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姫の名と泣き声

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「ユエ様!!ユエ様!!」
洞窟まで帰ってきたシウンと老師とセイは横になっているユエの近くに来た

「シウン・・・遅かったな・・・」
ユエの顔色はあまり良くなく息苦しそうにシウンを見ている
赤子は今は眠っているようで胸が上下に動いている
「申し訳ありません。川で水桶を探しておりました所こちらの義光老師様と弟子のセイさんと出会い、こちらの洞窟からお二人がこれから修行に使われる寺で匿ってくださるとの事でお連れしました。」
「そうか・・・はぁ・・・義光老師様とセイ様、私はユエと申します。」
「ふむ、ユエ様はシウンから聞いた通り非常に高貴な顔相をお持ちのようじゃの、まるでこの国の国母に近い相をしておる」
「老師様は顔相がんそうを観る事が出来るのですか?」
ユエは驚いたように目を見開いた
「ユエ様、顔相とはなんでしょう?」
「顔相とはね、」
「顔相とは手相などと同じく顔をみる占いですよ」
ユエよりも先にセイが話す
「占いですか。」
「師匠の顔相はそんじょそこらの人間とは違って外れることなどありませんよ!」
「・・・そうか、では誤魔化すことも難しい事ですね、私はこの国の王様の側室貴嬪ユエです。国母など恐れ多い事ですが、その国母は私の伯母なのです。」
青白い顔でにこやかに笑いそう答えるユエに老師はそうか。と答える
「えらく顔色が良くないようだ、側室様に触れるのは僧である儂でも失礼となる事ではあるが、診させてもらう事は出来るかの?大した事は出来んが脈診くらいなら儂にも出来よう」
「老師様は、医術にも精通していらっしゃるのですね・・・っ、それではお願い出来ますか?私はもう側室ではなくこの子の母です。 この子には、母が居なければいけませんゆえ」
「承知した、ではセイ。鍼の用意を」
「はい」
老師とセイはユエが横になっている隣に座り込み脈を測る

「・・・・」
老師は何も言わずにセイが広げた沢山の種類の鍼の中から細くて長い鍼を取りユエに1本2本と刺す

「っ・・・」
痛みで少し顔を歪ませるユエをシウンは心配そうに見つめる

「ユエ様、かような場所では産後のお身体に触ります。少し休んでお身体が落ち着いたら私がおぶりますゆえ共に寺へ参りましょう。」
そう言ってユエの手に触れるとひんやりと冷たい
ドクンと嫌に鼓動が跳ねる
「ユエ様、お身体が冷えておりますね、帰ってくる途中に燃えやすそうな木を持って帰ってきたので温めましょう」
「シウン」
「今日は冷えますからこんなに寒くては姫様にも良くありませんね、申し訳ありません」
「シウン。」
ユエがシウンを呼ぶ
シウンの目は潤み鼻が赤い
「・・・シウン、お前に私の・・・王様と私の可愛い娘を頼みたい」
「何を言うんです。ユエ様らしくありませんよ。共に寺に参りましょう」
ぽたりと膝の上に涙が落ちる
先程から気付かないようにしていたがユエの下半身のあたりの衣服が赤黒くじっとりとしている
「シウン・・・お願い。お前にしか頼めないの。っ、育ての母となって欲しい。」
手を挙げることすらしんどいはずのユエはシウンの膝に置かれている手にそっと触れる
「・・・お前が水を汲みに行ってる間にこの子の名を考えていたの・・・っ、・・・王様と初めて夜を共にした時の月がね、今まで見た中で一番綺麗だったの・・・っ、はぁ、」
ゴホッゴホッと空咳が出始めるユエをじっと見つめるシウンは一言もユエの言葉を聞き漏らさないように静かに相槌を打っている
「この子には、っ、そんな美しい月のようになって欲しい、・・・まるで天から舞い降りた天女の如く人を愛し、そして愛する人からの愛を独り占めできるようなそんな幸せな人生を送ってもらいたいの・・・っ」
私のような後宮の争いに巻き込まれないような・・・と付け加え苦笑いをする

「シウン、ごめんなさいね。せっかく逃がしてくれたのに・・・お前の幸せを願うこともせず、こんなお願いを頼んでしまって」
「そんな・・・私は、ユエ様の尚宮で本当に良かったと思っております。こんなに可愛らしい姫様のお世話までお願いして頂けるなんてっ・・・っ本当に、本当にっ、~~~っ、ユエ様・・・」
笑って話したくても、涙が止まらず嗚咽が混じる
共に笑い、時には叱られたり叱ったりとまるで姉妹のように接してくれたユエとの思い出が蘇り懐かしさと同時に悔しさも沸いてくる
宮中でキチンと産んでいればこのようなことにならずに済んだ、こんな粗末なところで産みこんな粗末なところで天に召されて良い方ではないというのに・・・

「シウン・・・そろそろ・・・別れが近いようだ・・・、美月メイユエ・・・メイユエを抱かせて欲しい・・・出来れば本来叶わなかった初乳を与えてやりたいの」
「ユエ様・・・勿論です」
シウンはセイにお願いしてユエの上半身を持ち上げ座る体制にして後ろから支えてもらい、セイは目をギュッと瞑る
そこにシウンがメイユエをユエの腕を支えてゆっくり乗せ、ユエの胸元をはだけさせてメイユエにユエの乳首を咥えさせた
生まれたばかりだというのに懸命に母乳を吸おうと吸い付く姿にユエは顔を綻ばせる
「可愛い・・・そなたを置いて逝く母をどうか許して欲しい・・・本来後宮にいればそなたにこうやって乳を与える事も出来なかったと思うと、ここで産めて私は幸せ者だ。・・・っ可愛いメイユエ・・・どうか、幸せに・・・」
ユエの身体が急に重みを増す
セイがグッとユエを支えシウンはメイユエを乳首から離し抱きとめる

「っっっ!!!ユエ様ぁあああああ」
シウンの泣き声とそれに驚いたのか母との別れを悟ったのかメイユエの泣き声が洞窟内に反響する

セイはゆっくりユエを寝かせ自分の着ていた上着を身体に掛けると老師と共に手を合わせ経を唱える












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