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龍の閃光の日
しおりを挟むガサッガサッ
「はぁっ・・・はぁっ、」
「ユエ様、頑張ってくださいっ!!」
「痛っ・・・はぁはぁ、」
「探せー!!!早く見つけるのだ!!!」
「もうすぐ日が暮れる、早く見つけろ!!!」
「あっちの方から音が聞こえるぞ!!!」
「早く見つけて捕えるのだ!!!廃王の子を身籠っている女だ!!!」
「生きて捕えろ!!!早く探せー!!!」
夕暮れの空が辺りを赤く染めている時ガサガサと獣道もない山林を鎧を着た屈強な男達が長い棒の先に槍が付いている武器を振り回し草を刈りながら進む
大きな声で1人の女を追いかけている。
追いかけられている女は大きな腹を抱え息を殺すように体を丸めながら走る。
その隣には女よりも10は年上の女が抱き抱えるように共に走る。
男達が話していたように女は暴君として民を苦しめた先王の寵姫だった
先王の異母兄弟に首を討ち取られ、皇后と皇太子は先王と同じく斬り殺された
20人以上いた側室達は殆どは自害または斬殺先王のお気に入りだった3人の寵姫のうち2人は新たな王に寝返り新王の側室に入った。その多くの側室の頂点にいた寵姫、貴嬪ユエ
支えているのはお付きの女官
「痛っ、・・・はぁ、はぁ・・・っっ!?」
「ユエ様、あと少し、あと少し辛抱してくださいまし!!あっ、あそこの洞窟で一休みいたしましょう!!」
そう言って宮女は大きな岩で出来た洞窟を指差す
「はぁ、はぁ・・・すまぬな、シウン」
「お腹のお子様がもうすぐ産まれてくると言うのに私に気遣いなど良いのです。さぁさ、こちらに。」
シウンと呼ばれた宮女とユエは洞窟に入っていく。
入り口近くで兵士に見つからないようにシウンは背中に背負っていた荷を下ろす。
そこには蝋燭や火を起こす為の道具が入っており近くにあった木の枝に布をくくり付け松明を準備する。
「しばしお待ちくださいませ。今火を起こしますゆえ。」
「はぁ・・・痛っ、すまぬ・・・」
シウンは松明に火をつけユエを支えて奥深くに歩いていく
「以前誰かが居たのでしょうか、そこに焚き火の跡がありますね、使っていない枝もあるようですのでこちらで休みましょう。」
「っっぐっ・・・痛っっ!!」
「ユエ様!?」
ユエは苦痛に顔を歪ませ地面に崩れる
「ぅうっ、お子が・・・産まれるようだ・・・」
そう言うとユエはチラリと自分の足元が濡れているのを確認する。
「は、破水!!どうしましょう!!まだお産は2月先ですのに!!」
「ぐっ・・・ぅぅうっ」
「はっ、ユエ様ゆっくり深呼吸なさって下さい、こんな事もあろうかと宮廷医女にお産の流れを簡単に聞いておりました。私がお子様を取り上げましょう。」
そう言って上着を脱ぎ焚き火の近くにあった藁の上にシウンの上着をかける
「粗末で申し訳ありませんがこちらに横になって下さいませ」
「ふぅー。シウン、本当にありがとう」
「ユエ様とお子様の為ですもの!私にお任せください!まずは深呼吸から始めましょう。痛みが強くなったら自然と力が入ると聞いております。ひとまずこちらの清潔な布を口に咥えてくださいませ。」
「わかった」
ユエは深く深呼吸をして次の痛みに備えている。
しばらくすると痛みが強くなってきたのか呼吸が荒くなり眉間に皺を寄せ始めた
「うっ・・・んっっ」
「ユエ様、頑張ってください、シウンが付いておりますゆえ!!」
「ふんっ!!!!っっっぐっ・・・はぁっはぁっ」
「あぁ・・・医女にもっとキチンと聞いておけば良かった」
痛みが逃げたユエは口布を外しシウンの方を見る
「シウンっ・・・み、水を」
「は、はいっ!!今」
そう言って竹で出来た水入れの蓋を開けユエの口にあてる
「んっ・・・はぁ、・・・お産とは、なんとも痛く苦しいものなのだな。」
「そのようでございますね。ですがユエ様はお強いお方です、きっと乗り越えられましょう。ユエ様ご希望のお姫様ですよ、きっと。」
「ああ、・・・そうだと嬉しいな。」
日が暮れどれほどの刻が経っただろうか、なかなかお産が進まず苦しみ体力が奪われていくユエにシウンはどんどんと顔が蒼くなってくる
「いつになったらお子様がお産まれになるのでしょう・・・ユエ様のお身体が持たなくなってしまいます。」
目に涙を溜めながら震える唇に手をやりシウンはそう言う。
***
「師匠!見てくださいよ!!」
「お前に言われんでも見えとるわ馬鹿者」
夜空を指差し星のように瞳を輝かせながら師匠と呼ばれた老人を呼ぶ男が山林の崖近くに来て空を見上げている
空には沢山の星が流れていた
「今日があのお告げの日か」
「慈愛の天女かぁ・・・」
「お告げの通りに天女が産まれれば泰平の世となるであろう。それは貧しい民にとってほんに良い事じゃ」
「本当ですね。俺も泰平の世で贅沢な暮らしが出来るって考えたら今から楽しみで仕方ないです!」
「馬鹿者!!修行の身で贅沢など御法度じゃ、お前は泰平の世が訪れても一人前になるまいて」
師匠と呼ばれた老人はフンッと鼻を鳴らしまた夜空を見上げる
体格の良い男は苦笑いして同じように空を見上げる
「さぁ、一休みしたらこの山にある寺に暫く篭って修行じゃぞ」
「・・・はい。」
***
「ふーーーっ!!ふーーーーっ!!!」
「ユエ様!!!あっ、あたま!!!頭が見えております!!!もう少し、もう少し頑張ってくださいませ!!!」
「ふーーっっ!!ッッッ!!!んーーーーーー!!!!っっっはぁ!!!はぁ!!!はぁ!!!」
「あああ!!もうすぐ、もうすぐお生まれになられますよ!!ユエ様!!もう一度!!もう一度頑張ってくださいまし!!シウンもお手伝い致します!!」
「はぁ、はぁはぁはぁ・・・っっ、んーーーーーーーッッッ!!!!ぅあああああああ!!!」
…ほゃあっほぎゃぁっほゃぁっ
「っっ!!!ユエ様ッ!!!おめでとう御座います!!!お姫様です。おめでとう御座います、よく頑張られました。」
「はぁ、はぁ・・・そなたのおかげだ、シウン・・・本当にありがとう。」
「そんな・・・勿体無いお言葉です。 ささっ、お姫様をよくご覧くださいませ。」
シウンは持ってきていた絹の布で産まれた赤子を包みユエの隣に寝かせた
「見て・・・目元が王様にそっくり」
「本当ですね、可愛らしいお顔に王様のような威厳を感じさせる目元。そしてお美しいユエ様の面影がありますね。とても可愛らしいです。」
「うふふ、ほんとに可愛い。姫、名前は貴女のお父上から貰いたかったのだけど、それが叶わなくなってしまったから今から考えましょうね。」
ポロリと涙を流し笑うユエにシウンは胸を締め付けられる。
「っ、近くに水がないか探して参ります!姫を洗って綺麗にしてあげなくてはいけませんので!」
「だめ、まだ兵がこの近くにいるかもしれない!!」
「大丈夫ですよ!この暗闇です、居たとしてもうまく隠れてみせます!ユエ様はお疲れでしょう。ゆっくり休んでいてくださいませ。」
「じゃあ・・・本当に気をつけるのよ」
「はい。」
そう言ってシウンは洞窟を出た
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