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浮気相手と夫と
しおりを挟む土曜。
今週末の土曜に女に会う。
「・・・こっそり着いて行こう。」
そう思って私は春人のスマホを元に戻し眠りについた。
それから土曜日までは普段通り春人への態度を変えずに家事や世話をした。
春人は日に日にまた私に世話をさせて当たり前のように食事をとるようになった。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
いつもの出かけ前のキスのルーティンはなくなった。
キツく当たられる態度とか、こうやって無くなってしまった触れ合いに別れる!!って強い態度を取れずに悲しみしか出てこない。
そんな自分まで最近は嫌いになってきている。
子どもが居たら変わっていたんだろうか・・・
いや、子どもがいてもする奴はするよね。
むしろ子どもがいないだけ不幸になる人が少なくて良かったと思おう。
そう自分を奮い立たせてできるだけ普段通りに過ごす。
土曜日
朝から春人は鏡の前でせっせと身だしなみを整えている。
「今日友達と遊ぶから帰らないから。」
「わかった。」
友達じゃなくて女でしょ、そんな風に言ってやりたい気持ちをグッと抑えて春人を見送る。
パタンとしまった扉を見てから大急ぎで外に出る準備を始める。
春人のカバンのポケットに忍ばせておいたカード型のGPSをスマホで確認する。
「思ってるより近そう・・・」
タクシーを使おうかと思っていたけどGPSが指し示す先は徒歩15分程の場所。
「こんなに近くで浮気してたって言うの?」
ぼそりと独りごちて歩いてその場所に向かうと単身者用のマンション。
流石に部屋番号まではわからないのでいつ出てくるのかわからない2人を待つなんて出来ない。
脳内で浮気相手とのバトルを想像していたのになんだか肩透かしをくらったような感覚に少しがっかりしたようなホッとしたような気がした。
「こんなに近いならまた来たら良いか・・・」
そう思ってマンションから背を向けた時
「はるくんとお買い物嬉しい♡」
明るくはしゃぐ女性の声が聞こえてきて思わず振り返るとそこにはさっき出て行ったばかりの春人と胸元を大きく開けた身体のラインがピッタリ出るワンピースに身を包み春人の腕にぴったりと身体を寄せている浮気相手のまゆ
「まい・・・俺をつけて来たのか?」
一瞬驚いた顔をした春人はその後すぐに私を強く睨む
「春人・・・なんで」
なんで?どうして?そう言葉を続けるつもりが声を遮られた
「あらぁ、はるくんの奥様じゃないですか?お久しぶりですー」
可愛らしい顔を勝ち誇ったようなニヤついた顔にして話しかけてくる。
「私とはるくんの関係が奥様にバレてると聞いたので近いうちにご挨拶にお伺いした方が良いかなって思っていたんですが、はるくんがそこまでしなくて良い俺がなんとかするって言ってくれてたんです。でもせっかくこうやって来てくださったなら改めてご挨拶させて下さい。」
そう言いながら春人に絡めていた腕を外し私の目の前にまゆが立つ
「専業主婦の奥様には酷なお話かと思いますが、はるくんを早く解放して下さい。はるくんは私と一緒が良いって言うんです。」
「っっ!!!」
その言葉についカッとなり手を上にあげてまゆの顔に振りかざす、私の手のひらとまゆの頬が当たるギリギリの所で春人が私の手首を掴み止めた
「やめろ!!!まい!!!」
「離してっ!!!」
大きな声で怒鳴る春人に対抗するように叫ぶ私に、マンションの住人が窓越しから見ているのがわかった
「・・・場所を変えて話そう」
春人はそう言うと私の手首から手を離す
「はるくん、奥様もお家の事で忙しいんだからわざわざ場所を変えて話さなくてもいいわよ♡どうせもうすぐ私達一緒に住むから引っ越しするし」
「まゆ、頼むから少し黙ってくれ」
嬉しそうに離すまゆに煩わしそうに春人が言うがまゆは止まらない
「どうしたのはるくん?いつもあんなに奥様の束縛が酷いとか色々言ってるじゃない。まゆが1番好きだ、結婚しようって言ってくれるでしょ?」
「人が出て来てるから・・・頼む」
春人はまゆの手を取り場所を変えようとするがまゆがそれを拒み私に向き直る
「奥様。まゆはね、今1番ストレスを感じたらダメなんです。だから話し合いなんてしませんよ。」
その言葉にドクンと心臓が大きく脈打つ
今ストレスを感じたらダメなんです・・・
「・・・それって、まさか」
やめて、これ以上聞いたら私が私でなくなる気がする。
ずっと私が欲しかったもの。
春人との・・・
「ここに、まゆとはるくんの赤ちゃんがいるんです。だから奥様、早くはるくんを解放してください。」
そう言ってお腹にそっと手を充てるまゆに頭の奥が痺れてくる。
「っ、まゆ・・・それ、ほんと・・・なのか?」
春人もはじめて知ったのか目を見開きまゆに尋ねる
「そうだよっ!!本当は今日の夜にサプライズしたかったけど・・・っ、こんな形でっ、、ッッ」
そう言ってまゆは目に涙を浮かべる
「まゆ、その話はまた後でゆっくり話そう」そう言ってまゆの肩に手を置いた春人は私の方を見る
「・・・まい、あの・・・」
「春人・・・この人と避妊もせずに・・・」
その先が出てこない、いや出せない。
この日までに何度もシュミレーションしていた流れよりももっともっと衝撃的な事が起きてしまって私の思考が追いつかない。
「・・・ごめん」
「っ!!!」
がくりと頭を下げながら謝る春人。
最近見せてきていた酷い態度と違う行動に、まゆの言っていることが現実だと言われている気がして思わず走りだす
「まい!!!!!」
結局私が言いたかった事何ひとつ言えずにこうやって走って逃げた自分に嫌気がさす
「死にたい・・・もう、死んでしまいたい」
この人しかいないと思って今まで春人に尽くしてきた。
愛する人に好かれたくて、ずっと愛して欲しくて家が1番の安らぎの場所だと思ってもらいたくて色々努力してきた。
昔からモテるタイプだった春人は女友達も多かったからヤキモチもたくさん妬いたし、もしかしたら私が思ってるよりも春人には負担をかけさせていたのかもしれない。
でも、それでも・・・
「こんな仕打ちっ・・・酷いっ」
パーーーーンッ!!!!
住宅街を抜けて十字路に着いた時耳につんざくようなクラクションが聞こえた
「まい!!!!!」
後ろから春人の声が聞こえる、振り返ろうとした時横から乗用車が急ブレーキをかけながらぶつかってくるのが見えた。
車を運転している人の驚いたような絶望感を含ませた顔がよく見える。
ドンッ!!!!
さっきまで十字路の先が見えていたはずなのに陽が高い青い空しか見えない。
追いかけてきていた春人の方を見たいのに身体は空中に浮いてるのか思い通り動かない
ゆっくりゆっくり世界が回って見える。
これが走馬灯的なものなのかな?
愛されたかったなぁ、たった1人の人に。次生まれ変わったら絶対・・・絶対浮気しない人と結ばれたいな・・・
そんな風に思っていた瞬間全身に強い衝撃を受けて私の世界は真っ暗になった、、
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