにしていよう・・・」
老師は鋭い眼光を兵士へ向けた

「おい!そこの女、顔を見せろ!!」
シウンは観念するように顔を上にあげる


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

好きな人がいるならちゃんと言ってよ

しがと
恋愛
高校1年生から好きだった彼に毎日のようにアピールして、2年の夏にようやく交際を始めることができた。それなのに、彼は私ではない女性が好きみたいで……。 彼目線と彼女目線の両方で話が進みます。*全4話

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...