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幸せだと思ってた
しおりを挟む「はるくん!起きて!」
朝は6時に起きて朝の支度。
6時半頃から夫を起こして朝食を出す。
夫が食事してる間に私は夫が仕事に行く準備。
スーツに付いた埃を取ったり作ったお弁当を鞄にしまったり。
ゆっくりとスマホを眺めながら食事をとっている夫の側をバタバタと動く私。
桜 舞32歳
高校の同級生で彼氏だった夫と付き合って4年後プロポーズを受けて結婚。
もうすぐ結婚10年。
子どもは欲しいけれどいまだに縁がない。
それでも夫とこうやって2人で暮らしていければ良いと思っているし、まだ32歳なんだから子どもは諦めてない。
夫の春人はちょっと子どもっぽいし手を焼くこともあるけれど長年一緒にいる私に甘えてるんだろう。
「まいー水入れて」
「はいはい、春くんの隣に置いてるんだから自分で入れてくれても良いのよ?」
なんてやり取りは日常茶飯事。
この人は私が居ないとダメね。なんてちょっと上から目線で見ちゃう時もある。
時々友達に話すと
「え?!忙しくバタバタしてる妻に自分の隣にある水を入れさせるの?!流石に甘やかしすぎ!!」なんて言われちゃうけどこのルーティンをもう10年やり続けてるから今更変えることなんて出来ない。
何より今更いきなり辞めたら夫はきっと怒るだろう。
「いってらっしゃい」
「今日は同期と飲み会だから遅くなると思う。」
「はーい、あまり飲み過ぎないでね。」
そう言っていってらっしゃいのキスを唇に落とす。
これも毎朝のルーティン
全く不満がないわけではない。
でも私は恵まれている方だと思う。
高校で初めて出来た彼である夫に何もかも捧げてそのまま結婚なんて今どきなかなか叶うものでもない。
外で仕事をせずに家の事をしてくれと言う夫の希望で専業主婦をさせてもらって、流石に時間が余るからと趣味の裁縫でネットショップを開いて少しだが家計を支えている。
こんな充実した毎日を過ごせている私が感じる不満なんて、愚痴る方が罰当たりな気がする。
そう感じていた。
その日の晩、夫のスマホを見てしまうまでは。
『まゆはうちのクソ嫁と違って旦那さんの事とかほんと頑張ってるよ』
『嬉しい(T-T)♡私春くんのお嫁さんだったら幸せだったのに。』
『俺たちほんと気が合うよ、マジで結婚したい♡』
『私も♡大好き♡今日のホテルすごい綺麗だったからまた行きたい♡』
『もちろんまた連れてくよ。愛してる』
暗闇に眩しいくらい光る画面
メールのやりとりを開いたまま眠ってしまった夫のスマホ画面を見てドクンドクンと全身が脈打つ。指にも心臓が付いてるのかと思うくらい震えてる。
まって・・・
まってよ・・・
同期と飲み会で飲み潰れたからってすぐ寝たよね?
心臓が痛い
ねぇ、ねぇ、嘘だよね?
ホテル?
結婚?
旦那さんって事は相手も既婚者?
パニックになりながらもどこか冷静で、やり取りの写真を撮って送信先の相手の名前を確認する。
-まゆ
「中田まゆ・・・」
夫の会社のバーベキューで見かけた事がある。
夫の同期。
小柄で華奢な身体に似合わない大きな胸を見せつけるような服装をしていた可愛らしい顔立ちの人。
「どうして・・・」
絞り出すように出てきた言葉は掠れていた。
今すぐ叩き起こして罵ろうか、それとも泳がせようか・・・
そんな風に考えていたら一睡もできなかった。
「朝・・・支度しなきゃ・・・」
窓を外の光を確認してベッドから立ち上がる。
きっと私が見たことを責めたら春人は謝ってくれるだろう。
一時の気の迷いだった、本当に愛しているのはお前だけだと。
「10年以上一緒にいたら目移りしてしまう事もあるよね・・・」
目玉焼きを焼きながら1人呟く。
同じように10年以上一緒にいても私は浮気しようなんて、不倫しようなんて思わないけど。
「ぁ・・・6時50分」
起こさなきゃ、そう思って春人が眠ってる寝室へ行く。
気持ちよさそうに眠る春人の顔を見てメールのやりとりを思い出す。
クソ嫁
マジ結婚したい
愛してる
馬鹿にしてる・・・
「私のこと・・・馬鹿にしてる・・・」
そう思ってしまえばさっきまで自分を慰め奮い立たせようとしていた気持ちはどこかへ行き、普段は優しく起こしていた春人へ怒鳴るように声をかける
「起きなさいよ!!!春人!!!!」
ビクッと体を震わせて目を開ける春人
「っ・・・まい?・・・どうした?」
寝ぼけている春人に枕元にあったスマホを投げる
「浮気したわね!!?昨日の飲み会も嘘だったのね!!!!」
自分でも驚くほどの声量で、深夜に見てしまったものへの不満が泉のように溢れてくる。
きっと慌てて謝ってくれる。
きっとこれで浮気をやめて改心してくれる。
私は怒鳴りながら心で思っていた。
謝ってくれたら許そう。
だけど春人から出てきたのは違った。
「はぁ・・・で?だからどうしたいの?お前の奴隷として10年働いてきた俺を束縛するつもり?」
「・・・ぇ?」
酷く冷たい目で私を見る
「だから、浮気したから何?お前がさ、普段から女と一緒は嫌ーとか俺のやりたい事とか全部束縛して来てさ、家の事しか出来ないくせに偉そうに俺のやる事に口出すからこうやって俺を理解して俺を好きでいてくれる人間と仲良くしてんの。何が悪いわけ?」
そう捲し立てる春人に言い返したいのに、思っていた状況と真逆の事に反論の言葉を失った。
「ぁ・・・」
「ほら、都合が悪いとすぐだんまり。お前のそう言う所ほんと嫌い。しばらくほっといてくれよ。ちなみに離婚したってお前生きてけないだろ?何にも出来ないんだからさ。偉そうに俺に文句言わないで黙って家のことしてろよ、ウザすぎ。」
嘲笑うように話す春人は私の好きな春人と違った。
不倫に頭がおかしくなってしまったのだろうか。
謝るどころか逆にスマホを見たことを気持ち悪いと怒られた。
朝からの口論は長かったような気がしたけれど20分ほどだったようで春人は自分で自分の用意を全て終えて食事をとることなく仕事へと行ってしまった。
「お前が作ったものとか気持ち悪すぎて食べられない。金が勿体無いからもう俺の分作らなくて良いから」
そう捨て台詞を吐いて
春人が出勤してから私は何も手に付かず勝手に流れてくる涙を拭く事もできなかった。
今までの思い出が蘇ってくる。
喧嘩も沢山したけど楽しい事だってたくさんあった。
「なんで?どうしてなの?」
そう泣き叫んでも返事は返ってこない。
その日から私はいらないと言われていたのに変わらず食事の支度をして変わらず夫の世話を焼いた。
嫌われないように、浮気をやめてもらえるように。
だけど私が怒鳴った日から春人の態度は目に見えて悪くなった。
不機嫌を隠す事なく大きな足音を立てて歩き大きなため息、食事は少し手をつけるもののほとんど残す。
相変わらずスマホを手放さず私が後ろを通ると舌打ちをして
「俺に近寄るな!!!」と怒鳴る。
腫れ物を触るように世話をする。
そうするとどんどん私が悪いからだと思い始めてきた。
だけど納得ができない。
そんな思いがまた沸々と湧き上がってきた。
そして、私は寝ている春人のスマホを手にとった。
きっと自分の精神状態がおかしくなっている。
暗闇で光る画面
メールの1番上には
「・・・まゆ」
今日も春くんかっこよかった♡
給湯室でこっそりキスってドキドキしちゃうね♡
なんかえっちな気分になっちゃったから早く土曜になってほしいなぁ
土曜はホテルでイチャイチャしようね♡
「土曜日・・・ホテル」
思わぬ情報を手に入れて私の心臓は全身に響くほど脈打った。
応援ありがとうございます!
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